81 【沸騰】VS【機兵】
「ありえない、ありえない、ありえないっ! あんたの【沸騰】は、水を沸騰させるギフトのはずじゃ……」
「私もずっと、そう思いこんでたよ」
ゴーレムの手を溶かして作ったマグマ、お湯と同じように飛ばせるみたいだ。
殺傷能力は、お湯なんかと比べものにならないけど。
「そ、そんなこけおどしっ! ズタボロ死にかけのブンザイで、何ができるんだってな! お人形ちゃん、踏み潰せ!」
あーあ、あせってるのがモロバレだよ。
ピンチの時こそ余裕ぶるべきだってのにさ。
右手首から先を失った魔導巨兵が、私を踏み潰すために片足を振り上げた。
さて、逃げなきゃ間違いなくペチャンコだ。
走れるかすらあやしい体だけど、余裕なフリして全力疾走。
何度も転びそうになりながら、足の影からなんとか転がり出たコンマ数秒後、でっかい足が私のいた場所を踏みつける。
ズドォォっ!
「っぐううぅ!」
衝撃で体が吹き飛ばされそう。
飛び散る地面の破片が当たって、クソ痛い。
だけども、そんなことで怯んでられるか。
歯をくいしばってUターン、全速力で足に駆けよって、右手をのばす。
のばしてのばして、指先がすこしだけ、冷たくかたい感触に触れたその瞬間。
「溶解ッ!」
全開の魔力をそそいで、巨大な足全体を灼熱のマグマに変える。
片足を失ったゴーレムが、巨体を支えきれずにあおむけにすっ転んだ。
トドメに特大の溶岩ボールをあやつって、
「テメェの足で、焼き尽くされろっ!!」
顔面に思いっきり叩き付け、バイザーのスキマから溶岩を送り込んで、体の中を焼き尽くす。
体中の関節から煙を吹き出して、デカブツは完全に機能を停止。
「わ、わっちの魔導巨兵がっ、こんな簡単にっ!?」
「次はお前だよ。ちょろちょろ飛びまわってないでさあ、いい加減降りてきてもらうから」
「冗談じゃないってな! お前には近寄らないって言ったはずだっての!」
なんかわめいてるな、まあいいや。
体内の血で死体を飛ばすヤツの応用で、溶岩がたっぷりつまったデカブツをいつでも飛ばせるようにスタンバイ。
鉱物を溶かすのって、湯沸かしの何倍も魔力を消費するみたい。
しかも、こんな大量の溶岩を操って飛ばすもんだから魔力がガリガリ削られてく。
死ぬほどキツイけど、ここは余裕のフリ。
私が平気な顔でいればいるほど、敵はどんどんあせるはずだから。
「ここはいったん退いて、作戦ねり直しだわね」
ガーゴイルの翼が変形して、筒みたいなのが後ろむきに飛び出してきた。
筒の中に火がともったけど、たぶんアレ、ものすごいスピードが出るヤツじゃないか?
「……逃がすとでも思ってんのか」
まわりに浮かばせてた溶岩を全開の速度で飛ばして、左翼の筒の中に放り込んだ。
「さあガーゴイルちゃん、王都までひとっとび——」
ドカァァァッ!!
「なんだってなぁぁ!?」
筒が火を噴いた瞬間、溶岩の高熱とまざって爆発した……のかな。
くわしい原理はわかんないけど、とにかく狙いどおりに大爆発が起きて、左の翼が吹っ飛んだ。
「ぐぬぅっ! こんなのすぐに修復してやるわさ!」
「逃がさないって言ってんだろ……!」
バランスをくずして動きが止まったガーゴイル。
ここしかないってタイミングで、準備してた巨大ゴーレムを浮かべて、全力で叩きつけにいく。
半端なく重いけど、魔力が底をつきそうな勢いだけど、歯をくいしばって。
「お前はそのまま、地に墜ちろッ!」
ゴシャッ!!
「ぎゃ……っ!!」
ズドオオオォォォォォォ……ッ!!
ドデカイ鉄のかたまりを叩きつけられたガーゴイルが空中で爆発四散。
ブルムは激突の直前に飛び降りて、爆発には巻きこまれなかったみたいだ。
「くそっ、くそっ!! このわっちに、ナメたマネをっ!!」
文句言いながら落ちてきて、身軽に着地。
やーっとさわれるところに来てくれたね、嬉しいよ。
溶岩のコントロールを手放しつつ、全速力で接近。
「コイツっ、死にかけのくせにこの速度……っ!」
右手で顔面をつかみにかかるけど、バック転で身軽によけられた。
やっぱりコイツ、素の戦闘力もかなり高いみたい。
つかみかかって空ぶり、つかみかかって空ぶりを何度か繰り返す。
月影脚じゃないと捕まらないかな。
そう思って練氣を練ろうとした時、体に強烈な痛みが走る。
よろけて攻撃の手がとまっちゃって、そのスキに敵は遠くに飛び離れた。
「ぐ……っ」
今の、ちょっと力みすぎたせいか?
体を痛くないように動かないと、とても持たないぞ。
「はっ、やっぱり死にかけの重傷だ。つってもわっちの方もこの体じゃあ、接近戦はきびしいな。本気、出させてもらうとすっかね!」
「……本気?」
なんだそれ、今まで本気じゃなかったとか陳腐なこと言うつもりか。
「ホントは嫌なんだけどねー、こっちの姿のがカワイイからさっ」
ブルムの体が、白い魔力の光につつまれた。
そのシルエットが、手が、足がすらりとのびて、胸がふくらんでいく。
成長、してる……?
「……っはぁー、かんせーい」
光がはじけた時には、もうすっかり大人の姿になっていた。
……大人になっても、金髪ツインテールはそのまんまかよ。
服も子ども向けでパッツパツだし。
「なに? 変身魔法でも使って成長したの?」
「いやさ、これがわっちの本来の姿さね。自分で戦う時以外は、変身魔法で子どものカッコしてんだ。カワイイし、なにかとチヤホヤされておトクだろ?」
いや、理解できないな、ちょっと。
いい年して子どもごっこしてたってことか。
かなり痛々しいぞ、それ。
「だから、さぁ……。いつまでも子どもみたいなカワイイ姿でチヤホヤされるドワーフが、わっちは大っきらいなんだ」
……なんのつもりだ。
わざわざベアトたちの、トーカの方をむいて、聞こえるように大きな声でなんかほざいてる。
「ムカついてムカついてしかたなかったさー。わっちがわざわざ魔法使って得ているものを、はじめっから持ってんだもんなぁ。だからさ、攻撃命令が下りた時は小おどりしたわな」
「……黙れ」
トーカが怒ってる。
まずい、このままじゃベアトたちを放って殴りこんでくる。
まさかコイツ、それが狙いか。
トーカを挑発して、ベアトたちから引き離すつもりか。
「カワイイ子どもスタイルのまま、お人形ちゃんたちでめった刺してやったわさ。ひひっ、最高にスカッとしたってな!」
「貴様……ぁぁっ!」
やっぱりだ、坑道の中にまだ残ってたゴーレムが、ベアトたちの後ろにゆっくりと近づいてきてる。
みんな、まだ気付いてない。
「待って、トーカ! 後ろ——」
「っあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
怒りの叫び。
もうダメだ、私の声なんて届いてない。
ガントレットに練氣を込めて、拳をにぎりしめると、
ドガァァッ!!!
そのまま、振り返りながらの練氣パンチをゴーレムの顔面にブチ込んで、一撃で殴り砕いた。
「……ふぅ。大丈夫、キリエ。アタシは冷静だ。こんなナリでも大人だからな」
「トーカ……」
「アイツらの仇、とってくれるんだよな? 信じてるぞ!」
「……うん、まかせて」