ちりと茉鈴と 2
「うん、分かってくれたなら許してあげる。」
「はいはい、ありがとーございます。」
「あ、でもひとつだけ聞いてもいい?」
「何?」
「お兄ちゃんと、連絡とってるの?」
「…取ってない。」
「何で?お兄ちゃんのことはまだ家族と思ってるんでしょ?」
やっぱり私、茉鈴の事嫌いだ。
こうやって図星をついてくるんだもん。
「お兄ちゃんは…離婚が決まった時何も言わなかったの。」
「…」
「止めなかったし、文句も言わなかったし、ただ2人の言葉に頷くだけだった。」
「そっ、か…」
「私は…お兄ちゃんのことまで、嫌いになりたくない。」
お兄ちゃんが何を考えていたのか分からない。
元々一人暮らしをしていたから離婚を決まってから会うこともなかった。
私はもう、家族を嫌いになりたくない。
だから私は、お兄ちゃんに会う選択肢を捨てた。
「じゃあ私帰るね。茉鈴は?」
「私はまだ仕事あるから。また明日、ね?」
「うん…また、明日。」
懐かしい日々が再び始まる。
あの頃と同じように挨拶を交わし、私は生徒会室を出た。
もう夏はすぐそこまで来ている。
夏休み…何しよう。
…いや、その前に進路決めなきゃ。
我が学園の生徒は基本的にはエスカレーター式で大学に進学する。
ごく稀にいる就活生は夏休み明けには動き出していると聞いた。
私も、進路を決めなくてはならない。
なりたいものが無いわけではない。
でも…あの人たちのお金は使いたくない。
私のつまらないプライドが将来を潰している。
そんなことはわかっている。
わかってはいるけど、心が受け入れてくれない。
「あ、ちりちゃーん!」
「げ、すず。」
「そのげってやめてくれない?わたしだって傷つくんですけどー!」
あどけなく笑うすずに何だかホッとした。
さっきまで流れていた重い空気が一気に吹き飛ぶ感じがした。
「これから帰るの?」
「そう、すずは?」
「私はまだ部活。トイレしに校舎きただけ!」
「…体育館のトイレ使えばいいじゃん。」
「だってあそこのトイレ臭いんだもん!」
「トイレに失礼。」
ああ、なんか安心する。
私、意外とこの双子の前では友達のように振る舞えていたのかもしれない。
「じゃあ戻るね!」
「うん。」
「あ!今度ね、試合あるの!ちりちゃんが応援してくれたら絶対勝てると思うの!だからきてよ!」
「へー、絶対行かない。」
とは言え、こいつらに対する警戒は変わらない。
こいつらと恋愛関係に発展する気は一ミリもないのだから。
さて、私もさっさと帰ろう。
今日のご飯どうしようかなぁ…
なんて下らないことを考えながら校門をくぐろうとした時だった。
「うわぁ…あの人かっこいい!」
「誰だろ…もしかして誰かの彼氏!?」
「カッコいい…ジャ◯ーズみたい!」
キャーキャー騒いでいる女子生徒の視線の先には男の人が立っていた。
女子校に男子が来るだけでも我々に取ってはビッグイベント。
しかもイケメンということで騒いでいるのだろう。
無視してとっとと帰ろうとした矢先だった。
よく見たらその顔に見覚えがある。
少し着崩した半袖のワイシャツ、怒っているようにも見えるキレの長い目、スマホ片手に黒髪をかきあげている。
さらによく見ると口元がむすっとしている。
あ、多分本当に怒ってる。
それに絶対この顔、見覚えがある。
このタイミングで現れるか、普通!?
これがフィクションの力ってやつなのか!?
現実じゃこんなのありえねーからな!?
とにかく彼に気づかれないよう、私は女子たちの群れに紛れながら帰ろうとした時だった。
「あ!ちり、いた!」
「…!?」
この声は間違いない。
流石フィクション、称賛しよう。
すっかり目がハートマークになっている女子の群れをかき分け、彼は私の目の前に立った。
彼はよく感情が顔に出る。
今だってむすっとした口元から怒りを隠せていない。
「お前、帰るの遅すぎだろ!どんだけ待ったと思ってるんだよ!」
「お、お兄ちゃん?話は後で聞くからとりあえずここから退散しよ!?」
校門の前でイケメン…かどうかは知らないけど男の人と話してたら面倒くさいことになる!
今だって女子生徒の視線が私に突き刺さっている。
2人はどういう関係なんだ?あのイケメンは何者なんだ?もしかして付き合ってるのか?
嫌でも視線から質問がわかる。
この半年の私の人生濃すぎないか…!?




