奴隷エルフが『女の子好き』な魔女に買われるお話
小さな村で生まれたわたしは、気付けば盗賊に売られて奴隷となっていた。
まだ十歳になったばかりの、誕生日の話だ。
わたしは名前ではなく、『五十番』という数字だけを与えられて、牢獄のような場所で暮らすことになった。
わたしより前に五十人も、奴隷として売られるのを待つ子がいる。
本来、まだ幼いわたしは奴隷としての価値が低いという話だったのだけれど……《エルフ》となると話は別らしい。
銀色の髪に尖った耳。他の奴隷の子ともまるで違う姿を、わたしはしている。
森の中で暮らしてきたわたしにとっては、人に会うのも初めてに近いものだった。
……それなのに、わたしはどうしてこんな目に遭っているのだろう。
――奴隷と言っても色々あって、戦うために使われる者や……中には魔法の実験のために、魔導師に買われる運命にある子もいるという。
奴隷としての自覚を持たせるための『調教』というのもあるらしいけれど、エルフは珍しいからと、あえてそんなことはしないという。
そんなわたしは――今日、ある人に買われた。
ローブに身を包み、フードで顔を隠しているが――女の人であることは分かる。紅の長い髪に、真紅の瞳。
奴隷商人から彼女にわたしは引き渡されて……わたしの奴隷としての生活が始まった。
怖くない……と言えば、嘘になる。
女の人は魔導師らしく、わたしと買ってからもほとんど声を発することなく、わたしはただ黙って馬車に揺られながら――彼女の家まで連れて行かれた。
カシャンッと、わたしを縛る鎖の音が鳴る。
首に付けられたのは、奴隷としての証である首輪。魔力が込められているとかで、わたしを買った人の命令には絶対に逆らえない。
女の人は見た目だけでも美しいと分かるけれど、わたしと見る視線がどこか、怖い。
何をされるか分からず、ただ震えて『その時』を待った。
やがて、女の人が口を開く。
「……貴女」
「っ」
びくりと、わずかに身体を震わせる。
次の瞬間――わたしの想像を超える出来事が、起こるのだった。
「はぁあああああっ! 銀髪エルフちゃんめっちゃ可愛いぃぃいいいいっ! やっと買えた! やっと買えたよぉ! ふええ、めっちゃ節約してお金稼いでよかったぁ!」
「……うええ!?」
わたしを抱き上げたかと思うと、とんでもない勢いで頬擦りをしてくる。
先ほどまで美しいと思っていた女の人の顔はすっかり緩み切っていて、同一人物とは思えなかった。
「はあ……可愛い可愛い可愛い。食べちゃいたいくらい可愛い。やっぱりエルフって最高だよね。常識的に考えて捕まえて一緒に暮らすのはまずいから、奴隷として売られてきたらいち早く教えてほしいって言っていたのだけれど、本当に丁度良かったわ! 貴女みたいな可愛い子がうちに来てくれるなんてっ!」
「あ、あの……!? ひゃっ」
あまりの勢いに、わたしはただ動揺することしかできない。
これから何をさせるか分からない恐怖など、すでになくなってしまっている。ただただ――わたしを愛でる女の人に対して、動揺することしかできなかった。
「あ、まずは自己紹介からした方がよかったかしら? 私はミスティア。『紅蓮の魔女』なんて呼ばれているけれど、私の話なんてどうでもよかったわ。貴女の名前を聞かせて頂戴?」
「な、名前……五十――」
「番号じゃなくて! 貴女の本当の名前よ。確かに私は奴隷である貴女を買ったけれど……ふふっ、別にただの奴隷として扱うつもりはないわ。私は貴女を、家族として愛するつもりなの」
「か、家族……ですか?」
「そうよ! 私の可愛い妹エルフとして! これから可愛いお洋服を着せたり一緒にデートしたり、一緒にお風呂入ったり、一緒に寝たり……うふふっ、想像しただけでも興奮してきたわっ! あっ、キスはお互いに同意があってからよね。でもでも、姉妹なら普通にするのかしら……!?」
ミスティアのテンションに、わたしは中々追いつくことができない。
それでも、彼女がわたしに対して……ひどいことをするつもりがないということは分かった。それが分かったからこそ、わたしは気付けば、涙を流していた。
「……!? ご、ごめんなさい! こ、怖がらせてしまったかしら!?」
「ち、違うのぉ……。こ、怖かったけど、そうじゃなくて……ふえぇ……」
「だ、だだだ大丈夫よ!? お姉ちゃんめっちゃ強いから! 優しくもする! だから怖がらないで、ね!? うぅ、こんな時に私にコミュニケーション能力があれば……! コミュ障だから奴隷買うのも本当はずっと迷ったくらい――って、今はそんな話どうでもいいよね! とにかく、お姉ちゃんがいるからね!」
そう言って、ミスティアはわたしのことを強く抱きしめてくれる。
――人間に出会って、初めて優しくされた瞬間だ。
わたしを買った魔女の人は……人付き合いが苦手で、それでも女の子が好きな人だった。
百合創作意欲があがったので書きました。