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桜舞う

Q花澤ちりさんについて教えてください。


「花澤さん…?よく知らないけど?」

「私一年の時同じクラスだったけどいつも一人でいたよ。」

「あー、いつも教室の隅にいたよね。でも別にいじめとかはなかったし…それに気にかけてる子もいたし…一人が好きなんじゃない?」

「え!?私中等部の時同じクラスだったけど、ちりは明るくていい子だよ!?」

「そうそう!学級委員長だったし、クラスのムードメーカー的存在!」

「へー…意外!今の花澤さんとは正反対だよ!?」

「なんでだろうね?」




この学校の中庭には大きな桜の木がある。

その下にあるベンチの上でおにぎりを頬張っているのがこの物語の主人公である。

コンビニのツナマヨおにぎりが大好物の彼女の定番ランチメニュー。

彼女は黙々と大好きなツナマヨおにぎりを口に詰め込んだ。


ここで昼ごはんを食べ始めてもう二年が経とうとしていた。

膝を隠す色あせたチェックのスカートが風になびく。

高崎ヶ丘女子学園に通う花澤ちりは先日高校三年生になった。

はぁ…早いもんだねぇ…この前入学したと思ったのに…

急にしんみりと語りだした彼女、花澤ちりこそがこの物語の主人公なのです。


花澤ちりは友達もいない、勿論彼氏もいない。

化粧禁止というあって無いような校則にも従順。 

一般的に言うと、ちりはパッとしないJKだ。

でもちりはそれでいいと思っている。

お察しの方もいると思いますが、この主人公ボッチなんです。

何度でも言います。この主人公、ボッチなんです。


(にしても暇だなぁ…)


友達が居ないことに不満はないけど、この暇な昼休みには不満がある。

休み時間なんていらないから、さっさと授業をして家に帰りたい。

ちりは俯いたまま足をプラプラさせ、チャイムが鳴るのを待っていた。


真面目なちりは生徒ほぼ全員が破っている、校内での携帯使用禁止という校則もしっかり守っている。


(はぁ…暇すぎる…)


いつもは本を読んでいるのだが、今日に限って教室に忘れてきてしまった。

取りに戻りたいところだが、この時間は隣のクラスの子が野村さんとお弁当を食べるために、私の席に座っているはずだ。


(邪魔しちゃ悪いしなぁ…)


何より昼休みに教室にいるのが苦行だ。

クラス替えしたばかりのこの時期に一人でいると必ず声をかけられる。

一緒にご飯なんて、食べたくない。


だからと言って断るのも得策ではない。

断ると場の雰囲気が悪くなり、私のクラス内の立場も悪くなる。

ぼっちも意外と頭を使うのだ。


「お、花澤。こんなところにいたのか。」


ちりの目先に大きく開いた足が見えた。

目線を上げると、黒いスーツを着て腕組をしている男性がいた。


「大野先生、どうかしましたか?」

「どうって…それはこっちのセリフだ。こんなところで一人で昼ごはんって…お前、いじめられてるのか!?」


あー…こういうタイプの先生かぁ…

ちりは内心うんざりしていたが、顔に出ないよう、真面目な顔をつくって答えた。


「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」

「ほ、本当か…?何かあったらなんでも先生に相談しろよ!」

「はい、ありがとうございます。」


大野武先生、今年からこの学園に赴任した新米教師だ。

始業式の日、かっこいいと騒いでる子達が大勢いた。

これは憶測だが、この学園で一番人気の先生になるだろう。

だが今この瞬間、ちりの中で彼の好感度はこの学園一低くなった。


ちりの経験上、ああいうタイプの先生が一番厄介なのだ。

大丈夫だと言ってるのに、一人でいると必要以上に絡んでくる。

それを見た生徒が噂を立て、良からぬ方向に進むところまで予測できる。


ちりの要注意人物リストに彼の名前が加わった。


誕生日に買ってもらった腕時計を見ると、まだ5限まで20分もあった。

暇すぎる、暇にも程がある。


足をぶらぶらさせて暇を持て余すのも飽きてきた。

ぼっーとしているちりの鼻にフワッと香る桜の匂いが触れた。

見上げると満開の桜がちりを見下ろしていた。


(キレイ…全然気づかなかった…)


昼ごはんを食べる時も、歩いてる時も下ばかり向いてるちりは満開の桜に今初めて目を向けた。


学校の中庭の小さなお花見…

ちょっと素敵だなと思い、ちりは桜を見上げた。


そういえば小さい頃はよくお花見してたなぁ。

近所の公園で家族みんなでお弁当食べて…まあ今はその家族すらいないんですけどね、ははっ…

…うん、自分から地雷踏みに行くのやめよう。寂しくて死ぬ。


でも久しぶりにお花見も悪くないかも。

どうせ明日もここでご飯を食べるんだ。

明日はコンビニで三色団子も買おうとちりは心に誓った。

やっぱりお花見と言ったら三食団子でしょ。


「あ、あのぉ…すみません…」

「…何ですか?」


すっかり花に見とれていたちりにおどおどしている3人組の女の子達に話しかけられた。

リボンの色とパリッとした制服から1年生だと判断した。


「視聴覚室ってどこですか?」

「視聴覚室なら別棟の三階です。そこの廊下まっすぐ行った先の階段使って下さい。階段上がった先の左手にあります。」

「あ、ありがとうございますっ!」


はにかんだ笑顔を見せた彼女達は小走りに視聴覚室に向かった。

そういえば、一昨日は入学式だった。

新しい制服を纏い、期待を胸に抱いてる彼女達の姿をちりは羨ましそうに見つめた。


(懐かしいなぁ…入学式…)


あの時も桜が咲いていた。

可愛いと定評のある制服もあの頃はウキウキしながら着ていた。

クラスメイトへの期待。

うまくやれるかという不安。

そして…


(やめよう…これ以上は…)


ちりは開きかけた思い出にそっと蓋をした。

お花見を再開しようと目線を上げた瞬間、校舎中に

長かった昼休みが終わる合図が響き渡った。


(帰りますか…)


立ち上がり後にスカートを軽く払い、1年生の彼女達が歩いた道を辿り、ちりは校舎へ戻った。

校舎に入ると桜の匂いは消えてしまった。


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