隣のカラー 4
「あんた何言ってんの?」
「私の読んでる本、見る?」
山下さんは机にかけられた鞄から一冊の本を取り出した。
その本はいつも山下さんが読んでいる本と同じブックカバーがかけられていた。
「これが何なの…?」
「内容を見て。」
ちりは差し出された本を手に取り、ページを開いた。
それはちりの想像を絶する内容だった。
「な、何これ!?」
まず小説かと思いきや、漫画だった。
そしてたまたま開いたページが女の子同士でキスしてるシーン。
「だから言ったでしょ…私はガールズラブが好きなの。世間でいうところの百合女子ってやつなのよ。」
「…マジかよ。」
ちりはそれ以上言葉が出なかった。
山下千紗、彼女は他人に興味がないちりでも知っている有名人なのだ。
高等部からこの学園に入学し、成績は常にトップ。
いつも一人で本を読んでいて、その姿が美しいとファンがいるというのを小耳に挟んだことがある。
ファンの人たちからはクールビューティーな文学少女と呼ばれてるらしい。
確かに山下さんが本を読んでいる姿は本当に絵になるとちりも思っていた。
だけどその本がガールズラブの漫画だったなんて誰が知っていただろうか。
「…花澤さん、もしかして引いてる?」
「うん、割と引いてるよ。」
山下さんはちりの目を覗き込みながら聞いた。
それに対し、ちりは冷たく言い放った。
真面目な文学少女だと思ってたのに思わぬカミングアウトを受けて、ちりはいつもクラスでのキャラを忘れしまっていた。
「え、何ガールズラブって。別にそういうことに偏見があるわけじゃないけど引いてるよ。だって急にこんなこと言う?普通。その神経に引いてる。それ聞いてなんて答えりゃいいんだよ、私は。」
ちりは流れるように冷たい言葉をつらつら並べた。
ハッキリ言うと山下千紗も彼女に引いた。
千紗も今年初めて同じクラスになったちりだが、彼女のことはなんとなく知っていた。
いつも一人でいて何考えてるかよく分からない子だけど、優しくていい子だと聞いていた。
そんな子だと聞いていたから千紗は自分のことをさらけ出す決心をした。
だが実際のちりはいいことはかけ離れていた。
思ったことはハッキリ言い、なにより他人と関わりたくない子だと千紗は思った。
あれだけ仲良くなりたいと言ったのに、これだけ突き放してくるのだから多分そうだろうと頭のいい千紗は考えていた。
それでもまだ千紗はちりと友達になりたいと思っていた。
「で?ガールズラブが好きな百合女子の山下さんが私と仲良くなるメリットって何なのよ。」
「あの双子とのことを教えて。」
「…は?」
千紗はちりにぐいっと顔を近づけ、真剣な眼差しを向けた。
ちりはまた引いた。精神的にも物理的にも。
「まぁ座って、ゆっくり話しましょう。」
「あ、はい…」
これ以上ないくらいちりは千紗を警戒していた。
だが話が長くなりそうだと思ったので、取り敢えず座った。
…いつでも逃げれるように準備だけしとこうり
「ふぅ…それじゃあ行くわよ。」
そう言った千紗はメガネを取り、またちりに顔を近づけた。
「あの双子とはどう言う関係なの!?もしかして付き合ってる!?二股?修羅場なの!?それとも三角関係!?」
「…は?」
メガネを取った千紗は、瞳を輝かせた。
喋り方も変わった。
あの冷静な淡々とした口調とは打って変わり、まるでタピオカに取り憑かれたJKのようなテンション(ちりの偏見)になり、明るい口調、さらに早口になった。
おおぅ…これがオタクというやつなのか…
ちりの要注意人物リスト、第一位の名が書き換えられた。
「私的には三角関係だと萌えるなぁ!あの子達、色葉すずちゃんとらんちゃんよね。双子に好かれるなんてラブコメ的展開ね…あーもうっ!萌えでしかないわ!」
「あの、逃げてもいいですか…?」
「花澤さん的にはどっちが好みなの!?まさかどっちも好きとか!?両手に花なんてやるじゃない!三人の出会いから何から何まで詳しく教えて欲しいわ!」
あっ…この人話通じないタイプのオタクだぁ…




