カタクリの先へ 2
私とすずはいつも一緒。
だって双子だもん。
それが当たり前だし、すずと一緒にいるのは楽しかった。
今では絶対言わないけど、すずと遊んでいる時間が大好きだった。
でもある日を境に、すずは変わった。
友達が増え、明るくなり、少しわがままになった。
そして、私の隣にいる時間が減った。
私はそれが嫌だった。
小さい頃からずっとすずといたから、私は友達が少なかった。
いや…ほとんどいない、と言ったほうが正確だろう。
でもそんなことどうでもよかった。
だってすずがいるから、退屈なんてしないもん。
それなのに、すずは私からどんどん離れてしまった。
そしてすずはある女の子の隣にいることに執着していた。
それが隣の家のお姉さん、ちりちゃんだった。
すずのわがままは大半がちりちゃん絡みだった。
ちりちゃんがいなきゃ嫌、ちりちゃんの家に遊びに行きたい…
そしていつもちりちゃんに甘えてるせいか、すずはどんどんだらしなくなっていった。
体操服はぐちゃぐちゃ、整理整頓もしない…すずは今も変わらず昔から本当にだらしなかった。
そのせいか、私はしっかりしていった。
すずがあんな感じだから、わたしがしっかりしなくちゃという責任感が芽生えていった。
お母さんの手伝い、すずのお世話…
次第に私はいい子と認識されるようになっていった。
親も先生も私を褒めてくれる中、すずだけは私から離れていった。
学校にいる時は友達が、放課後はちりちゃんがいつもすずの隣にいた。
私は次第にイライラしていった。
なんだかすずを取られたみたいで…
いい子の私はイライラを見せることはなかったが、イライラは募りばかりだった。
この頃の私はちりちゃんのことをとても嫌っていた。
あの時もらった青いリボンも、いつしかつけなくなっていた。
「来月、引っ越すことになったから。」
「え…?」
私が小学三年生だった時だった。
お母さんが大事な話があるから、とリビングに呼び出された日。
あの日は確か雨が降っていた。
小学三年生の私の頭の中で母さんの声が何度も繰り返された。
え、引っ越し…?
引越しってことは、ちりちゃんとも離れ離れ…?
少しだけ、私は喜んでいた。
ちりちゃんがいなくなれば、またすずは私と遊んでくれると思ったから。
「えー!?じゃあちりちゃんと会えなくなるの!?」
「あんたは口を開けばちりちゃんちりちゃんって…心配しなくても5、6年したらこの家に戻ってくるわ。」
「ふーん…じゃあいいよ!愛は障害があるほうが燃えるっていうもん!話はこれで終わり?私、ちりちゃんの家に行ってくる!」
「え、待って!さっきまで部屋で一緒にトランプしてたじゃん…!」
「ちりちゃんと遊んだ後で!ちりちゃん習い事あるから今しか遊んでくれないんだもん!」
初めは不満そうな顔をしていたすずだったが、引越しに納得し、すぐに家を飛び出していった。
また、ちりちゃん…だ…
さっきまで私と遊んでたのに…
それに、ちりちゃんと離れ離れになること…全然寂しがってなかった…
…きっと、引越ししてもすずは私と遊んでくれない。
すずは私なんて…どうでもいいんだ…
「はぁ…本当にあの子は…らんも荷物まとめておいてね。あ、すずの荷造りも手伝ってあげて?あの子、絶対やらないから。」
「…なんで?」
「え?」
「なんで私がそんなことしなきゃいけないの!?」
「ど、どうしたの?らん?」
あのは私は、生まれて初めて親を困らせた。
募っていたイライラが、体からこぼれ落ちていった。
「いつもすずのお世話焼いてくれるじゃない。あの子、いつもちりちゃんちりちゃんってすぐどっか行くじゃない?お母さんはらんがいい子ですっごく助かってるよ?」
その時私の中でいい子のスイッチが切れた。
私に目線を合わせ、優しく話しかけれくれるお母さんにさえ、私は怒りをぶつけてしまった。
「私はつ…いい子なんかじゃないっ!」
「…え?」
「私はっ…すずと遊びたいだけなのにっ…いつもいつもっ…!」
「ちょっとらん!どこ行くの!?」
「離して!お母さんも、すずも…大っ嫌い!」
リビングを飛び出そうとした私を掴んだお母さんの腕を振り解き、傘も差さないまま外へ飛び出していった。
冷たい雨に打たれながら、無我夢中で走ったことは今でも鮮明に覚えている。
雨なのか汗なのか涙なのか分からない水滴が頬をつたった。
あの時は本当に馬鹿なことをしたと思う…
溜まりに溜まった不安が急に爆発してしまい、あんなことをしてしまった。
必死に走ったけれど、小学三年生の体力では近所の公園まで行くのが限界だった。
息切れをした私は休憩するために雨も凌げる滑り台の下で体育座りをして、ため息をついていた。
後悔していた、考えもなしに飛び出していったことを。
…お母さんとすずを大っ嫌いって言ったことを。
「うっ…ふぇっ…」
でも、嫌だったんだもん。
すずのお世話をしてたのだって、一緒に遊びたかったから。
すずが宿題や部屋の片付けを早く終わらせたら一緒に遊べると思ってたから。
すずと遊びたいからいい子でいたのに…
なのに…いつもちりちゃんちりちゃんって…
「ちりちゃんなんて…大っ嫌い…」
「うん、でも風邪ひいちゃうから移動しよっか?」
「えっ…?」
背後から声がした。
ゆっくり振り返ると、傘を差したちりちゃんが優しく微笑んでいた。
ちりちゃんは私の手を取り、その場に立たせた。
「あーあ…スカート汚れちゃったね…とりあえず家に帰りづらいなら私の家来る?と言っても隣だけど…」
「え、で、でも…」
「とりあえず行こ。嫌いな人の家でも、ここにいるよりはマシでしょ?」
ちりちゃんは手に持っていたもう一本の傘を私に渡してくれた。
なんでここにいるの?
私がここにいるって知ってたの?
すずと遊んでたんじゃないの?
言いたいことはたくさんあったけど、私は何も言わずにちりちゃんの手を握った。
その手は冷め切っていた私の手を、優しく、暖かく包んでくれた。
「うん。じゃあ行こうか。」
二人並んで、傘を差し、手を繋いで。
私たちは何も話さず、ゆっくりとちりちゃんの家は向かった。




