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鎖国型の農村   ([前]編-幕間.01)

 遥か昔から商都として名高い、俺とも馴染みの深いあの街から、北東に約十五キロ。

 娘の母校であり奉職した勤務先でもある小学校を中心に、小ぢんまりとした集落と広大な農地で構成される農村。

 ここは、周囲を万里の長城のような高い城壁で囲み、余所者を拒み、疑似的な鎖国状態を維持している、筈だ。俺が以前に訪れた時から変わっていなければ、の話だが...。


 俺は、ちょっとしたトラブルに見舞われた後、二人の小さな痩せたお子様たちを連れて、この村を目指してやって来た。

 ただし。不特定多数の人々に俺の足跡を辿られると少しばかり困るので、この子たちと出会った街から一旦は違う方向に出て、何度か方向転換を繰り返しながら、俺のちょっとした特技でもある隠密技や目晦ましなどを駆使して移動してきた。

 俺が移動した際に通った痕跡は綺麗に消し、俺が移動する姿を見ている人が誰一人いない事を確認しながらの、念には念を入れての、隠密行動だ。

 まあ、勿論。こんな事では誤魔化せない存在もこの世界には少なからず実在する、と分かった上での気休め的な行動ではあったのだが...。


 そうやって、ここ迄は、特にトラブルに遭遇することもなく辿り着いた。

 俺は、所用で村の外に出掛けていた村人や村外からの訪問者のために設けられた入村受付所を兼ねる待合所の、その入り口の真ん前に立つと、サクッと展開していたステルス機能を解除する。

 その瞬間にこちらを向いている人が居たならば、俺が急にその場へと出現したかのように見えただろう。

 が。まあ、勿論、見ている人など居ない、と確認済みだ。


 俺は、両脇に抱えていたお子様二人を、そっと、俺の前で地面へと立たせる。

 そして。背中を軽く押し、建物の中へと進むよう促した。


「さあ、着いた。お疲れさま」

「「...」」

「二人とも、あそこの椅子に座って、大人しく待っていてくれるかな?」

「「はい」」


 俺は、子供たちに続いて、(かつ)ての国際空港にあった入国ゲート前のように厳重な佇まいを見せる村への出入口の前に設けられている広々とした待合所の中へと入りながら、安全距離を保ってパラパラと配置されている椅子の塊りの中の一つを指差す。

 素直なお子様二人が俺の示した方へと進んで椅子に座ったのを確認してから、俺は、案内所のようにも見える受付カウンターへと向かってゆっくりと歩く。

 カウンターに座っている受付係のお姉さんが、俺に気付き、少し緊張した硬い表情となる。

 その後ろに控えている冒険者っぽい格好をした如何にも強面(こわもて)な感じでガタイのいいお兄さん二人が、警戒して身構える。

 まあ。見慣れない男が近付いて来ると、そうなるよね。

 けど。俺の外見って、普通の高校生男子っぽい感じだけど年齢不詳で人畜無害な雰囲気の人物、の筈なんだけどなぁ...。


「すいません。村長さんか孤児院の院長先生に、アッシュが来た、と伝えてくれませんか?」

「アッシュ様、ですか?」

「そう。まあ、純粋な日本人なんで、通称って奴だけどね。たぶん、それで通じる筈だよ」

「左様でございますか」

「ああ。かなり久しぶりなんで、ビックリされるとは思うけど...」

「承知致しました。入村申請は、三名様で宜しいでしょうか?」

「うん。そうだね。待ってる間に申請書類を書くから、用紙と筆記用具を借りれるかい?」

「はい...こちらを、お使い下さい」

「ありがとう」


 警戒感と緊張感から少しピリピリしている受付のお姉さんの後ろでは、警備員のお兄さん二人が、ワザとらしく威嚇するように威圧感を放出して筋肉もりもりをアピールしている。

 そう。見慣れない若者に、不審な行動を取れば目にもの見せてくれるぞ、という示威行為だ。

 俺は、そんな元気印のお兄さん二人を軽くスルーして、受付のお姉さんにニッコリと笑いかけた。

 けど。残念なことに、受付の可愛らしいお姉さんには、俺の渾身の笑顔を綺麗すっぱりとスルーされてしまう。

 事務的に手渡された用紙と筆記用具を苦笑しながら受け取り、俺は、お子様二人が周囲をキョロキョロ見ながらも大人しく待っている待合いスペースの一角へと、不審な行動は取りませんよアピールをする為にゆっくりとした動作で向かうのだった。



 * * * * *



 キチンと記入した書類一式を受付のお姉さんに渡し、厳重に警備されていた入村ゲートを潜り、待ち受けていた先程の剽軽(ひょうきん)な二人組みとは違う警備員のお兄さん達によって、同じ建屋の中に複数ある応接室の一つへと案内された。


 そこでは、責任感が強そうで大人びた感じの綺麗な女性が、ニッコリ笑って待ち受けていた。


 笑顔が素敵な仕事が出来る風の美人さん、だったが、瞳が全く笑っていない。

 更に、何故だか、強烈な怒りのオーラが放出されていた。主に、俺宛に。


「ご無沙汰、ですね。アッシュさん?」

「えっと...」

「あら、私が分かりませんか?」

「いやいや、滅相もないよ、綾ちゃん」

「ちゃんと、分っているじゃないですか」

「いや、まあ、ね」

「二十年経って、耄碌したのかと思いましたわ」


 おほほほほ。

 そんな高笑いが聞こえてきそうなポーズを取る、綾子ちゃん。


 ははははは。

 俺は、乾いた笑いをあげるしかなかった。


「何かと突っかかってくる元気な美少女が、落ち着いた美女になっているんだから、まあ、それ位は経った、のだろうね」

「まあ、嫌ですわ。お世辞を言ったって、何も出てきませんよ」

「いやいや。昔から可愛かったけど、いい女になったよね」

「アッシュさんは、相変わらず、ですわね。見た目も、中身も」

「ははははは。辛らつだね、相変わらず」

「そうですか?」

「...」

「私が怒ると、この程度では済みませんが」


 そう言って、目の前の美人さんは、怒りのオーラのボルテージを大幅にアップさせた。

 この場の空気が、一気に、険悪になる。

 俺たちをこの場に連れて来た警備員のお兄さん二人は、事情が分からず途方に暮れながらも警戒レベルを引き上げた模様で、いつでも俺を取り押さえられる位置を確保しながらも緊張した面持ちで身構えている。


 思わず、冷や汗がでた。


 俺が直近の引き籠り生活に入る前にこの村へ出入りしていた頃の顔見知りである元美少女は、何やらお怒りのようだった。

 が。彼女が何にお怒りなのか、俺は、判断を付けかねていた。


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