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訪れの鈴蘭 4

「じゃ、気をつけて帰れよー」


担任の林田はパイプ椅子に座りながら、めんどくさそうにSHRを締めた。

ちりの学園生活史上、最悪の担任の林田だが唯一の良い点はSHRが短く、すぐに帰れるところだ。


さっさと帰って昨日読めなかった小説でも読もうと思っていた矢先のことだった。


「花澤さん!」

「えっ何?」


荷物もすべてまとめ、自席を立ち上がった瞬間のことだった。

クラスメイトに捕まってしまった。

最悪だ…さっさと帰りたいのに…


大体、コイツは私に何の用なんだ。

ちりは嬉しそうでも、困ってそうでも、怒ってそうでもないクラスメイトが次の言葉を発するのを待った。


「教室の扉の前に花澤さんのこと呼んでる子がいるの。一年生の双子…かな…?」

「はぁ!?」


一年生の双子。

その恐ろしい言葉にちりは思わず叫んでしまった。

話しかけてきたクラスメイトはびっくりしたのか、目をまんまるくして、ちりを見た。


「えっ…?」

「あ、な、何でもない…その、ありがと、ね?」


いけない…思わず叫んでしまった…

なんとか会話を終え、用件の済んだクラスメイトはすぐに私から離れ、他のクラスメイトとの会話に交じった。


ちりは怖くて扉のほうを見れなかった。

下を向いたまま、机の一点を見続けた。

お願いします、すずらんじゃありませんように…!

この学園の一年にすずらん以外の双子が存在してますように…!


意味のない祈りをしながら、ちりはゆっくりと扉のほうへ顔を向けた。

ちりの視界には扉の前に恐る恐る立っている双子が映った。

勿論ちりの願いなど受け入れてもらえず、そこにいたのはすずとらんだ。


ほ、本当にすずらんだった…

な、何でここにいるの…!?

私のクラスのSHRは他のクラスと比べると、とても短い。

それに一年生の教室から三年の教室まではそれなりに距離がある。

第一に私、すずとらんにクラスを教えてない…


こっわ!なにこれ、ホラー!?

アイツら本当に何者!?


ちりの頭の中はパニックに陥った。

すずとらんはちりが自分たちの存在に気づいたと分かり、笑みが溢れていた。


「ちりちゃーん!」

「ちょっとすず!やめなよ!三年生の教室だよ!?」


嬉しくなったのか、らんは思わず教室に響き渡るほどの声で叫んでいた。


(マジかよっ…やな予感しかせんっ…!)


こ、こうなったら脳内会議(サミット)を開くしか…!


「え、可愛い!双子?」

「ちりちゃんって、花澤さんの事だよね?」

「もしかして知り合い?妹とか?」

「かわいい〜!こっちおいでよ!」


だがもう手遅れだ。

脳内会議(サミット)を開く前に、すずの声に反応したクラスメイトの注目がちりと双子に集まった。


(最悪だ…最悪の事態だ…)


ちりの脳味噌はまだパニックの中にある。

早く会議(サミット)を開いて、この状況を打開しなければ…!


「えっ…入ってもいいんですか?」

「勿論だよ!一年生だよね?」

「ありがとうございます。ほら、すずもちゃんとお礼言って。」

「ありがとうございますっ!ここがちりちゃんのクラスかぁ…!」


だが、クラスメイト達は会議(サミット)スタートを待ってはくれなかった。

歓迎ムードですずとらんを教室に招き入れた。

招くな!そいつらを招き入れるな、クラスメイト!

そしてすずらんはうっとりするな!

別にただの教室だ!教室に入れただけでうっとりした顔をするな!


「ちりちゃん!一緒に帰ろ!」

「らん達迎えにきたんだよ!早く帰ろ!」


ニコニコした顔で私に話しかける双子がちりは怖くて仕方なかった。


だってクラス教えてないんだよ…?

この短時間でどうやってクラス調べたんだよ…

しかも他のクラスSHR中だよ?

もしかして抜け出してきたとか?


「花澤さん、もしかして妹?」

「え、あ…ち、がう…」

「二人ともそっくりだよね!双子?」

「そ、だけど…」


気がつくとすずとらんだけでなく、クラスメイトが5、6人ほどちりの周りに集まってきた。


(ひ、ひぃ…帰りたい帰りたい帰りたい…)


何これ、私今カツアゲされてんの…?

目立ちたくないのに、一人でいたいのに…

私は静かな学園生活を送りたいのに…!

思わず猫背になったちりは俯いたまま、もう何も話せずにいた。


「ちりちゃん!今からすずとデートしよ!駅前のカフェ行こう!パンケーキが美味しいんだって!」


そんな陽キャが集まるようなキラキラ空間いけるわけないだろ。

…え、今デートって言った?


「らんは映画館デートがいい!今流行ってる恋愛映画見ようよ!」


そんな甘ったるい生クリームみたいな映画はつまらなくて見れん。

…え、今デートって言った?


顔を上げてすずとらんを見ると、相変わらずキラキラしたスマイルでちりの顔を見ていた。

嫌な予感が全身に伝わってきた。


「ちょっ…デートってなに言って…」

「え!?もしかして三人はそういう関係なの!?」


ちりの周りにいたクラスメイトの一人がクラス中に響く声でそう言った。


「ち、違っ…」

「マジかっ…!花澤さん彼女いたのか…!」

「だから違っ…」

「しかもこんなに可愛い双子が彼女なんて羨ましい〜」

「だから話を…」

「花澤さんってそういう事に興味ないのかと思ってた〜」


勝手に盛り上がっているクラスメイト達にちりの声が届くわけがなかった。


次第にちりの周りには人が増えていき、騒ぎが大きくなった。

もう収集がつかない事態と言っても過言ではないだろう。


(だめだ…もう何を言っても無駄な気がする…)


盛り上がるクラスメイトの輪の中心にいるちりとすずらんだが、三人を置き去りにして、話はどんどん盛り上がっている。


「ちりちゃん!すずといこ!」

「だめっ!ちりちゃんは私と一緒に行くのー!」


しかしすずとらんはそんなこと気にも留めないで、ちりへの猛アピールを続けていた。


(さよなら…私の平穏な学校生活…)


そしてちりは全てを諦め、何かを悟った顔ですずとらん、クラスメイト達をただじっと見つめていた。


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