あの夏のハルシャギク
「花澤さん!詳しく聞かせて!」
「いつから付き合ってるの!?」
「ちりちゃん!早く行こうよ!
「ちょっとすず!ちりちゃん、すずなんかほっといてらんと映画行こうよ!」
ちりの右腕はすずに、左腕はらんに引っ張られ、いつの間にか二十人近くに増えたクラスメイト達はちりに質問を投下し続けた。
ちりの体内時計ではこの状態が一時間近く続いてい流ように感じた。(実際は五分)
そして六分が経とうとした瞬間、ちりの中で何かがきれた音がした。
「う、うわぁぁぁぁぁ!!!」
「えっ、花澤さん?」
「「ちりちゃん!!」」
ちりは両腕を振り払い、クラスメイトの輪を飛び出した。
要約すると、ちりは走って逃げ出した。
ぼっちのちりに、この状態が耐えられる訳がなかった。
何なんだ、あのクラスメイトは。
大して仲良くもないのに、ヒーローインタビューみたいな事しやがって!
何なんだ、あの双子は。
傷ついてないかと心配してたのがバカみたいじゃん。
何事もなかったように私に近付いたんだぞ!?
はぁ…なんで静かに過ごせないんだろう…
走り続けて、何とか学園を脱出したちりは後ろを確認した。
よかった…誰も追ってきてない…
…まぁこんなヤツ、普通は追ったりしないよな!うん!
安心しきったちりは、歩いて駅に向かおうとしたその時だった。
「あ!ちりちゃん見つけた!」
「え!?すず!?」
目の前には赤いリボンの女の子が息を切らしながら、私を指差し、道を塞いだ。
間違いない…彼女は双子の姉のすずだ。
「な、なんで…あんたまだ学園にいるはずじゃ…」
「ふっふーん!私の運動能力を舐めないで欲しいな!」
すずはドヤ顔を決めながら鼻の下をかくという、古臭い自慢げポーズを決めた。
そんな彼女をちりは冷めた目で見ていた。
な、なんだ…こいつ…
私が知らない間に昭和のアニメにでもハマったのか…?
それよりすずは、私の全力疾走に対しても先回りできるほどの俊足なのか…
知らなかった…そんなに足早かったんだ…
ちりはすずの成長を喜ばしく思ったが、同時に絶望した。
(…じゃあコイツから逃げるのは不可能じゃねぇか。)
私も一応足速い方なんですけど…
「あんた一人?らんは?あんたらいつもセットじゃないの?」
「ちょっとちりちゃん!私といる時に他の女の話しないで!」
ちりはぷりぷりぶりっ子のように怒るすずに怒りの感情が芽生えた。
面倒くせぇ…早く帰らせてくんねぇかな…
「いや他の女って自分の妹だろ。」
「妹とだけどライバル!敵手!対敵!エネミー!」
「ボキャブラリーを見せつけるな。」
ツッコミも面倒くせぇ…!
帰りたい帰りたい帰りたい!
こんな奴の相手するくらいならする方がマシだわごらぁ!
「さぁ行こうよ!」
「ちょっ…!行くってどこに!?」
ちりの右腕はまたすずにとられ、引っ張られそうになったところを慌てて振り払った。
「カフェ!」
「行くか!」
ちりは満点の笑顔でカフェと叫んだすずの提案をソッコーで切り捨てた。
「えー、なんでよぉ。」
「私はこれから家に帰って小説を読む。」
「じゃカフェで読めばいいじゃん!」
「そんなインスタ映えを気にする一軍女子がいくような空間ぼっちの私が行ったら死ぬわ!」
「…何語?」
「日本語だわ!私とじゃなくてらんとかクラスの友達とかと行けばいいだろ!」
「えー!?私は今日、ちりちゃんとデートしたいの!」
「私は帰る!兎にも角にも帰るからな!」
また走って逃げようとしたが、追いつかれる未来が見えているので、ちりは話しかけてくるすずを無視して歩き出した。
「えー!ちりちゃーん…行こうよぉ…」
「…」
「ちーりーちゃん!聞いてるぅ…!」
「…」
「…このままお家までついてっていいの?」
「やめろ!このストーカー女!」
…私の穏やかなぼっちライフはどうなってしまうんでしょうか。