ゴールデンデート
春風とは少し違う、初夏を感じる風が中庭に吹いている。
もう五月かぁ…
この一ヶ月、死ぬほど長かった…
今までの学校生活はぼっちでいることにだけ体力を使っていた。
しかし!この一ヶ月はそれだけではなかった。
すずらんからの逃走、雑用係、千紗との遭遇、球技大会などなど…
本当に疲れた…私はこんな思いをする為に学校に来ているわけではないのに…
疲労のせいか、ツナマヨがいつもより美味しく感じる。
やっぱりここでのお昼ご飯は落ち着く…
目に優しい自然の風景と風に運ばれてきた花の甘い香りが私の心を癒してくれる。
そして美味しいツナマヨと本!
これこそが昼休みだよっ!私の楽園、唯一のオアシス!
しかも明日からゴールデンウィーク!
学校に行かなくて良い日!サイコー!
早くおうちに帰りたい…!
最高のおやすみが私を待っていてくれている…はずだった。
はずだったのに…!
「あっ!ちりちゃんだ!」
「花澤先輩、奇遇ですね。」
…何故こうなる。
私は自分の運のなさに失望した。
ゴールデンウィーク一日目、私は二週間後にある中間テストに向け、勉強をしていた。
だが、ノートが切れたので買い物に来た。
ついでに映画でもみようかなとショッピングモールに来たところ、すずらんに遭遇してしまった。
「なんでいるの…」
私はゴミでもみるような目で二人を指差した。
私がそんな顔をしているのに、二人は笑顔を絶やさずに私の質問に答えた。
「ショッピングだよ!服とかコスメとか!」
「私は参考書を買いにきました。」
…やっぱり似てるけど似てない。
太陽みたいな笑顔で子犬のようにはしゃぐすずとお嬢様のようか優雅な振る舞いと落ち着いた微笑みをするらん。
私の知っている二人は性格もそっくりだったはず。
私が変わったように、きっとこの二人も変わったんだ。
そう思うと少しだけ寂しく感じる。
「ねぇねぇ!せっかくだから一緒に回ろうよ!」
「嫌です。用が済んだら私は帰ります。」
「花澤先輩はどんな用事でここに来たのですか?」
「なんでも良いでしょ。」
「よくないっ!教えてよー!ちりちゃーん!」
「うるさい!」
映画見たいなんて欲張らなければよかった…
大人しく近所のスーパーに行ってればよかった…
映画は諦めてさっさとノート買って帰ろう。
映画は帰りにレンタルでもしよう。
「そーいえばちりちゃん!この前はよくもコテンパンにしてくれたね!」
「は?なんの話?」
「球技大会!忘れたの?」
あー…あったな、そんなこと。
すっかり忘れてたわ…
「私のクラスメイトたちが花澤先輩の噂をしてましたよ。カッコいいって。」
「え、マジ…?」
「マジです。カッコいい先輩って言っていましたよ?」
嘘だろ…私目立つの嫌いなのに…
…これは今後対策が必要になるかもな。
「え!?らん、それ本当!?ライバル増えるじゃん!何やってんの!」
「私のせいじゃないです。すずが負けたのが悪いんでしょ。お陰で私までちりちゃんと春休み過ごせなくなったし…」
「それは勝手に勝負に乗ったらんのせいでしょ!?」
…ショッピングモールで姉妹喧嘩?
恥ずかしくないのか?
現に今も周りのお客さんがちらちらこちらを見ている。
…うん、私が恥ずかしい。
今のうちに帰ろう…
「ちりちゃん!行くよ!」
「はっ!?」
すずに逃げようとしたのがバレ、右手首を力強く掴まれた。
い、痛い痛い痛いっ!
コイツ力入れすぎだろ!
「花澤先輩、一緒に遊んでくれたらお昼ご飯奢ります。」
「私が物に釣られるとでも?」
余裕の微笑みを向けてくるらんを私は鼻で笑った。
お昼ご飯ごときで釣られるような私ではない。
「回転寿司とかどうですか?」
「っ…!」
す、寿司…だと…!?
…そういえば久しく外食してないな。
今月の生活費の底が尽きかけている今、私一人の力で寿司を食うのは不可能…
しかしコイツらに付いていけば確実に面倒くさい上に自分の時間が奪われる…
ううっ…!究極の選択…!
「ちりちゃん、デザートもつけてあげる。」
「分かった。ついていこう。」




