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83 心は晴れないままで




 マグマを浮かせて操って、一度ブルムの体から離してやる。

 下半身、大やけどでひどいことになってる。

 皮がめくれてあちこち焦げて、きっともう二度と歩けないね。

 ま、今から死ぬヤツがそんなこと、気にする必要ないんだけど。


「ひっ、た、助けて……っ! わっち、いやだ、死にたくない……っ!」


「そうだね。誰だって死にたくないと思うよ」


「ひ、ひっ……」


 ズダァァンッ!!


 溶岩の塊を、上からおもいっきり叩き付ける。

 顔以外の全てが、ドロドロに溶けたマグマの下敷きになった。

 顔だけ出してあげたのは、トーカにコイツの悲鳴や断末魔を聞いてもらえるように。

 その方がきっとスカッとするでしょ?


「いぎゃああぁぁぁぁぁぁっ、あああぁぁあぁ、ああぎゃああぁぁっ!!!!」


 汚い絶叫が響きわたる。

 服や体が炎に包まれて、生き物の焼ける嫌なニオイがあたりにただよってきた。


「あぎゃあああああぁぁぁっ、あがっ……、……ぁ……」


 でも、すぐに悲鳴が途絶えちゃった。

 もう魔族だったか、女だったかもわかんない黒コゲのかたまりになって、パチパチと音を立てて燃え上がる。

 もっと苦しんでほしかったけど、さすがにマグマじゃすぐ死んじゃうか。


「はぁ、はぁ……、や、やったよ、トーカ……」


 約束どおり、仇を討った。

 あの日の王都でのモヤモヤも、とりあえず一つ解消だ。


「はぁ……、はっ……」


 あ、ダメだ。

 体に力はいんない。

 世界がぐるぐる回って……、


 ドサっ。


 私の体は、大の字にぶっ倒れた。


「……っ!!!!」


 誰よりもまっさきに、ベアトが駆け寄ってきてくれた。

 私のそばにしゃがみこんで、すぐに治癒魔法をかけはじめる。

 いまにもこぼれおちそうな涙をこらえながら、必死にかけてくれてる。


(また私、ベアトを悲しませちゃったか……)


 戦うたびにこんな顔させるの、もう嫌だな。

 体の痛みもキツイけどさ、どんなに痛くても我慢できるんだよ。

 けど、ベアトを悲しませた時に感じる胸の痛みは、ちょっと我慢できないんだ。


「……、……っ」


「ん、もう平気……」


 ベアトのおかげで、動けるくらいには回復した。

 ただ、あくまで体力回復程度の応急手当。

 まだ骨とか折れてそうだし、村に戻ったら改めて、ていねいにやってもらおう。

 ベアトの負担になっちゃいそうで、それもまた辛いんだけど……。


「……ありがと、ベアト」


 起き上がって、頭を撫でてあげる。

 こうしたらこの娘、悲しそうな顔やめてくれるんだよね。


「……っ」


 ほら、笑ってくれた。

 私はまだ笑えないけど、いつかこの笑顔に笑い返してあげられたらいいな……。


「キリエ、無茶しすぎ。ヒヤヒヤもんだよ……」


「お姉さんはいっつもあんな感じですよ。いっつも危なっかしいのです……」


 二人にも心配かけちゃったみたい。


「私だって痛いのは嫌だけどさ、なぜかこうなっちゃうんだよね……」


 ちょっと反省しないといけないかな。

 みんなに、ベアトに、私が戦えば大丈夫だって思ってもらえるくらい、強くならなきゃ。


「そんなことよりトーカ、約束通り仇は討ったよ」


「あぁ、見てた。しっかり見てたさ。アタシじゃ絶対に勝てない相手だった。ありがとう、キリエ」


 トーカ、口ではお礼言ってるけど、笑ってもいないし泣いてもいない。

 私ともメロちゃんとも違う反応なのは、やっぱりさっき、坑道で言ってたことが原因だよね。


 妹を死なせたの、戦場に行かなかった自分にも責任があるって思ってるんだ。

 自分を許せないかぎり、きっとトーカの仇討ちは終わらないんじゃないだろうか。


「けほ……っ。約束だからね、どういたしまして」


 元ブルムに乗ってる溶岩を浮かべて、遠くに投げ捨てる。

 魔力制御から解放すると、少しずつ冷えて、黒く固まっていった。


「……アイツ、どうして私たちがここにいるってわかったんだろう」


 襲撃があった時から、不思議だったんだよね。

 勇者の私はわざわざ男装して、あとの二人は顔が知られてないから、行き先なんて追えないはず。

 そもそもドワーフの国に行くってのも、途中でメロちゃんが決めたんだ。

 そのあと誰にも言ってないし、敵に漏れるはずが……。


「ベアト、メロちゃん、心当たりある?」


「……?」


「さっぱりないですよ」


「だよね。わかるはずないんだよ……」


 どういうことだ、これ。

 まるでリアルタイムにこっちの居場所が筒抜けみたいだぞ。


 ……って、あれ?

 こんなこと、前にもあったような。

 そう、今みたいにメロちゃんと、それからジョアナともいっしょに行った、フレジェンタで。


「……そうだ、ノアの時に似てる」


 魔力発信機、だったっけ。

 魔力を込めておけば、相手がどこにいても居場所がわかるってマジックアイテム。


「……おぉ、それかもしれないですよ!」


「ホントに発信機のしわざだとすると、問題は誰のどこにしかけられてるか、だよね」


「……あたい、ちょっと探ってみるです! 魔力がこめられてるですから、おもいっきり集中すれば、おかしな魔力の流れを感じ取れるはずです!」


 そんなことできるんだ。

 メロちゃんが目を閉じて、発信機の魔力を探りはじめた。

 邪魔しちゃ悪いから、静かにしてよう。


 そしてトーカ、なんの話だって感じだよね。

 おいてけぼりにしちゃって申し訳ない。


「……!! ありました、ベアトお姉さんの首輪から、あたいら以外の別の魔力を感じるです!」


「……っ!?」


「ベアトの、首輪……?」


 意外な場所だったけど、とりあえず確認しなきゃ。

 私が首に手を回して、首輪を外してあげると、なぜか顔を赤くされた。


「よし、取れた」


 首輪のないベアト、なんか変な感じだな。

 たしかこの首輪、リーダーの家に来た時、ジョアナが用意してくれた着替えにまざってたんだっけ。

 カロンの屋敷で出会った時もボロボロの首輪してたし、ベアトのトレードマークみたいなとこあるよね。


 とりあえずメロちゃんに渡して、怪しいところを調べてもらった。


「どう? なにかわかった?」


「むむ、この裏側になにか埋め込まれて……」


 メロちゃんの指さす先、首の後ろにあたる部分に、たしかに少しふくらんでるとこが。

 言われなきゃわからないくらい、本当にほんの少しだけふくらんでる。

 発信機って、こんなに小さいヤツもあるのか。


「革の中に埋め込まれてる……。壊さないと取り出せないし、捨てるしかないか。……でも、ちょっともったいないな」


 犬っぽくてかわいいし、似合ってるのに。


「……っ!!」


 とか思ってたらベアト、猛然とペンを走らせて、


『すてましょう!!』


 と、でっかく書かれた紙を私たちに見せてきた。


「お、お姉さん!? ずいぶんと思いきったのです」


「……っ」


「いいの? アレ、それなりに愛着あったでしょ?」


「……」


 こくり。

 うなずいてからもう一度、サラサラと。


『キリ みなさんのあんぜんのほうがだいじです!』


「……そっか。ありがとね、私たちのこと一番に考えてくれて」


 頭をなでてあげると、また笑ってくれた。

 ベアトがそう言うのなら、帰りぎわ、森の中にでも捨てていこう。

 首輪、そのうち新しいの買ってあげないとね。


「な、なんか、とっても厄介な事情があるみたいだね……」


「まあね。トーカもあんまり深く関わらない方がいいかもよ?」


 さて、居場所がバレてた問題は解決したけど、新しい問題が出てきた。

 誰がいつどうやって、ベアトの首輪のあんな場所に発信機なんて仕込んだんだろう……。

 こればっかりは考えても、答えが出る気しないな。


「ところでお姉さん。魔力の流れを探ってる時、ものすごい魔力をあの黒コゲから感じたのですが」


「あの黒コゲから?」


 まさかまだ生きてるのか、あの黒コゲ。

 風に吹かれて散っていってるけど。

 近寄ってみると、右腕のところでなにかがキラリとかがやいた。


「これ、勇贈玉ギフトスフィアだ」


 はめこまれてた腕輪は黒コゲの炭になってる。

 ツン、と突っついたらボロボロ崩れて、小さな黒い玉が転がってきた。

 腕輪がこんな状態なのに、玉は完全に無傷だ。


 そういえば【治癒】の勇贈玉ギフトスフィアも、ギリウスさんの全力攻撃で傷一つ付かなかった。

 半端じゃなく頑丈だったりするのか、これ。


「おぉ、無事だったのですか。【機兵】ゲットで目的の一つ、果たせたんじゃないですか?」


「うーん、どうだろ……」


 たしかに、この旅の目的の一つは、勇贈玉ギフトスフィアの入手による戦力アップ。

 けどさ、私に【機兵】って相性いいか?


「微妙だな……」


 ゴーレムさし向けたり、でっかいガントレットでぶん殴ったりするんでしょ?

 触れば即死な私の【沸騰】と、長所を殺し合ってる気がする。


 まあでも、貴重なものには変わりない。

 とりあえず拾って、今度こそ失くさないように、しっかりカバンに入れておこう。




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