表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/373

94 再戦




「……実験の、失敗作?」


 この、生き物かどうかすらわからない、見てるだけで鳥肌立ってくるような気持ち悪い肉塊が?

 うねうね触手をゆらして、変な液体たらしながら近寄ってくる物体が、元人間……?


「倒してくれてかまわんよ? ちょうど、廃棄処分したいと思っていたところでな。はーっはははっ!!」


 なに言ってんだ、コイツ。

 これが人って、実験に失敗したって、廃棄処分って。


 ……あぁ、そうだろうさ。

 コイツは人の命なんて、なんとも思ってないんだ。

 私の村を滅ぼす命令出したことも、今でもなんとも思ってないんだろ?


「……おい、グスタフ」


「はははっ、はぁ? ……おい貴様、いやしい身分の小娘が、誰のことを呼び捨てにしたッ!!!」


「お前のことだよゴミ野郎。これから殺すから、それまでに思い残したこと全部終わらせてろ」


 うん、すぐキレる性格、謁見の日から変わってないな。

 人を見下す傲慢ごうまんな態度も、私の中に燃えさかる殺意の炎に油をそそいでくれる。


「貴様ぁぁ……っ! 失敗作ども、そいつを八つ裂きにしろっ!!!」


 だからさぁ、こいつらで今の私を殺ろうとかナメてんのか。

 この肉塊たちも被害者なんだろうけど、命令のままに襲ってくるなら容赦しない。

 新しいソードブレイカーの試し斬り、やらせてもらおうか。


 私にめがけて押し寄せる、かわいそうな実験の被害者たち。

 トーカがガントレットをかまえるけど、


「ここは私にやらせて」


 手で制止しつつ一声かけて、群れの中に斬り込んだ。


(たしか、斬ったら沸騰するんだったよね)


 体の中から魔力を集めて手に送る、いつもの感覚、その延長線上。

 手から先、剣へと魔力を流し込む。


「闍ヲ縺励>縺?<縺?▲谿コ縺励※縺上l繧ィ繧ァ繧ァ」


 意味不明な叫びを上げて突っ込んできた肉塊に、まずは一振り。

 膿みたいな黄色い体液がはじけて、それから沸騰、破裂。

 弾け飛んだ肉片が、こぽこぽと泡立ちながらピクピクと動いて、やがてドロドロに溶けていった。


「蜉ゥ縺代※縺?∞縺?♀豈阪&繧薙s繧薙s縺」」


「繝翫ル繝「繧ェ繝「繧、繝?繧サ繝翫う」


 続けて襲ってきた肉塊、全部で十体。

 沸騰の魔力をおびた斬撃を素早く浴びせて、瞬く間に全員が弾け飛んで全滅した。


 なるほど、深く斬る必要はないのか。

 素手で触った場合と一緒、体の表面をなでるだけで魔力を流しこめるんだ。

 コイツは思った以上に強力かも。


「……さてと。グスタフさん、あの世に旅立つ準備は終わった?」


「き、貴っ様ぁぁ〜〜っ!!」


「あなたは下がってて」


 ようやくのご登場か。

 歯ぎしりして悔しがるグスタフを押しのけて、レヴィアが窓枠を飛び越えた。


「コイツを殺すのは、ボクの役目だ」


「あっそ。私はアンタに殺される筋合い、ないんだけどね」


「あなたに無くても、ボクにはある」


「ぜひともお聞かせ願いたいね。あの時の続きをしながら、さ」


 王都では腕を斬り飛ばされて、引き分けみたいな形に終わったけど、今度はそうはいかない。


「……なあ、盛り上がってるとこ悪いんだけどさ。今度もアタシは下がってろ、か?」


 ちょっと居心地悪そうに、トーカが隣に進み出てきた。

 今まで蚊帳かやの外にしちゃってたかな、ちょっと悪いことした気分。


「いいよ、一緒に戦おう」


 正々堂々一対一で戦ってやる必要ないからね。


「ただし、危ないと思ったら下がってよ」


「心得てるさ。ここなら地面があるし、離れてても魔導機兵ゴーレムで援護だって——」


「そうはいかんのだよ」


 なんだ?

 グスタフが口をはさんで、気取った態度で指を鳴らした。

 ムカつくな。


 ゴゴゴゴゴ……。


 地震みたいに部屋全体がゆれて、右側の壁が上へとスライド。

 その向こうには、今いる場所と同じ広さの空間が広がっていた。

 あの右壁は真ん中の仕切りで、この空間は左半分だったわけか。


 で、向こう側にいたのはキマイラ、ガルーダ、ケルベロス。

 一級品の魔物たちばかりが三体、ズラリと並ぶ。


「はははははっ! この私が、失敗作の肉片のみを頼りにしていたとでも思ったか?」


 魔物たちがこちらをギロリとにらんで、獲物を見つけたって感じで舌舐めずり。

 どうせなら高笑いしてるグスタフを喰ってほしい。


「そちら側は魔物研究棟のスペースでな、この私の一声があれば、この程度のスペースと魔物など簡単に貸し出し——」


「……ごめん、トーカ。ホントにごめん。あっちの相手、お願いできる?」


「はいはい、お姉さんは貧乏くじか。ま、【機兵】のギフトさえあれば、あんなヤツらどうとでもなるでしょ」


「貴様ァァァァッ!! 無視するなどとっ! この私がっ! 喋っているのだぞッ!!」


 ため息混じりに、やれやれって感じで魔物の方にむかってくれるトーカ。

 ホント、ちっちゃくても頼れるお姉さんだ。

 あと、キレやすいおっさんがうっさい。


「こいつらはアタシが引き受ける。あんたも負けんじゃないぞ」


「誰に言ってんの」


「つよーい勇者様に、かな」


 地面の砂鉄から、魔導機兵ゴーレムを五体くらい作成。

 腕のガントレットから火を吹いて、ゴーレムたちといっしょに突っ込んでいく。

 いくらトーカでもキツそうな相手だけど、ここは信じて——。


 ガシャンっ!


「な……っ!」


 トーカが右側の空間に行ったとたん、壁が下りて元通りに。

 これじゃあ助けに行けないし、むこうの様子もわからないじゃんか。


「はははははっ!! 分断は戦術の基本だ。不用心なヤツらよ」


「グスタフ……、お前……っ!」


「ねえ、いつまでウダウダやってんの?」


 ……そうだ、今はグスタフよりコイツ。

 私の前方、少しはなれたところで片刃剣をかまえる女魔族に集中だ。

 王都であれだけ苦戦した相手だもん。

 気が散ったまま勝てるほど甘くないよね。


「話はもう終わったんでしょ? さっさとボクに殺されてよ。ボクの仇討ちのために」


「その仇討ちってのが、私としてはワケわかんないんだけど」


「わからなくてもいい。黙って死んで」


 レヴィアの姿がぶれた。

 けどあわてない、タネは割れてんだ。

 いくら速くても、一直線にしか動けない突進技。


 それに、今の私ならなんとなく見えるんだ。

 どこを狙っているのかも、なんとなくわかる。

 今のは右腕を狙った斬撃だった。

 横っ飛びでかわして、地面をごろりと転がって飛び起きる。


「そんなこと言わずにさぁ、教えてよ。……あんたがここにいる理由と、なんか関係あるんじゃないの?」


「——っ」


 表情が変わった。

 無表情から、驚きと怒りと困惑の色が見えた。

 カマかけてみただけなんだけど、この反応、さては図星か?


「やっぱり。人工勇者の実験と関係あるんだ」


「……黙れっ! お前は大人しく、ボクに斬られればいいんだ!」


 おっと、感情的になって突っ込んできた。

 右からと左から、力任せの二度のナナメ斬り。

 腰を落として体を左右に振って、軽く回避する。


「ボクは、姉の仇を討つ! この手で仇を地獄から引きずり出して、殺して、また引きずり出して、ずっとずっと殺し続ける!」


 続けて、足首を狙った水平斬りが来る。

 ジャンプでかわして、頭の上を飛び越えながら上下反転。

 肩をねらって斬りつけるけど、刀身でガードされて弾き返された。


「そのためにお前を、お前たち勇者を殺して、勇贈玉ギフトスフィアを大量に……!」


「へえ、そう。なるほどね」


 弾かれた衝撃を利用して、少し離れた場所に着地。

 敵に向きなおって剣をかまえる。


 そうか、ワケのわからない逆恨みじゃなかったわけか。

 まだまだ全体像は見えてこないけど、冷静さを失ってペラペラ喋ってくれたおかげで話が見えてきた。


「あんたの目的、なんとなくわかったかも」


 きっとそうだ。

 人工勇者の研究と、どう関係するのかはさっぱりだけど。


「つまりさ、あんた。死んだ仇を蘇らせたいんでしょ。自分の手で殺すために」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ