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カタクリの先へ 3

「お、お邪魔します…」

「どうぞどうぞ。取り敢えずシャワーでも浴びる?」

「あ、ありがとう…」


ちりの家に着くと、らんはまずシャワーを浴びた。

あの時借りたちりちゃんの服はぶかぶかで柔らかい花の匂いがした。


シャワーを浴び終わると、ちりちゃんのお母さんはちりちゃんの部屋に案内してくれた。

ちりちゃんの家はなんだかあったかくて、いい匂いだした。

部屋に入ると、ちりは床であぐらをかいていた。

そしてお菓子を食べていた手を止め、私を見てにっこりと笑った。


「あの…シャワーありがとう…」

「うん、どういたしましてー」

「…ちりちゃん、怒ってる?」


ドアの前に立ったままの私は恐る恐るちりちゃんに質問をした。


大っ嫌いと言ったこと、怒ってるだろう…

ここにくるまでずっと私が気にしていたことだ。


「んー怒ってないよ?だってらんちゃんはすずちゃんのこと大好きだから私がすずちゃんを取ったと思ってるんだよね?」


ちりは笑顔のまま、真相をさらっと言った。

らんはびっくりした。

急に真意を突かれたことと、ちりちゃんが怒っていないことに。


だって…嫌いって言われたら…私だったら怒るもん…

なのに、なんでちりちゃんは笑ってるんだろう…


「でもすずちゃんも心配してたよ?らんちゃんが急に家を飛び出したから。」

「ほ、本当に…?」

「ホント、ホント。らんちゃんが出てった後、らんちゃんママがすごく慌てながらうちに来て、らんちゃんがいなくなったって言ってた。それを聞いたすずちゃんもすぐ私の家を飛び出してったよ。」

「う、うそだよっ…!だってすずはちりちゃんことが一番大事なはずだもん!私なんてどうでもいいはずだよ!?」

「そんなことないって。まぁ急に家を飛び出していったから私が慌てて止めたけど…」


…すず、心配してくれたんだ。

それに、お母さんにも心配かけちゃった…


すずは俯いたまま、そっと涙を流した。


「うん、取り敢えずこっち座りな?ホットココア好き?クッキーもあるよ?」


らんは小さく頷き、ちりの横にちょこんと座った。

あの時飲んだホットココアは少し冷めていたはずなんだけど、私にはとっても温かく感じた。


「ちりちゃん…私、すずと一緒に遊ぶ時間が大好きなの。」

「うん。」


らんが一口ココアを飲むと、何故か本音がこぼれた。

涙と同じように、言葉がどんどんこぼれ落ちた。


「なのに、すずは小学生になってから友達が増えて、ちりちゃんとも遊ぶようになって…すずは…私なんかいらないんじゃないかなって思ったの…」

「うん。」

「だからすずが私をいらないなんて思わないようにすずのお世話をしてたの…そしたらみんな私のこといい子だねって褒めてくれるの…」

「うん…」

「しっかりしてるねって…だからいろんなこと頼まれるの…家でも学校でも…」

「うん…」

「私…すずと遊びたかっただけなのに…分かんない…私…どうすればいいのかな…」


らんは本音を全てこぼすと、一口ココアを飲んだ。

冷め切ったココア、窓からこぼれ落ちる雨音、バターの香りのするクッキー、そして私の話をずっと聞いててくれたちりちゃん。


ただ話を聞いてもらっただけなのに、私の気持ちはふんわり軽くなった。


なんでだろう…変な気持ち…

何も解決してないのに、なんでこんなに楽になるんだろう…


「うん、わかった!らんちゃん!一緒に遊ぼう!」

「…え?」


ちりは突然立ち上がり、何かを探し始めた。


「トランプする?それとも人生ゲームがいい?あ!テレビゲームもあるよ?お兄ちゃんが新しいの買ったから一緒にやろうよ!」

「え、え?」


クッキーの置かれていたテーブルにはいつの間にかトランプや人生ゲームが置かれていた。

驚くほどの急展開にらんは目を回し、混乱した。

そんならんなど気にもせず、ちりはキラキラした目をしながら机にたくさんの遊び道具を用意した。

そんな彼女の姿にらんは困惑するばかりだった。

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