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あの夏のハルシャギク 2

「ねぇねぇちりちゃん!」

「うるさい。静かにしろ。」

「えー…デートっぽくない…」

「デートじゃねぇ。お前が勝手についてきただけだ。」

「けち…!」


腰に手を当て、頬を膨らませるすずは可愛い声を出しながらちりに話しかけ続けた。

その辺の男だったらきっとすずにメロメロになるのだろうが、ちりはすずの言葉に冷たく返事をし続けた。


あの後もちろん帰ろうとしたが、家をバレる方が危険だと察知したちりは、妥協に妥協を重ね、二人で本屋に行くことになった。


新しい小説を買おうと思ってたから、別に犬の散歩くらいの感覚で良しとしたけど…

コイツがうるさ過ぎて、本に集中できない。

やっぱ一人で行くべきだった…


学園周辺にある大きな本屋。

この学園の生徒になって六年、ちりはずっとこの本屋を愛用している。

何度も訪れたことのある小説のコーナーを今日も行ったり来たりする。

気に入ったタイトルの本を手に取り、あらすじを読み、面白そうだったら買う。

それがちりの本を選ぶスタイルだ。


「気に入った本、見つかった?」

「お前のせいで集中できん。」

「じゃあ今ちりちゃんの頭の中はすずでいっぱいなんだね!?嬉しいなぁー…」


う、うぜぇ…!

今までは何とか堪えていたが、もう限界だ…

ちりの抑えていた感情が顔に出てきた。

…だめだ、こんな状態で本なんて選べない。

改めてまた行こう…


「ちりちゃん、本当に本好きだよね。」

「うん、好き。お前は嫌いだけど本は好き。」

「うわ、ひっどーい。」

「事実じゃ、ぼけ。」


本屋を出て、駅に向かう道のりでもすずはしつこくちりに話しかけ続けた。

ちりも内心うざいと思っていたが、返事をし続けた。

無視をしても、面倒くさいことになるのが目に見えてるからだ。


「はぁ…ちりちゃん変わったよね。」

「だからそう言っただろ、私は変わったって。」


ちりは深いため息をつきながら話す()()と目線を合わせていなかった。

本屋にいた時もそうだ、ちりはずっとすずの方を見ていなかった。

すずはそのことを気にかけていたが、めげずに話しかけ続けた。


「でも、すずはどんなちりちゃんでも好きだよ。」

「私は嫌いだ。一人でいるのが好きなんだ。」


その言葉を聞いて、すずは寂しくなった。

ちりは変わった。

昔はもっと、明るくて、優しくて…

勿論、どんなちりでも大好きだ。

すずは自信を持ってそう言える。

でも、何故?何が?

どうして彼女は変わってしまったのだろう。


「大体、私の何処がいいわけ?何で好きなの?すずならイケメンと付き合えるのに。」


ちりはまたふざけた口調で返事をされるのだろうと思い、軽い口調で聞いてみた。

だが、なかなか返事は返ってこなかった。

不思議に思ったちりは隣にいるはずのすずが少し後ろで立ち止まっていることに気付いた。

心配になったちりは、すずのもとに駆け寄り、彼女の顔を見て、声をかけた。


「どうした?私、変なこと聞いた?」

「うん。」


ちりはギョッとした。

いつになく真剣なすずの顔に驚いたのだ。


ちりの中で、すずは笑顔の絶えない子だという印象だった。

それは昔も、再開した今も変わらなかった。


すずからの真剣な目線に戸惑ったちりは、また彼女から目を逸らした。


「確かに、私は可愛いよ。中学も共学だったからそれなりにモテたよ。」


自分で言うなよ。とツッコミたくなったが、すずの声が重く、真剣になったのを感じたちりは言葉を飲み込んだ。


「ちりちゃんは…ずっと、私を見てたから。」

「…は?」

「ずっと、昔から、すずのことを見てくれてたから。」


すずはいつもの笑顔とは違う、少し寂しそうな笑顔をちりに向けた。


その顔を見たちりは、再びすずと目線を合わせた。

ううん、違う…

ちりは彼女から、目線を離せなくなってしまった。


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