オムライスと共に 3
「…なんでいんの?」
「それはこっちのセリフだよ!ここのお店、すずの従妹の家なの。」
「つまり母の兄が営んでる洋食料理店なんです。」
へー…ごめん、聞いといてなんだけどその情報死ぬほどどうでもいいわ。
私も驚いているが、お母さんも開いた口が塞がらないご様子だ。
一瞬すずらん母に助けを求めるために呼んであるのかと考えたが、その可能性は低そうだ。
「あ、私ここ座っていい!?」
私たちの返事も待たずに、すずは私の隣に座り出した。
…マジでコイツ空気読む能力が欠けてるな。
「あのね、すず。私たち大切な話あるから帰って。」
「え!?この店にいるのダメなの!?」
「うん、帰って。出来ることなら私の視界に入らないで欲しい。」
多分コイツがいると話が進まない…!
目の前に座っているお母さんも怪訝そうな目ですずを見ている。
色葉一家ではない、すずのみを見ている。
「すず、邪魔しちゃダメだろ。」
それに気づいたのかおじさんがすかさずすずを回収した。
「すみませんね、すずが邪魔しちゃって…僕たちは一番奥の席で食べよう。」
そう言いながらおじさんはお店の一番奥のソファー先を指さした。
うん、確かにそこなら邪魔されないだろう。
それにこの双子に会話内容も聞かれたくない。
「そうね、じゃあ夏美さん。またお食事でも。」
「ええ、また。」
夏美さんが現れても、お母さんは顔色一つ変えなかった。
お母さんと会って、一つ疑問が生まれた。
なぜこの人は私と暮らすことに執着しているのだろう。
そんなに一緒に暮らしたいのなら、なぜ私の前で笑顔の一つも見せてくれないのだろう。
「ねぇ、何で私と暮らしたいの?」
「何でそんなこと聞くのよ。」
「だって…私はとても貴方が私に愛情を持ってるとは思えない。」
再会から三十分ほど経っているが、私は彼女から一つの笑顔もひとさじの優しさすら見ていない。
とても一緒に暮らしたいと言う人の態度ではないと思う。
「はぁ…悪かったと思ってるわ。あの時のこと。」
「…」
やっと表示を崩したお母さんはため息をつきながら右手で頭を抱え出した。
あの時のこととは、多分例の口喧嘩のことだろう。
「冷静じゃいられなかったの。分かるでしょ?」
「…わからないし、わかりたくもない。」
だとしても言っていいことといけないことがある。
冷静じゃなかったら、何を言っても許されるの?
冷静じゃなかったら、自分の子供をいらないと言っていいの?
そんな理屈、分かりたくもない。
「…わかった、正直に言うわ。私彼氏と別れたの。」
「…」
…母親の恋愛事情、あまり聞きたくないんですケド。
「結婚まで考えてたんだけどねぇ…まぁそれはいいのよ。」
いやお前が話し出したんだろ。
「私ももう46だし、新しいパートナーを作れないでしょう?作れたとしても子供は産めないわ。」
「だから何?」
「私の世話をして欲しいのよ。まぁ料理洗濯…諸々の家事よ。」
予想外…いや、何となく予感はしていた。
彼女の冷酷な表情を見た時から、何となく予感はしてきた。
「…つまり、私は家政婦ってこと?」
「まぁそう取れるわね。安心して、私は今でもバリバリ働いてるから貴方の学費や生活費くらい出せるわ。」
「だったら家政婦さんでも雇えばいいじゃん。」
「赤の他人が家に入ってくるの嫌なのよ。」
「…ふざけないでよっ!」
怒りが頂点に達した私は机を思いっきり叩き、立ち上がった。
周りの視線などお構いなしに、私の言葉は止まらなかった。
「それじゃあ私があんたと暮らす意味ないじゃん!」
「あるわよ、血の繋がった親子だから安心して任せられるんじゃない。」
「違う!そうじゃない!」
「何よ、あんただって得するじゃない。バイトも辞められる上に学費だって払ってもらえる…WIN-WINの関係じゃない。」
この言葉を聞いて、私の頭は冷静さを取り戻した。
冷めたのだ、彼女の言葉で私の怒りが。
ああ…この人には何を言っても無駄だ。
私の想いなど理解もされないだろう。
だったら…
「…帰る。」
「何でよ、まだ話も終わってないし、ご飯も食べてないじゃない。」
「話すことなんてない。今日あったことは全て忘れてください。」
冷たい言葉がスラスラと溢れた。
「じゃあ、さよなら。」
「ちょっと!待ちなさい!」
今日初めて声を荒げた母親を無視し、私は走りながら店を出た。
店を出た後も駅に向かって走り続けた。
空腹なのに、不思議と走る力はみなぎってくる。
…あ、オムライス食べとけばよかったなぁ。
走りながら鳴り続けるお腹を押さえ、そんなことを思った。




