映画は大画面で見るべし 3
「いやぁぁぁ!無理無理無理無理!」
「あ、頭….パカって…パカって…」
パニック状態になっているすずは突然立ち上がり、部屋の中を走り回った。
らんとおじさんは口を開けたまま、凍りついている。
私とおばさんだけが平然とした顔でテレビの画面を凝視していた。
うーん…この監督はやっぱりストーリーがいいよなぁ…
ホラー映画でここまで感動したのは久しぶりだ。
それぞれがホラー映画を満喫したところで画面からエンドロールが流れた。
ビビりまくっていた三人はエンドロールが目に入ると、ホッと安堵のため息をついた。
「ちりちゃん、ホラー映画好きなの?」
エンドロール中、お好み焼きを頬張る私におばさんは目を輝かせながら話しかけた。
「はい。特に好きなのはゾンビものです。」
「私も好きなのよ、ホラー。先週も一人で見てきたのよ。」
な、なんだってぇー!?
思わぬところでホラー仲間ができてしまった。
しかもおばさんが先週見た映画とは、昨日私が見る予定だったがすずらんに邪魔されて見れなくなった映画だった。
「是非ネタバレしない程度で感想を教えて下さい!」
「そうね…オープニングの死体がぐちゃぐちゃに…」
「わー!それ以上はやめてよ!」
これから盛り上がるってところですずが慌てて会話にストップをかけた。
「すずもう限界!ホラートークやめてよね!」
「お、お父さんも反対だ…!」
「そうですよ!人の嫌がることはしない、団体行動の基本です!」
三人はニュースでよく見るデモのように私たちの行動に右手を突き上げ、反対した。
この三人の言動に対し、人間関係面倒くさい人間の私も流石に反省した。
だがしかし、この人は違った。
「何よ、だったら貴方達自分の部屋に戻りなさいよ。私はちりちゃんとホラートークしてるから。」
おばさんは三人に虫ケラでも見ているような目を向け、机に肘をつけた右手であっちにいけとジェスチャーをした。
「わ、わかったよ…」
おばさんのその一言で、三人はリビングから立ち去った。
…流石、母は強しだな。
私は思わず苦笑してしまった。
「さーてと…邪魔者も消えたし、お話ししましょうか?」
人間関係に興味のない私は人一倍人間に敏感なのだ。
おばさんはニコニコしながら、私と向き合う形になるよう席を移した。
私は見逃さない、おばさんの空気が少し真剣味を帯び始めたことを。
なんとなく、察した。
これはホラートークどころではなさそうだ。
「…重要な話ですか?」
「あら、察しがいいのね?」
おばさんはアニメに出てくる魔王のような不敵な笑みを私に向けたが、すぐに真剣な顔持ちになった。
少しだけ、鳥肌が立った。
どうやら真剣なお話しらしい。
ゆっくりと深呼吸をし、身構える。
「お母さんと、連絡とってる?」
「…」
おばさんは意地悪だ。
私が一番話したくない話題を振ってきた。
返答に迷った私は返事の代わりに目を伏せながら小さく首を振った。
「お父さんとも?」
私は同じように首を振る。
目を伏せたせいでおばさんの表情が分からない。
おばさんは何を思ってこの質問をしたのだろう。
おばさんの表情を読もうと思ったが、私はこの話題をおばさんの目を見ながら展開できる自信がないので諦めた。
「…心配しないで下さい、何とかやってますので。」
体感5分、実際は5秒の沈黙を破るため、私は小声で呟いた。
おばさんはその声をしっかり聞き取り、ため息をついた。
空気が重い。
もうホラー映画とお好み焼きで得た幸福はとうに消えていた。
ぼっちを始めて三年。
これほどまでに帰りたいと思ったのは久しぶりだ。




