戦闘狂とめんどくさがり屋Ⅶ
またしても続いてしまいました。本当に申し訳ございません。
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一回: https://ncode.syosetu.com/n2784gb/
魔神の脅威は去ったが禁忌武具の盗難は未だに止みそうもない。
ラクス王国にて、ミョルニルが盗難された。すぐにヴェルディは回収した。
どうにもミョルニルは途轍もない質量で、マトモに振るうことなどできない様だ。回収は容易だった。メギンギョルズを盗難しなかった時点でオチは読めていた。
ラクス王国は禁忌武具が豊富だ。スレイプニールという鞍があり、それを使えば馬で有れば神馬に変えるという、明らかに人知を逸した物もある。
禁忌武具の量産を行っているものがいる様な気もする。最近ではグラムという龍殺しの大剣が生み出された。
と言っても、ラクス王国の最大禁忌とされるティルフィングには及ばないが。
そして、ラクス王国を敵対視していたフラマ王国がレーヴァテインと呼ばれる、完全にラクス王国を倒す為だけの剣が開発されていた様だ。
ただ、その国も二クスに占領されその技術も禁忌武具も吸収されてしまった。
レーヴァテインは魔を焼き尽くす炎の剣。完全に、禁忌武具を牽制するために作られた様なものだ。だが、それは完璧とは程遠いものだった。
それを振るうには一万人もの魔法使いの魔力を吸わねばならない。その破滅性から流石にフラマ王も許可を下ろせず、地下に封印した。
ただ、もしかしたら振るわれる時が来るのかも知れない。
ヴェルディも流石にそうならないことを祈る。ただ、レーヴァテインはそれ以外では本当に熱で全てを溶かし断ち切るだけの剣だ。だが、悲劇が起きてからでは遅いのだ。
「ニクスってのはあんま関わりたくねぇな」
もし、このままニクスが侵略を繰り返していけば禁忌武具の量は世界最大になるだろう。
だが、ここ最近のニクスの横柄にはラクス王国もルクス公国もほとほと呆れていた。もし何らかの機会が有れば、どうにかしてニクスと戦争をするつもりではあった。
ニクスは禁忌武具こそ多いが、現状、脅威と考えられるのはレーヴァテインと天裁、後はもう一つくらいのものだ。
それ以外はヴェルディからして見れば妖刀と同じ有象無象に過ぎない。
だがーー。
「ラクス王国の禁忌武具がどこまで出てくるか、だな」
王が所有するグングニール、スレイプニール、グレイプニールは出てくることはないはずだ。
元々、王が戦場には出ないとヴェルディは決めつけのように考えていた。
「つっても、戦争の真っ只中、禁忌武具を拾って元の国に戻すって何だよ」
ただ、それを託されたのは仕方がないとも言えた。もし、担い手同士がぶつかり死んでしまって、その場に放置されてはどこぞの誰かに盗難されかねない。
「手伝いなんてできる奴いねぇだろうしな」
ヴェルディは面倒だと言いたげにそう漏らした。
あのミズキも、現在は修行中の様でヴェルディが頼ることはできない。
ヴェルディが彼とは顔を合わせたくないというのもあるのだが。
何故こんなことになったのか。
それはつい先日、マグナ公国の隣国のとある都市がソル・サティス信仰の聖地だとニクスの元首が宣い、解放戦争を仕掛けると吐かしたからなのだが。
その傲慢に遂に耐えられなくなったか、ラクス王国とルクス公国が同盟を結び戦争への介入を開始しようとした。
ただ、ニクスが解放戦争を、その名の通り解放して自由を与えようなどとは思っていないことは誰が見ても明らかなのだ。
ただ、ニクスも馬鹿ではない。そもそも途中参戦したラクス王国とルクス公国のことなど考えていなかったはずだ。だが、ルクス公国とラクス王国が出てきた時点で不利を理解しただろう。
すぐに降伏するはずだ。
「禁忌武具は最優先、か」
それはヴェルディが、地下管理委員会が設けた絶対のルール。
地下管理委員会は、地下に封印されるべき禁忌武具の管理をするものたちだ。それらには禁忌武具所持国各国の代表が一人ずつ、そして、委員長が五人、存在する。
基本的には多数決を取るのだが、委員長五人の審議により決定されるという体を持つ。
つまりはその委員長の名義により、すべての伝令が行われるということである。
有事の時を除き、禁忌武具は王令或いは、地下管理委員会の許可なく地上に持ち出してはならない。
と、彼らが世界法としてそれを定めた。
これをただの法文であると思うのであればそれでいいのだが、これまたヴェルディは最強である為に面倒な仕事を任されてしまったのだ。
地下管理委員会の影の一員。
執行官である。ただ、執行官はヴェルディ一人しかいない。
違法に禁忌武具を持ち出し、使用ないし盗難したものは命を持って償う。
「たく、人使い荒すぎんだろ」
これも依頼の形をとっている為に莫大な報酬がヴェルディは得られる。既にヴェルディは一生を遊んで暮らしたとしても使い切ることなど不可能な金を手に入れている。
だというのに、傭兵の仕事をしているのは説明するのが面倒だからである。傭兵に手続きはなく、別段ギルドがあるというわけでもない。だから、態々説明は怠惰なヴェルディはしないということだ。
「ほいっと、千里眼」
ヴェルディは千里眼を発動させ、問題の都市、イニティウムを見つける。
と言ってもイニティウムで戦火が交わることはまずないのかもしれないが。
憶測ではあったがフラマ王国とイニティウム周辺の都市が主戦場となるであろう。
フラマ王国がニクスとラクス王国の間にあるということが大きい。今回の戦争はルクス公国が参戦する為に、隣国であるアクア帝国の参戦も考えられる。
ただ、アクア帝国もニクスに味方するとは考えられない。長引けば、不利になるのはニクスだろう。
この話はこの辺りで止めておく。
ヴェルディは千里眼をイニティウムから、フラマ王国に移す。
「やってんな」
魔導武器を手にしたルクス・ラクス連合軍が盾を持ちながら、長槍で敵に突撃を仕掛けた。
ニクスの兵も数は多いが、ルクス・ラクス連合軍には劣る。何よりも、侵略した国の兵たちを使い、戦争をしているのか練度と協調性が圧倒的に足りていない。
ニクスの兵士たちは次々に、腹をぶち抜かれる。頭を飛ばされる。心臓を、脳天をえぐり抜かれる。
ただ、白金の大槌を持つものが上空に見えた。ヴェルディはそれを視認して、その男が持つものが何かを理解し、そして次に行うことも理解した。
「敵も味方も関係なしかよ……」
それは明兆国の禁忌武具、天裁であった。
もし、これを振るう男が死ねば、ヴェルディは回収に動かなければならない。ヴェルディは天裁を振るう、栗色の髪の男にマーキングをつける。
そして、傍聴魔法も発動していたヴェルディは天裁が振るわれた音を聞いた。
ズガアァァン!
雷が落ちたような音がし、戦場には煙が立つ。
その煙が幾らか晴れて、その大地を確認すると、そこは半径一キロにも及ぶ範囲が焦土と化していた。
そこにいたはずの兵士たちの姿はどこにも見当たらない。血液も骨も、何もかもが等しく破壊されたのだ。天の裁きの様な一撃によって。
「おっかねぇな……」
ヴェルディは自身があれを食らっても死なないと理解していたが、あれは間違いなく天災だ。
「何つうもん作ってんだ明兆国」
そして、今回の戦争にて最も警戒すべきは天裁だと、ヴェルディは自身の中の警戒レベルを引き上げた。
現段階、最強の禁忌武具は明兆国の生み出した天裁です。破壊力ナンバー1です!
読んでくださりありがとうございます。