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              ([後]編-Episode.03)

 うん。あまり褒められたやり方で無いのは重々承知しているが、仕方ない、という判断だ。

 俺に時間がないとは言わないが、それ相応まではお付き合いしたのだから、勘弁して欲しいと思う。

 魔法を使用しない物理攻撃の能力もそれなりには保持する俺だが、残念ながら、基本となる身体は頑丈でも健康優良児でもないので、長時間の立ちっぱなしでの精神的な苦行には、それ相応にダメージを受けるのだ。

 つまり。もう、疲れた。

 という訳で、そろそろ店じまいに掛かりたい、と思った俺は、相手のペースを崩すことにした。


「それでは。お手数ですが、こちらに一筆、頂けませんでしょうか?」

「する訳ないだろうが!」

「お手間をおかけして大変恐縮なんですが、これも決まりでして」

「煩い!」

「左様で御座いますか。では、致し方ありませんね」

「そ、そうか。やっと分かったか」

「はい。書類に残しておいた方が、お客様にとっても良いとは思うのですが」

「署名はしない、と言っておるだろうが!」

「承知致しました。では、本日の面談の音声記録をその証として提出し、本事案は賠償は不要にて合意した旨、報告の上で処理させて頂きます」

「違う!」

「それでは、私は...」

「待たんか、こら。合意などしていないと、言っとるんだ!」


 激高した厚顔無恥なぼったくり老人は、ガシリと乱暴に、退去しようとしていた俺の腕を掴んだ。

 避けようと思えば避けられたのだが、俺は、敢えてご老人の成すが儘に任せる。

 ただ、掴まれた箇所が痛い。というか、このままだと、痣になりそうな感じなのは困った。


「お客様、離して頂けませんか?」

「う、煩い!」

「離して頂けないのであれば、正当防衛としての対処を...」

「ひょろひょろの若造に、何が出来る!」

「いや、まあ...」


 ほんの少し俺がその気になれば、ご老人は吹っ飛ぶことになる、と思うのだが?

 という心の声は、そっと仕舞っておくとして。

 如何したものかな、この業突く張りなご老体への対応は。


 俺は、またもや意味不明の戯言を猛然とした勢いで醜く喚き続けるご老体を、静かに観察する。

 俺が代理人として訪ねてきた弥生ちゃんが全損させた物品の所有者殿には、果たして聞く耳があるのだろうか?


 目の前の醜悪なご老体の主張は、壊れた物の価値を決めるのは持ち主である自分であり、壊れた多数の物品は自身にとって相当に価値がある物であり、そちらから頼んで来るまでして運送業務を請け負った業者に全ての責任があるので、壊れた物品の持ち主である自分を満足させるだけの対価を支払うのは至極真っ当な人として責任ある行動であり義務である、というものだった。

 うん。捉え方によっては中々に筋の通った正当な主張、と聞こえなくもない。

 けど、まあ。冷静によくよく考えれば、というか普通に会話する際にこのような趣旨の発言をすれば、余りにも自己中心的過ぎる主張にドン引きされる事は間違いない、と思う。


 何と言うか、言った者勝ち、というコンセプトに基づく怒涛の言葉攻め、というか言論による暴力。

 しかし、まあ、何ともお見事な程に、冷静であっても激高していても言っている内容は全く変わらないという徹頭徹尾の自己中心的な思考に染まっているようだ。

 これは、話し合うだけ無駄、かなぁ。


 などと、俺が、ヒートアップするご老体の発言を、スルーし続けていると。


「儂は、ゴスロリの王女様とも面識があるんだぞ。そんな態度で良いと思っているのか?」

「...」


 お馬鹿なおっさんが、「ゴスロリの王女様」とも面識がある、とほざいた。


 あちゃ~。

 そんな不用意に、その名前を口にしては駄目だろう。

 彼女の関係者などと(かた)ったとバレたら、ただじゃ済まないぞ。


 俺があの豪奢なゴスロリ衣装を纏った美少女と遭遇したのは、今からたった数時間前。

 つまり。たぶん、というか十中八九、俺の周囲には彼女による監視の目が張り巡らされている、筈。

 彼女、というか、あの方とも言うべき世間から畏怖され敬われてる実質的なこの近辺の支配者殿は、結構マメだから、まだ俺の周囲を何らかの手段でウォッチしている可能性は高いと思うのだが...。


 と、考えていたら。

 つい最近に聞いたような気のする特徴的な轟音が、遠い上空で鳴り響いた。


 聞き覚えのあるその音が、急速に近付いて来るなぁ。

 などと、他人事のように考えていたら...ピタリ、と無音になった。


 と、思ったら。

 ぶおぉ~と、竜巻のような強烈な突風が、俺の直ぐ後ろで突発的に発生。

 そして。

 唐突に、風が消滅して静寂が訪れる。


 俺の方を見ていたお馬鹿なおっさんが、目を見開き、俺の背後を凝視した。

 俺は、ゆっくりと振り返ってみる。


 そこには、小柄な女性が、姿勢を正して立っていた。

 出来る女を感じさせる佇まいで、ビシッとタイトスカートの黒系統で上品なレディーススーツを着こなした、素敵な女性が。


「はじめまして、アッシュ様」

「どうも」

「有栖川家にてエージェントとして勤務させて頂いております、玲子と申します」

「ご丁寧なご挨拶、ありがとうござます」

「いえ。こちらこそ、どうぞよろしくお願い致します」

「よろしくお願いします」


 玲子さんが、ニッコリと笑った。

 おお。笑うと、可憐な美少女、だ。


「ところで。お嬢様の縁者を詐称する輩に、何かアッシュ様がご迷惑を被られたのでしょうか?」

「えっと、ですね」

「ああ、申し訳ありません。事情は全て把握しております」

「まあ、あの方が絡んでいるのなら、そうでしょうね」

「はい。お嬢様は完璧です。ですが、様式美の一環として、お尋ね致しました」


 玲子さんの纏う雰囲気が、変わる。

 さらさらロングヘアーの小柄で知的な美少女から、絶対零度のオーラが放たれる。


「ヒっ」

「貴殿は、有栖川家の縁者ではなかったと思うのですが、私の記憶違いでしょうか?」

「い、いえ。そ、そのような恐れ多い立場では...」

「はて。では、何をもってお嬢様のお名前を持ち出し、アッシュ様を牽制されておられたので?」

「...」


 こうして。世の中から、強引に弱者から搾取し開き直って居直る一つの害悪が駆除されたのだった。合掌。


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