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         ([後]編-幕間.02)

 街道からも外れた鎖国型の農村と往古(いにしえ)の商都との間に横たわる広大な荒野のド真ん中で、独りポツンと突っ立ている俺。

 そんな俺と対峙する、真っ二つに割れた小型ロケットだか弾道ミサイルだかの残骸と、場違いな高級感を漂わせて鎮座するお一人様用のソファー。

 そして、その上にちょこんと腰掛けて口を尖らせ、立体映像とは思えない程に濃厚で重厚な存在感を周囲に放っている、黒と白の高級生地と繊細なレースで仕立てられた豪奢なゴスロリ衣装を纏う女の子。


 少し離れた視点から冷静に眺めると、かなりシュールな光景だと思う。


 が、しかし。

 そんな情緒(?)など欠片も解さない無粋な存在が、この荒野には、無数に生息している。


 俺は、背後に不穏な気配を感じ、反射的に素早く振り返ろうと...したが、止めた。


「ふん。これだから、低能な輩は困る」

「...」


 俺の目の前で不貞腐れていた美少女の視線が、ちらっと動いた、かと思った時にはもう、俺の背後から急接近していた複数の巨大な魔物たちの気配が消滅していた。

 そう。まるで、この場に彼女が存在するかのように自然な仕種と正確な精度で、高度な魔法が行使されたのだ。


 しかも。その威力が、(すさ)まじい。


 流石は、ある意味で神様レベルの、俺では(あらが)い様もない程に圧倒的な力を持つ存在だった。

 世間一般では規格外と言われることもある俺でさえ、あの規模であの数が相手だと、最大出力で高効率な処理ができたとしても相当な回数の魔法の行使とそれ相応の集中力が必要となるのだ。

 彼女がその気になれば俺など一瞬で塵となって跡形もなく消える、という現実を、再認識せざるを得ない。


 俺は、無意識のうちに、緊張感から手に汗握る状態となってしまっていたようだ。

 そんな俺を見て、彼女の釣り目気味で強気な瞳が一瞬、微妙に揺れたような気が...。


「まあ、(わらわ)にかかれば、あの様な小物など、赤子の手を捻るようなものじゃな」

「ははははは」

「別に、感謝せんでも良いぞよ。大した手間ではないからの」

「いえ。ありがとうございます」

「よい良い。そなたには、色々と楽しませて貰っておるからのぉ」

「はあ」


 そう言えば。何でまた急に、彼女は、長らく放置していた俺に接触して来たのだろう?


 元からある意味で気紛れではあったが、本質的には無意味な事など実行しない論理的かつ合理的な思考で行動する人だったと思うので、今回の突発的なコンタクトにも、何らかの明確な理由があるのだろう。

 という事は。

 また何か俺が、拙い行動を無自覚かつ盛大にやらかしてしまった、かな?


 彼女が、ニヤリと笑った。


「そう。今回も、久し振りに(わらわ)(みずか)らが動く破目にはなったが、良い暇潰しとなって面白かったので、その礼を言いに来たのじゃ」

「はあ」

「おぬし、妾が管轄する都市部では、魔法の使用を全面的に禁止しておるのじゃが、知っておったかえ?」

「申し訳ありません!」


 俺は、素早く、ジャンピング土下座を執行した。

 や、ヤバイ。

 バレてた?

 当然か!

 惚けてて浦島太郎で世情に疎かったのは事実だが、ルール違反は駄目だ。

 しかも。この地の絶対的な支配者であり、突出し卓越した能力と権力と経済力を保持する彼女の決定事項に逆らうなど、論外だ。

 先程の無粋な魔物集団のようにプチっと問答無用で潰されても、文句は言えない。


「これ。良いと言っておるじゃろが」

「は、はひ」

「都市部で魔法の使用を禁止しておるのは、無能な輩がスキルもないのに馬鹿な真似をしないよう釘を刺すのが目的じゃ」

「な、成る程」

「じゃから、おぬしの様な能力も分別もある者が行使する分には、問題ない」

「あ、ありがとうございます?」

「うむ。ただし」

「...」

「今後も、出来るだけ、周囲の目には触れないよう配慮することじゃの」

「は、はいっ!」

「バカが勘違いして、増長しては困るからのぉ」

「...」


 豪奢なゴスロリ衣装を纏った美少女が、壮絶な笑みを浮かべた。


 ひえ~。

 可愛い、けど怖い。


 ビビる俺を見て、迫力満点な美女の笑みが、悪戯っ子な美少女の微笑みへと変わる。


「おぬしの魔法は、繊細(せんさい)で綺麗に練られた魔力を、必要最低限の出力に抑えて発動する、芸術的なものじゃからの」

「そ、そうですが」

「うむ。魔素が鮮明に見える妾には、その違いがよく分かるのじゃ」

「...」

「ん?」

「...」

「おぬしも、魔素は見えておったよな?」

「はい。貴女(あなた)さま程では、ありませんが」

「それは当然じゃな。妾は、特別じゃ」


 (うれ)い顔の美少女。

 一瞬、そんな風にも見えたのだが、気のせいだろう。

 俺の目の前には、勝気な表情を浮かべ、傲然と微笑む美少女がいた。


「おぬしの、隠匿と証拠隠滅は、見事じゃった」

「ははははは」

「妾でないと、その痕跡は追えんかったろうし、局所的には完璧に痕跡が消されていて追跡は不可能な状態じゃったのぉ」

「...」

「じゃが、大局的に広範囲の乱れを分析すれば見えてくるモノはある」

「...」

「しかも。見慣れた馴染みある特徴的な魔法の痕跡と行使する際の独特な癖から、直ぐに、おぬしであろうと目星は付けれたがのぉ」


 可愛らしい美少女が、ジロリと俺を睨む。

 俺は、無言で、蛇に睨まれた蛙、の態。


「分かったかえ、アッシュ」

「はい!」

「...」

「えっと?」

「むむ。まさか...おぬし、妾の名を忘れてはおらぬよな?」

「え、ええ。勿論」

「で?」

「承知致しました。プリンセス有栖川」

「うむ、宜しい。では、さらばじゃ!」


 こうして、俺は。

 世間では通称「ゴスロリの王女様」とも呼ばれて畏怖され親しまれている自称「プリンセス有栖川」お嬢様との約三四半世紀ぶりの遭遇を、無事に何事もなく切り抜けたのだった。


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