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97 ソードブレイカー




 冷静に、意識して冷静に、戦いに集中だ。

 魂とかなんとかは、あとでいっぱい考えればいいんだから。

 ただ、最後の激突の前に、どうしても聞いておきたいことがある。


「……ねえ、一つだけ聞いていい?」


「……なんだ」


「アンタさ、仇を蘇らせて殺して、そのあとはどうすんの?」


 これは私の純粋な疑問。

 あの時、ブルトーギュを殺して仇討ちが終わったと思った時、なにをしたらいいのかわからなくなった。

 ベアトがいるのに、あの娘のことすら頭から抜け落ちて、虚無感でいっぱいになった。

 勇者を殺し続けて、蘇らせた仇を自分の手でもう一回殺したら、そのあとコイツはどうするつもりなんだろう。


「決まってる。もう一度蘇らせてから、殺す。苦しめて殺して、また蘇らせて、殺す。何度も、何度でも、地獄の苦しみを、ボクが死ぬまで味あわせつづけてやる」


「……それ、本気?」


「冗談でこのようなことを言うとでも?」


 私とコイツは似てる、そう思ってた。

 けど、ちがったみたい。

 その考えが、どうしようもなく異質に感じる。


「ホントに本気なの?」


愚問ぐもん。そうだと先刻さっき言ったはずだ」


「そっか、わかった。勝手にアンタに親近感持ってた私がバカだったみたい」


 私にとって復讐ってなんなのか、考えて考えて、答えが出た。

 一つの区切りなんだ、前に進むための。


 グスタフと、ジュダス。

 残る二人の仇を殺した時に、きっと私は家族の死を受け入れられる。

 その時はじめて、あの日から止まっている何かを動かせる気がするから。


「別に正義の味方ヅラしたいわけじゃないよ。勇者の魂蘇らせるためには誰かを一人犠牲にする必要があるだろ、なんて、私にそんなこと言う資格もないし、ね」


 私自身、復讐のために大勢の無関係な人間を巻き込んでる。

 殺してる。

 復讐心そのものも、否定するのは嫌だ。


「けどさ、私は復讐って、自分の心にケリつけて前に進むためにあると思うんだ。復讐に囚われて無関係な人間を無意味に犠牲にするアンタは、同じ復讐者でも、私と全然違うんだなって」


「だからどうした。結局なにが言いたい。ボクのすることを、頭ごなしに否定したいの?」


「違うってば。説教垂れたいわけじゃなくって、ただ単に、気持ちの整理がついただけ」


 真紅のソードブレイカーに魔力を込める。

 全てを溶かす【沸騰】の魔力を、ありったけ。


「あんたを殺すのに、もう迷いはないよ」


「そう。ボクには最初から迷いは無い」


 レヴィアが腰を落として、前傾姿勢をとった。

 左足を後ろにのばして、両手で剣を横向きにかまえる。


 全力機動よりも、姿勢が高い。

 きっともう、あの技を撃つ力が残っていないんだ。

 私の方もボロボロなんだけどさ。


「次の一撃で終わりだ。お前の首をはね飛ばす」


「どうかな。アンタの方が終わるかもよ」


 月影脚ゲツエイキャク神鷹眼シンヨウガン、どっちもまだ生きてる。

 ただの高速突進なら、捕まえられるはず。


「……いざ」


 レヴィアの足が地を蹴って、私めがけて突っ込んでくる。

 超高速突進に目が馴れたからか、それともレヴィアの体にガタがきてるからか、はっきりと機動が見える。

 よし、あとはソードブレイカーで受け止めて、つばぜり合いにさえ持ち込めば……。


「甘い」


 直前で、レヴィアが急ブレーキをかけた。

 砂煙が舞い上がり、視界がふさがれる。

 まずい、このままじゃ見失——!


 ゾクリ。


 背後からのすさまじい殺気に、体が反射的に動いた。

 体をかがめた瞬間、頭の上スレスレをレヴィアの剣が横にぐ。

 危なっ……、あとすこし遅かったら首を斬り飛ばされてた……。


「コイツ……っ」


 敵が振り切った瞬間、後ろ蹴りを叩き込む。


 ドゴォっ!


「ぐあ……っ!!」


 靴裏が腹に入ったみたい。

 レヴィアがよろけて、致命的なスキができた。

 すぐに振り向いて、上段から剣を打ち下ろす。


「この……、程度でッ!!」


 ガギィィッ!


 けど、さすがだね。

 倒れたりはせずに、体勢を保ったまま剣をかざして私の一撃を受け止めた。

 赤い刃と銀の刃、二つの刃が火花を散らしてつばぜり合う。


「ボクは、負けない……! 復讐を果たすまで、絶対に死なない……!」


「負けない? 違うよ、アンタはもう終わり」


 そう、もう決着はついている。

 つばぜり合いに持ち込んだ時点で、私の勝ちが確定した。


「なにを、言っている……!」


「だから、アンタは負けたんだ。知ってる? 私の剣がなんて名前か」


 激しいつばぜり合い。

 二つの刃の間に火花が散って、やがて。


剣の破壊者(ソードブレイカー)だ」


 こぽっ、こぽこぽっ。


 レヴィアの剣が真っ赤に煮立って溶けはじめた。


「こ、これは……、一体なにが起きて——」


「【沸騰】の力だよ。アンタのお仲間のおかげでさ、新しい力に目覚めちゃって。あと、この剣も」


 魔力を通す真っ赤な鉱石。

 この勝利、コイツを作ってくれたトーカのおかげでもあるのかな。


「コイツは魔力を通す素材で作られててさ、私の手と同じように、魔力を流せば触れただけで沸騰するすぐれモノ」


「ブルムの【機兵】も、こうやって……!」


 ただ、鉱物を溶かすには大量の魔力が必要。

 素手で触る場合と違って、あらかじめ魔力をたくさん剣に溜めてなきゃ溶かせないんだけどね。


「そういえば前の剣、アンタに折られたんだっけか。どう? 自分の行動がめぐりめぐって死ぬ気分は」


 レヴィアの刀身が完全に溶けて、マグマのかたまりになった。

 武器を失って、レヴィアは詰み。

 戦意喪失って感じで、呆然としながら一歩、後ずさりするけどさ。


 私は容赦、しないから。


「じゃあトドメ、いっとこうか」


 ジュッ……!


「いぎぅ、っあああぁぁああっぁぁあぁっぁぁ!!」


 マグマを飛ばして、顔面に叩き付けた。

 ジュージューとフライパンにお肉を置いた時みたいな音がして、レヴィアは転倒。

 絶叫しつつ、顔面を焼かれながら足をバタバタさせる。


「……ふぅ。さぁて、次はアンタかな?」


 ほっといても死ぬヤツはほっといて、割れた窓のむこうにいるヤツをにらみつける。

 そもそもさ、私が殺しにきたのはコイツだもんね。

 どういうわけか知らないけど、のんきに逃げないでいてくれて、本当に助かった。


「ふ……っ、ふふふっ、ふふふふははははははっ!」


 な、なんだ……?

 グスタフのヤツ、いきなり笑いだしたんだけど。

 気持ち悪いな、狂ったのか?


「ふははははっ! 最高のスリルを、最高のショーをありがとう! だがな、そんな素性も知れぬ魔族の女に、この私が命を預けていたとでもっ!? あァまく見るなァァッッ!!」


 うっわ、いきなりキレた。

 声裏返ってるし。


「最初からお前に勝ちはないのだよ! 勇者キリエ、そこが貴様の死に場所だぁぁーっはっはっはっはぁ!!」


 ガシャンっ!


 グスタフが手元のボタンを押した瞬間、ヤツがいた部屋を守るように、シャッターみたいに壁が落ちてきた。

 シャッターと違って分厚い壁だけど、こんなもの妨害にすらなんないよ。


「……これで私から逃げられたつもり?」


 さっき私が剣を溶かした時、よそ見でもしてたのか。

 私の【沸騰】で穴を開けてやれば、簡単に——。


 ドガァァァァァッ!!


「こ、今度はなに!?」


 耳をつんざくような轟音。

 空気を揺るがす大爆発が、目の前の地面から巻き起こる。

 続けて二回、三回と、この空間のあちこちで爆発が起きはじめた。

 これもグスタフのしかけた罠ってわけか。

 クソ、準備のよろしいことで。


「このままじゃこの空間、完全に崩壊するよね……」


 でなくても、爆風に飲み込まれて一巻の終わり。

 こんなところで死んでたまるか!


「ぐあっ、ぎあああぁぁ……っ!!!」


 もがいてるレヴィアは、もうほっとくしかないね。

 トドメを刺してる時間もないし。


 部屋側を閉ざした壁にむけて、爆発の中を全力でダッシュ。

 月影脚ゲツエイキャクのおかげであっという間に辿りつけたけど、問題はここからだ。


溶解メルトっ!!!」


 壁に触れて魔力を流し込む。

 爆発に飲まれる前に、通れるくらいの穴を開けなきゃ。


「早く、早く溶けて……!」


 ドォォォン、ズドォォッ!


 あっちこっちで起きる爆発のせいで、とうとう天井も崩れはじめた。

 レヴィアがどうなったかさっぱりわかんないけど、きっと助からないよね。


「……よし、開いた!」


 なんとか通り抜けられるくらいの穴が、やっと開いた。

 急いで飛びこみ、穴を通りぬけて、割れた窓から部屋に転がり込んだ瞬間。


 ドゴオオォォォォォォッ!!


 ひときわ大きな爆発が起きて、穴の中から爆炎がふき出した。


「はぁ、はぁ……、あ、っぶな……。あと少し遅かったら今ごろ……」


 ……いやいや、生きてる喜びを噛み締めるのは後回し。

 部屋の中に、もうグスタフの姿はない。

 どっかに逃げたみたいだけど、絶対に逃がすもんかよ。

 絶対に追い詰めて、いたぶってからブチ殺してやる。




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