86 機竜に乗って、北の空へ
「トーカ、本気? 【機兵】って、仇の能力だよ?」
「能力は能力、それそのものに罪は無いだろ? 第一、コレは仇の能力じゃない。かつて魔物から人々を守った、昔の勇者の能力だ。【機兵】そのものに恨みはないよ」
サラッと言ってみせたけど、そこまで割りきれるってすごいと思う。
借り物の力で威張り散らしてたアイツとは全然違うね。
「だからキリエ、よければアタシに使わせてくれ」
「……わかった。そこまで言うならこの勇贈玉、トーカにあずけるよ」
どうせ私は使わないし、ね。
首飾りを手渡して、トーカがぎゅっとにぎる。
これで【機兵】のコントロール権は、トーカにうつったはず。
「どうなのです、トーカ! なんか出せそうですか!?」
「んー、どうだろう。練氣とはまた違う力の流れを感じるけど、これが魔力なのかな……」
「とりあえず出してみるですよ、ゴーレムとか色々と!」
なんでメロちゃんがテンション上がってんだろ。
ブルムの戦いを見てたからかな。
トーカってば、ホントに簡単にゴーレムを呼び出した。
しかも数体まとめて。
私が初めて湯沸かしした時、あんなに苦労したのにさ。
あらかじめ知識を持ってたかどうかの差なんだろうけども。
「すごいのです、すごいのですっ! もしかして、あの魔導機竜ってヤツも呼べるのではっ!?」
「おうっ、やってみるぞ!」
ゴーレム崩して砂鉄を固めて、大きな竜の形に再構成。
あっという間に、黒い機竜が出現した。
「やー、簡単にできるモンだな! なんか面白くなってきた!」
「こ、これが魔導機竜! 近くで見るとカッコいいのです!」
「……っ、……っ!」
え、ベアトもはしゃぐの?
ぴょんぴょん飛び跳ねて、結んだ髪がぴょこぴょこして可愛い……じゃなくて、意外だな、この娘まで。
「もしかしてコイツ、飛ばせたりもする? ブルムのヤツ、これで王都までひとっ飛びだって言ってた。もし飛ばせるなら、一気にパラディまで行けるかもしんないよね」
「おうっ、もうどんどん試そう!」
こういうのって、技術屋の血やら探究心がさわぐんだろうか。
トーカもテンション高めだな。
ガーゴイルが翼を動かして、空高く飛び上がって、はるか頭上をぐーるぐる。
メロちゃんも追いかけて、ハイテンションでくーるくる。
「……うん、飛ばすぶんにも問題なしだ!」
「すごいのですっ! 魔法で動くゴーレムドラゴン、こんなものに乗れるなんて、すごすぎるのですっ!」
「これなら日程、かなり短縮できそうだね」
けどメロちゃん、背中の上ではしゃぐなよ。
下手すりゃ落ちるから。
私たち四人を背中に乗せて、機竜が大空へとテイクオフ。
みるみる地面が遠ざかって、森の上をそれなりの速度で飛んでいく。
背中がたいらになってるから、座り心地はそれなりかな。
「歩くより全然速いのです! これならすぐに着きそうなのです!」
「さすがに数日はかかると思うがな! ホントはもっとスピード出せるけど、そしたらメロがすっ飛んでくだろ? ちっちゃいし」
「むー、ちっちゃいとか言われたくないのです! トーカにだけは言われたくないのです!」
鉄の竜の背に乗って、相も変わらずじゃれ合う二人。
メロちゃんの存在が、トーカの心の傷を少しでも癒してくれればいいな。
私にとっての、ベアトみたいに。
「……?」
となりに座ってるベアトと、目が合った。
私がパラディに行きたかった理由、じつはもう一つあるんだ。
生け贄として狙われる理由をつきとめて、もし可能なら叩き潰したい。
「……っ」
にっこりと微笑んでくれるベアトに、私は笑い返せないけど。
この娘が安心して眠れるように、安心して過ごせるように、力を尽くしたいって思ってる。
「絶対に守るからね」
「……っ!」
もちろん、一番の目的は大臣の抹殺だけど。
こいつだけは絶対にゆずれない。
草の根分けても探し出して、生き地獄を味あわせてから息の根止めてやる。
「……っ」
とか思ってたら、そでクイされた。
「あ、ごめん……。また怖い顔、しちゃってたか」
「……?」
不安げに、小首をかしげるベアト。
やらない方がいいですか。
そう言ってくれたんだと思う。
「……ううん、お願い。これからも続けて。ベアトを守るって目的の方を見失わないために」
こうやって返したら、こくり、うなずいた。
合ってたみたいだ、以心伝心ってメロちゃんにまた言われそう。
タルトゥス軍の方は、まだまだ動かないはず。
今のうちにパラディで、やれること全部やってしまおう。
ただ問題は、ブルムが死んだことがどうでるか、だけど。
(ギリウスさんたち、うまい感じにやってくれてるかな……)
それと、影武者のベルの方も気になる。
あのヘタレな女騎士、ヘマしてないだろうな……。
●●●
ブルムを送ってしばらく経ったころ、『あの子』からメッセージが届いたの。
とっても嬉しそうに、ごちそうさま、ですって。
ふふっ、かわいいわね、ホント。
あの二人の【ギフト】、思った通り相性バツグンだったわ。
これでキリエちゃんは、ますます強くなった。
「……っと、みーつけた」
発信機のついた首輪、茂みの中に投げ捨てるなんて、ひどいわねぇ……。
せっかくジョアナお姉さんがプレゼントしてあげたのに。
「あの娘たち、カンがいいのは知ってたけど、あっさり気付かれちゃったわね。もしかしたら、私も疑われちゃってたりして」
なーんて、それは無いか。
ともあれ、どこに行っちゃったのかわからないのは問題ね。
次に行きそうな場所、もしかして大臣のいるパラディだったりするのかしら。
(もしそうなら、ちょっと面白いことになりそうね。リーダー、むこうに送ったあと、どうなったかは知らないけど)
だって私の目的と、パラディの目的は別だもの。
大臣やリーダーを送ったのは、あくまでパラディの一員の義務として。
送ったあとのことなんて知らないわ。
私個人の目的は、『あの子』のお腹を満たすこと。
『あの子』の声を聞ける人なら私以外にもいるけれど、『あの子』が本音を打ち明けてくれるのはこの私だけなんだもの。
『————たべたぃ——————もっと————』
「あら、もう次のおねだり? つい最近、とびっきりのごちそうを食べたじゃない」
『——たりなぃ————ぉぃしぃもの————たべさせて——————』
「はいはい、食いしん坊ね。心配ないわ、またすぐに、おいしいごはんを食べられるわ」
『————ぅれしぃ————』
かわいらしいわね、こんなに嬉しそうに。
(ふふっ、がんばってね、キリエちゃん。仇討ち、応援してるわよ……)