あの夏のハルシャギク 3
「すずちゃんとりんちゃんってふたごなんだー!」
「本当にそっくり!かわいいー!」
「いいなぁ、うらやましい!」
小さい頃から、らんとはずっと一緒にいた。
何処に行くのも一緒。
着ている青いワンピースも、下ろした長い髪の毛も、全部一緒。
初めはなんとも思わなかったけど、友達ができるとだんだん煩わしく思えてきた。
「ねぇ!らんちゃん!」
「らんじゃないよ、すずはすずだよ。」
「えー!?そっくりだからわかんなかった!」
「どっちがどっちかわからないね!」
その言葉が、五歳の幼心に突き刺さった。
誰も私を見てくれていないように感じた。
私はすず、妹はりんなのに。
どっちがどっちかわからないなら、私がいる意味があるのかなんて思ってしまっていた。
いつも一緒でいることが、なんでも同じであることが、嫌になってしまった。
本当に、バカだよね。小さい頃の私。
結構暗くて、ネガティブ思考。
そんな私を変えてくれたのが、ちりちゃんだった。
「始めまして!私は花澤ちりっていうの。よろしくね。すずちゃん!らんちゃん!」
五歳の夏、引っ越した家の隣に住んでいたのがちりちゃんだった。
暖かくて、可愛くて、優しい笑顔。
その笑顔にドキッとしたのを今でも覚えている。
「へぇー!双子なんだね!そっくり!可愛い!同じ服着てるのも可愛い!」
また、その言葉だ…
この頃は母親から与えられたお揃いの服も、同じ髪型も、私は大嫌いなのに。
「でもよく間違えられるでしょ?」
「うん!でもふたごだから!すずとらんはいつも一緒なの!」
ニコニコしながら答えるらんに少しイラっとした。
いつも一緒って、まるで呪いみたい。
私は嫌だよ、一緒は。
だって、私は私なのに…すずとらんは違う人なのに…
「あ!そうだ!お母さん!すずちゃんとらんちゃんを私の部屋に入れてもいい?」
「勿論いいわよ。仲良く遊びなさいね。」
「うん!ほら、おいで!」
私たちはちりちゃんに手を無理やり引っ張られ、ちりちゃんの部屋に招かれた。
その手はあの笑顔と同じくらい暖かくて…
私を導いてくれた、優しい手。
「はい!これで間違えられないね!」
「…何これ?」
鏡を見ると、頭にについた赤いリボンが目に入った。
「うわぁ!可愛い!」
「でしょでしょ!らんちゃんはツインテールが似合うと思ったんだよね!」
すずは青いリボンの髪留めでツインテールになっていた。
「すずちゃんはね、長い髪も似合うけど短いのも似合うと思うんだ!」
幼い私は、その笑顔に射抜かれてしまった。
すずは短い髪型と赤いリボンが似合う。
らんはツインテールと青いリボンが似合う。
初めて、私とらんを違う人間として扱ってくれたのがちりちゃんだった。
「お姉ちゃん!これかわいいねぇ。」
「う、うんっ…」
「気に入ってくれたならあげるよ!」
ちりちゃんはわたしの特別。
その笑顔も、温かい手も、このリボンも、全部わたしの宝物。
「あのね、ちりちゃん…これからも、遊んでくれる…?」
「勿論だよ!いつでも遊びにおいで!」
あの夏、私は確かに恋をした。
夏の日差しよりも暑く、燃え上がるようなこの気持ちは私の中でなくなることはなかった。
引越し先でも、双子であることが嫌になることもあった。
また似てるねとか、どっちかわからないと言われることもあった。
でも、ちりちゃんがくれたこのリボンが私の支えになった。
だってこれは私、すずに似合う赤のリボンだから。
会えなかった期間も、ずっとちりちゃんに会うことだけを考えていた。
何処の高校に行ったかを調べ、この学校を受験した。
嫌いな勉強も、ちりちゃんに会うために頑張った。
いろんな場所を探して、クラスメイトがちりちゃんらしき人を見かけたと聞き、次の日あの中庭に訪れた。
「ちりちゃん!私と結婚して!」