表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

99/373

99 三つの小箱




 ひとしきり泣いたあと、首を失ったグスタフがビクビクと痙攣けいれんする様子をぼんやりとながめる。

 結局最期まで、私の村を襲ったことについてなんにも言わなかったな。

 私の人生を狂わせたあの出来事も、コイツにとってはその程度の事だったってことか。


「……もういいや」


 いつまでも、こうしてらんないよね。

 死んだゴミクソ野郎のことなんて忘れて、もう一つの目的を果たそう。


 この部屋、どうやら勇贈玉ギフトスフィアの保管庫っぽい。

 全部ってわけじゃないだろうけど、それなりの数が置いてある。

 【沸騰】と相性がよさそうなヤツ、一つ持っていってやろう。


「……どれがいいかな」


 玉が入ったケースの前に、ラベルが貼られてる。

 そこから能力の予想はできるけど、イマイチピンとくるモノが見当たらないな……。


「……あれは?」


 ひときわ立派な棚に納められた三つの小箱。

 それぞれ違う色の獅子のマークが上蓋うわぶたに刻まれている。

 右から黄色、青、一つ空きスペースがあって、赤。

 ラベルによれば、ギフト名は【地皇ジコウ】【水神スイジン】【炎王エンオウ】。


「水神……かぁ」


 水を操る感じかな、だったら私の【沸騰】にピッタリなんじゃないか?

 立派な棚に納められて立派な箱に入ってるけど、どうせ人工勇者のクソみたいな実験に使われるんだ。

 遠慮なくもらっちゃおう。


 小箱を取って、バックの奥の底にしまったその瞬間。


 シャッ!


 扉がスライドして、


「いたぞ、侵入者だ!」


「……っ!」


 教団兵が二人、部屋に飛び込んできた。

 すぐに剣を抜いて距離をつめ、すばやく斬り殺す。


「ヤバい、見つかった……!」


 顔を見られないように、手早くフードとベールを装着。

 大声で仲間を呼んでたけど、この後は当然……。


「こっちからか、声が聞こえたのは……」


「見ろ、アイツだ! もう二人やられてる!」


 だろうね。

 廊下のむこうから、警備の兵とぐちょぐちょの肉塊の大群がお出ましだ。


「突っ切るしかないか……」


 全身ズタボロで立ってるのも辛いレベルだけど、やるしかない。

 全部殺して突っ切って、地上まで逃げきってやる。



 △▽△



 ケルベロスの三つの首が、巨体にしがみ付いたゴーレムたちに斬り落とされた。

 ガルーダとの空中戦の末、魔導機竜ガーゴイルの口から発射した熱線が心臓を貫いた。

 そして、


「うぉりゃあぁぁぁぁっ!!」


 アタシの練氣レンキを乗せたバスターガントレットのブーストアッパーが、キマイラのアゴに命中。

 その衝撃に首がちぎれて吹っ飛んだ。

 勢いあまって飛び上がり過ぎたアタシの体を、ガーゴイルがキャッチ。


「助かったよ、ガーゴイル」


 つっても、命令はアタシが出してんだけどね。

 アタシには荷が重い魔物だったけど、なんとか全部片付いた。

 【機兵】のギフトが無けりゃ死んでたね。

 色々と因縁のあるチカラだけど、今はしっかりアタシの力になってくれている。


「……よしっ、お次はキリエと合流だ!」


 まずはこのでっかい壁をブチ破らないと。

 ……できるのか、アタシに。

 回り道して探す方がいいか?


 ズゥゥゥン!!


 壁を見てたら、後ろでものすごい足音がした。

 ふり返れば、二足歩行で背中に翼の生えた、でっかいドラゴンの姿が。

 どうやら天井がスライドして、そっから降ってきたみたい。


 ……いやいや、アタシ今くたくたなんだけど。


「ガァァァァァッ……!!」


「くそ、やるしかないか……!」


 すみっこに扉があるけど、魔力キーはキリエが持ってる。

 逃げ道なんて見当たらないし、覚悟を決めてガントレットをかまえたその時。


 シュバッ!


 鋭い風切かざきり音がして、ドラゴンの首が横にズレた。

 そのまま頭が落ちて、体も仰向けにぶっ倒れる。


 死んだの?

 突然?

 なんで?

 頭の中が疑問でいっぱいになるけど、すぐに解決。


「よぉ、ちっこい嬢ちゃん。なんとか無事みてぇだな」


 バルジとか言ったっけ、この人が飛び込んできて竜の首を斬り落としたんだ。

 あまりに速すぎて、アタシの目じゃ見えなかった、と。


「助かったぞ、さすがリーダーだな」


「その呼び名、ちっこい嬢ちゃんも採用したのかよ」


「キリエが連呼するもんだから、つい、ね。あとさ、ちっこい言うな!!」




 どうやらアタシがいるこっち側は、魔物研究フロアの闘場だったみたい。

 人工勇者研究のトコと繋がってたの、バルジさんも知らなかったんだって。

 で、魔物研究フロアにやってきていたこの人に、アタシは助けられたってわけだ。


「キリエちゃんとはぐれたわけか、そいつぁ災難だったな」


「災難も災難。はぐれるなんて想定してなかったし、どうすりゃ合流できるのやら、さ」


 バルジさんの魔力キーのおかげで、無事に闘場を抜け出たアタシ。

 今はダクトの中に逃げ込んで、この人の後ろをほふく前進中だ。


「俺と合流できたのが、不幸中の幸いってトコか」


「そんなトコだね」


 ダクトは部屋だけじゃなくて、廊下にも空気を通してる。

 だから廊下の様子もわかるんだけど、なんかすっごい慌ただしいぞ。

 グロ肉怪物引き連れた警備兵が走りまわってるし、ちょっと前に爆発音が聞こえたし。


「トーカ、アンタはこれからどうするつもりだ?」


「キリエが心配だし、なんとか探したいな。協力頼めるかい?」


 年下の女の子を敵地に置いて帰ったんじゃ、ベアトにもメロにもどんな顔して会えばいいんだ、ってね。

 見つけられる可能性は低いけど、このまま帰るわけにはいかない。


「ま、そうくるだろうな。俺の用事もまだ終わっちゃいねぇし、いいぜ、手ぇ貸してやる」



 ○○○



 体が重い。

 けっきょく今回もズタボロか。


 警備兵と肉塊の追撃をふりきって、死体の山を作った末、私はなんとか出入り口の階段まで辿りついた。


(トーカ、無事かな……。リーダー、なにしてんだろ……。あぁ、目がかすむ……)


 足下フラフラ、腰にさした真紅のソードブレイカーもやけに重たく感じる。

 壁のプレートに魔力キーをかざして、隠し扉をスライドさせ、礼拝堂に上がったところで、とうとう限界がやってきた。


 とさっ……。


 自分の体すら支えられずにぶっ倒れた私。

 隠し扉がしまる振動と、床の冷たさがほっぺを通して伝わってくる。


 だめだ、こんなとこで気を失ったら。

 追っ手に見つかったら終わりなんだぞ。

 立て、立って歩いて帰るんだ、ベアトのとこに。

 いくら自分をふるい立たせても、尽きた体力はどうしようもなくって。


(……もう、ダメ。指一本も、動かせない……)


 視界がかすんで、ぼやけてきた。

 薄れていく意識の中、誰かがこっちにやってくる。


「——もし、——いじょうぶで——」


(ベア……、ト……?)


 こんなとこにいるワケないのに、ベアトが私の顔をのぞきこんでいる。

 とうとう幻覚見ちゃったのか、それともここは夢の中なのか。

 そんなことを考えながら、私は意識を手放した。




 ……。

 …………。

 ……私は今、どこにいるんだ?


 暗い暗い闇の中を、ゆっくりと落ちていく。

 光が、どんどん遠くなっていく。

 どうして?

 なにかに引っ張られているから。


 なにに?

 手に。

 いっぱいの、血まみれの、腐った、骨が飛び出した、たくさんの手に。


 今まで殺してきたヤツらが、腐ってウジの湧いた死人たちが、私を血の池の中に引きずりこんで——。



「っあああぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁっ!!!!」


 悲鳴を上げて、ベッドから飛び起きた。

 汗がダラダラ流れて、涙が勝手にあふれてくる。


 ……そっか、ベアトがいないから、あんな悪夢を見ちゃったんだ。


「はぁ、はぁ……」


 窓からさしこむ朝日。

 どうやら朝まで眠っていたみたい。

 ……そういや、ここどこだ?


 まず、私が寝てたのはビックリするくらいフカフカのベッド。

 ベアトがいないから寝ざめ最悪だけど。


 部屋の中の様子は、お屋敷というよりお城の一室みたい。

 落ち着いた雰囲気の壁紙に、木製の衣装ダンス、壁にはよくわかんない絵が飾られてて、窓辺に小さなテーブルと花瓶。

 どこかの誰かの部屋なんだろうけど……。


 コンコン。


 ノックの音が、私の思考を中断した。


「入ってもよろしいですか?」


 扉越しに聞こえてきた、女の子の声。

 この声の主の部屋なんだろうか、ここ。


「ど、どうぞ……」


「では、失礼しますね」


 ドアが開いて、入ってきた女の子の姿を見た瞬間。


「ベア……っ」


 思わず、ベアトと呼んでしまいそうになった。

 だって、銀色の長い髪に青い瞳。

 顔のパーツも背丈も年も、何もかもがベアトとうり二つなんだもん。


 だけど、ベアトのはずないんだ。

 あの娘とはどこか雰囲気が違うし、何より、


「ずいぶんとうなされていたようですが、お加減はいかがですか?」


 普通にしゃべれてるし。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
玉持てるだけ持っていけばいいのに。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ