訪れの鈴蘭 2
第二回花澤ちり脳内会議:議題【突然同性にプロポーズされた時の対処方】
ちり2『これは厄介なことになったな…』
ちり3『ううっ…私はただ普通に、穏やかに生きてきただけなのに…』
ちり2『もしかしてドッキリじゃねえか?』
ちり1『あんな純粋無垢な恋する乙女の顔した顔が演技なわけない…ぼっち歴二年の人間観察力がそう感知してるわ…』
ちり2『演技がうめぇだけかもしれねぇだろ。』
ちり1『…お、お姉ちゃんを騙すなんて…二人は…いつの間にそんな反抗的に…ぐすっ…』
ちり2『いつまでも姉貴面してんじゃねぇ!今の私たちにとってあいつらはこのぬくぬく平穏ライフを侵略しようとしている敵だぞ!?』
ちり1『そ、そうね…失礼、冷静さが欠けていたわ。』
ちり3『い、胃が痛い…』
ちり4『うーん…でもさ、とりま断わるしかなくね?』
ちり1『うん、そうなるわね。』
ちり3『でも二人が泣いちゃったらどうするんです…?』
ちり1『うっ…なるべく二人を傷つけずに断る方法の提案をお願いします…』
ちり5『わかった!走って逃げればいいんだ!』
ちり1・2・4『貴様は二度と発言するな!』
「あ、はは…もー…二人とも冗談きついなぁ…そ、それにほらっ!お、女の子同士で結婚はできないでしょ?それに私たちまだ高校生だよ…?」
ちりはなんとか笑顔を作ってすずとらんにそう言った。
う、うん…やんわり断れてるよね…?
「大丈夫だよ!ちりちゃん!フランスに行けば結婚できるよ!」
「らんはオランダがいい!ちりちゃん!心配しなくて平気だよ!」
(は…?何言ってんのこいつら。)
ちりは思わず真顔になりそうな顔を必死に堪え、喉から飛び出そうになった言葉なんとか抑えた。
こいつら今フランスって言った?オランダって言った?
え、バカなの?やんわり断ってんじゃん!察しろよ!
「ちょっとらん!ちりちゃんは私と結婚するんだよ!?」
「はぁ!?らんと結婚するに決まってるでしょ!?」
「何よ!このブス!」
「それ悪口じゃなくてただの自虐だから。」
「顔じゃなくてらんは心がブスなのよ!」
「そっくりそのままお返しするわ!」
(なに、これ…)
すずとりんはいつの間にか、ちりなど気にせずケンカを始めた。
そんな二人の様子をちりは思わず地べたに座り込み、口を開けたまま見ていた。
何…このラブコメの主人公的シチュエーション…
てか私、女なんですけど…
まぁ中学から女子校に通ってる身としては女の子同士の恋愛なんて取り分け珍しい訳ではない。
ただ自分がその対象になっていることに驚きが隠せない。
しかも妹のようにかわいがってた幼馴染と突然再会してプロポーズって…
何これ!ラブコメか!?ラブコメなのか!?だったら男の主人公を用意しろや!ボケ!
「ちょっと待って二人とも!」
「「何!?ちりちゃん」」
ちりは意を決して立ち上がり、二人を制した。
すずとらんは急に猫なで声で返事をし、ちりをキラキラした目で見つめた。
ちりはその目に一瞬気圧されそうになったが、首を振り二人の顔を交互に見た。
(ダメだ…ちゃんと断らなきゃ…だって…だって…)
「…ごめん。私ね、昔の私じゃないの。」
「何言ってるの?ちりちゃんはちりちゃんだよ?」
「うん!らんはどんなちりちゃんでもだーいす…」
「そうじゃなくて。私、友達も恋人も欲しくないの。」
冷たいちりの声に、すずとらんは硬直した。
こんな冷たい声のちりを二人は今まで見たことなかった。
二人の記憶のちりはいつも優しくて、明るくて、笑顔が似合う女の子だったから。
「二人のこと…別に嫌いじゃないけど、関わりたくない。」
それはちりの正直な気持ちだった。
もう、あんな思いはうんざりだ。
一人でいたい、誰にも期待したくない、ずっと、一人でいたい…
「ち、ちりちゃ…」
キーンコーンカーンコーン。
すずが口を開いた瞬間、無慈悲なチャイムが昼休み終了を告げた。
「…三年の教室、ここから遠いの。じゃあね。次の授業、遅れないようにね。」
そう言い残し、ちりは逃げるようにその場を去った。
すずとらんは何も言えないまま、ただちりの背中をずっと見つめていた。