1/11
0
「――ぱぱ、それなぁに?」
小さな身体を懸命に伸ばし、テーブルに置かれた木板を指さす幼い女の子。
その父であるグリファトは、娘の可愛らしさに鼻の下を伸ばしながら優しく頭を撫でた。
「これはな、〈ステータスボード〉だ」
「すて、たす?」
まだちゃんとした発音で言えない娘は、グリファトの言葉に首を傾げている。
少女の視線はグリファトの手に握られた、薄い木板に向けられていた。そこには少女にはまだ分からない文字が整然と並んでいる。
側に来た娘を自らの膝に乗せた。大きな瞳でジッと見つめる娘のライラの小さな手に、グリファトはステータスボードを渡す。
「そうだ。大きくなったら、ライラも貰えるぞ」
「ほんと⁈」
嬉しそうにパァッと表情を輝かせたライラは、ニコニコと機嫌良くグリファトのステータスボードを抱えた。
その価値が理解できていなくとも、「自分の物」を貰えるのが嬉しいお年頃。
自分似のワイン色の髪をフワフワと揺らしながら、今は亡き妻似のラピスラズリの瞳を瞬かせるライラに、グリファトは締まりのない笑みを絶やすことはなかった。