映画は大画面で見るべし
「いらっしゃいませ。お品物お預かりします。」
はぁーぁ…夕方のスーパーって本当に混むよねぇ…嫌になっちゃう…
ゴールデンウィーク2日目、私はバイトに明け暮れていた。
両親からの仕送りがないわけではない。
だけどそのお金には頼りたくないという私のつまらない意地からバイトを始めた。
と言っても学費とかどーしてもの時は親のお金を使ってるんだけどね…
「3659円になります。」
レジ打ち、袋詰めなんてもうお手の物。
その辺のパートのおばさんよりはやく出来る自信がある!
「お次のお客様おう…はっ!?」
「やっほー、ちりちゃん!」
カゴの中身はチョコレート、シュークリーム、クッキー…おお、これは甘いものフェスティバルだな。
どんな人が買いに来たのだろうと気になり顔を上げた自分を殴りたい。
気付きたくなかった…何でこんなところに居るんだよ…!
レジ越しにいたのはらんらんと輝く目を向ける色葉すずだった。
「何であんたがこんなところに居るのよ。」
「ちりちゃんバイト何時上がり?」
「話し聞け、クソガキ。」
「ガキじゃないでーす!」
…私ここでバイトしてること教えてないんだけどなぁ。
というかバイトしてることすら教えてないのに何故ここがわかったのか…
…
うんやめよう、考えるの。
私はコイツらが何処で情報を得ているのかを考えることをやめた。
「はい、合計853円です。」
早く帰って欲しい一心でレジを打った。
多分今世紀で最速のレジ打ちだったよ、私。
YouTubeに乗せたらコメ欄荒れるレベルよ、マジで。
「実は今日、お好み焼きするの。ちりちゃんもよかったらこない?」
お、お好み焼きだと…!?
…いやいや!2日連続で食べ物に釣られるわけにはいかん。
それに今日はテスト勉強もしなくてはいけない。
「お母さんとお父さんがね?ちりちゃんに会いたがってるの。」
「おばさんとおじさんが?」
そーいえば引っ越して以来会ってないなぁ…
懐かしいなぁ…家が隣だから毎日のように顔を合わせてたなぁ…
…やべ、どんな人だったか全然思い出せない。
やばいな、私の記憶力。
「どーせちりちゃん一人で寂しくご飯食べてるんでしょ?一緒に食べようよー。」
「寂しくない。今日はレンタルした映画見るから。」
「じゃあ一緒に見ようよ!私の家のテレビ大きいよ!」
…それは少し惹かれるなぁ。
やっぱり映画は大画面で見たい…
うちのテレビの大きさ、昆虫図鑑と大して変わらんもん。
「ねーねーいいでしょー?」
「いいよ、あと三十分で上がるからフードコートで待ってて。」
映画とお好み焼きには勝てん。
テスト勉強はまた明日やればいいや…
…
「お待たせ、ごめんね。遅くなって。」
「ぜーんぜん!」
バイト終わりに家により、私たちはすずらん宅へ向かおうとしていた。
大画面で映画が楽しみすぎて3本も持ってきちゃった…
やっぱり映画は大画面で見ないとね…!
「ちりちゃんこんなボロボロのところに住んでたんだね!」
「ボロボロとか言わない。失礼だから。」
「ねぇねぇなんで一人暮らしなの!?」
すずは興味津々の顔を私に向けた。
コイツは本当に元気だなぁ…
私はバイトでクタクタなのに…
一人暮らしの理由…
そっか…コイツら知らないのか。
「なんとなくよ、何となく。」
「そーなの?貧乏暮らし、嫌じゃないの?」
「貧乏じゃねーし。」
もう夕日が沈みかけている。
駅に向かう私たちは消えかけの茜色の道路を辿った。




