79 【機兵】強襲
立ちはだかる六体の魔導機兵。
術者の姿も気配もどこにもない、きっと遠くから操ってるんだ。
たぶん、この坑道の外から。
「トーカ、詳しく説明してるヒマはないんだけど、こいつらは——」
「ゴーレム……ッ!」
「……知ってるの?」
「よーく知ってるさ。ドワーフ軍を壊滅に追い込んだのは、ゴーレム使いを名乗る、黒い騎士を率いた魔族だったって……!」
赤いリボンにそっと触れて、怒りと共に吐き出した言葉には、それ以上の気持ちがこもってた。
そっか。
きっとその時に、親しい誰かが殺されたんだね。
「キリエは下がってて。ここはアタシがブチ砕く」
「そうはいかないよ。私もコイツには——コイツらにはたっぷり恨みがあるんだ」
もう二度と、王都での不意打ちみたいにいくもんか。
魔導機兵は無生物。
触れても体液を沸騰させたりできないけど、それだけで勝てると思うなよ。
「練氣・鋭刃っ!」
今の私にはこれがある。
まずは刀身に練氣をまとって、切れ味を増す基本技。
「食らえっ!」
ズバァァッ!!
一番近い魔導機兵にかけよって、胴体を右からナナメに斬り裂く。
正直言って私、練氣の扱いはまだまだなんだ。
スティージュにいた時、ギリウスさんと特訓したんだけど、基本的な技しかマスターできなかった。
あの人やイーリアみたいな大技なんて絶対ムリ。
けど、この程度の相手なら基本技で十分っ!
「もう一発っ!」
今度は左からナナメに斬り裂いて、ゴーレムの胴体がX字に分かたれて機能停止。
続けざまに二体、三体、四体まで斬り倒す。
「おらおらおらぁッ!!」
その間に、残りのニ体をトーカが殴りまくってボッコボコに破壊してた。
これで全滅……ってわけにはいかないよね。
出口の方から、たくさんの足音がどんどんこっちに近づいてる。
「二人とも、私とトーカで道を切り開く! 後ろ、ついてきて!」
「はいです!」
「……っ!!」
一声かけてから、出口をめざして走り出す。
トーカと並んで、ベアトたちがついてこれる程度の速さで。
後ろの二人を気にかけながら、立ちはだかるゴーレムを斬り倒し、殴り倒し、走って走って洞窟を脱出。
坑道まで飛び出したところで、
「……止まって!」
洞窟の出口にベアトたちを待機させて、辺りの様子をうかがう。
ここから先は迷路みたいな坑道だからね。
一直線だった洞窟と違って、はさみ打ちにも気をつけなきゃ。
山積みのダマスカス鋼はとりあえず放置。
後で取りに戻ればいいよね。
「ここから先は慎重に、ゆっくり歩いていこう。トーカ、メロちゃんおぶれる?」
「当然。なんたってこの中で一番年上だからね!」
……ちっちゃいこと気になってるのか?
種族的なものだし、気にしなくていいのに。
方針がかたまったところで、鉱山の出口をめざして出発。
そこらじゅうにいるゴーレムを見つけ次第に倒しながら、ベアトの安全には特に気を使って進んでいく。
敵の狙いはまず間違いなく、ベアトをさらうことだろうから。
この娘を生け贄にされてたまるか。
誰にも渡してたまるものかよ。
○○○
坑道を進む中、疲れてきたベアトたちをちょっと休憩させる。
安全な行き止まりで二人を休ませて、トーカと二人で見張りに立ちながら、ふとさっきのトーカの言葉が気になった。
「……ねえ、トーカ。さっきの話、聞いたりしてもいい?」
「さっきの……って?」
「このゴーレム使い、誰かの仇なんでしょ?」
「……そのことか。あんまり話したくないんだけど、キリエも勇者だってこと、話してくれたしな。特別だ」
ちょっとだけ言いにくそうだったけど、トーカは語ってくれた。
「本当なら、アタシがドワーフ軍として戦場に出るはずだったんだ。この通り腕っぷしも立つし、さ。けど、上層部から通達が来て、お前は村に残って鍛冶を続けろって。それで、妹が代わりに前線へ行くことになった」
鍛冶の腕も強さも、トーカの方がずっと上。
ドワーフ隊の役目は後ろの方の予備戦力だったから、上層部もトーカを戦場に送るより、鍛冶を続けさせる方がいいって判断したみたい。
「妹ってば気弱なくせにガンコでさ、一度決めたら絶対にゆずらないヤツだったんだ。アタシが行くって言ってんのに、お姉ちゃんは残って鍛冶してて、の一点張り。アタシは根負けして、妹に全部押し付けた。友人たちも戦場に行くってのに、アタシ一人が安全な村に残って鍛冶をし続けた」
ギュッと噛んだトーカの唇から、ひとすじの赤い血が流れた。
「許せないんだよ、仇も、自分もっ……!」
「トーカ……」
「妹は殺された。友人たちも死んだり、鍛冶師として絶望的なケガをしたヤツもいる。なのにアタシ一人がのうのうと……っ!」
「……私にはなんのなぐさめもできないけどさ、実は私もメロちゃんも同じような経験あるんだ」
「……そうか。良ければ今度、聞かせてくれよ」
「もちろん。その代わりと言ったらアレだけど、仇討ち、私がかわりにやってもいいかな」
「……くやしいけど、アタシじゃ勝てそうにないね。いいよ、そのかわり絶対に——」
「うん、わかってる」
心配しないで。
絶対に、コイツを殺してあげるから。
○○○
休憩終わってから、どのくらいたったかな。
ふいに通路が明るくなって、階段の先にまぶしい光がさしこむ出口が見えた。
「……見えたっ、もう少しだぞ少女たち!」
「や、やっとなのです……」
「……っ」
ベアト、すごく疲れてる。
ごめんね、もう少しだから。
「出口だけあって、団体さんがゾロゾロ入ってきてるけどね……」
当たり前だけど、坑道の中のゴーレムたちって、全部ここから送り込まれてるんだよね。
出口へ続く短い通路、ゴーレムであふれかえってる。
「さぁラストスパートだっ!」
「……むしろ、出てからが本番って感じだろうけど」
気合いを入れてつっこむトーカに聞こえないよう、ぽつりとつぶやく。
そう、ここからが本番だ。
コイツらを操っている親玉が、この先にいるんだから。
「おりゃおりゃおりゃあぁぁあぁっ!!」
「すごいのですっ! トーカすごいのですっ!!」
「トーカお姉さんだろ、メロ!」
やる気満々で魔導機兵を蹴散らすトーカを尻目に、こっそりと力をセーブ。
そもそも、ここまで本気出してないけど。
トーカがゴーレムの大群をまとめて練氣パンチでぶっ飛ばし、一番に坑道から飛び出した。
少し遅れて私とベアトも脱出。
「……って、なんだこれ! 多い!」
出迎えてくれたのは、入り口をかこむ大勢の黒い鎧騎士。
そして、
「あーららぁ。レヴィアに傷を負わせるくらいだもんね。やっぱりゴーレムちゃんじゃ止められないかー」
「声!? どこだっ!」
「……上だよ、トーカ」
全身を黒い鎧で覆ったようなドラゴンの背に乗って、上空からこっちを見下ろす魔族の少女。
アイツが五人組の魔族の一人、ギリウスさんたちの前に現れたっていうゴーレム使いだな。
「上……? とわっ、なんだあのドラゴン!?」
「いいリアクションだーね! わっちの魔導機竜ちゃん、かっこいいだろう?」
ガーゴイル……?
よくわかんないけど、あれも生き物じゃなくて【機兵】で創り出したゴーレムの一種か。
敵の顔を見た瞬間、トーカの表情が一変した。
ものすごく怒ってる顔だ。
「ゴ、ゴーレム使い……っ! お前か……? お前が、ドワーフ隊を壊滅させたヤツか!」
「はぁ? そうだっつったらどーすんの。あんなの戦争じゃよくあることだろ?」
「ドワーフ軍に、戦う意志はなかったはずだ! ただお前らの暴走を止めようとしただけ! それを一方的に攻撃しておいて、戦争の犠牲だなどと、どの口がッ!」
「わーメンドクサ。わっちはお前になーんも用ないのさね。余計な時間、取らせないでほしいってな」
「お前……、お前っ!!」
「トーカ、何言ってもムダだよ」
そう、言葉なんて無意味だ。
こういうヤツは何を言っても。
死ぬまでわかんないんだから。
「絶対に殺すから、安心して」
「……あぁ、そうだったな。任せたぞ」
トーカが後ろに下がって、私は一歩前に出る。
うん、ますます負けられなくなった。
どす黒い殺意の炎を燃やして、上空を飛ぶ機竜の背の上をにらむ。
「トーカはベアトたち連れて、坑道の入り口あたりにいて。二人のこと、お願い」
「……この娘、大切なんだろ? しっかり守るから、お姉さんに任せて思いっきりやってきな!」
年上のお姉さんがいるのって、なんか頼もしいな。
ジョアナといっしょの時の安心感を思い出す。
アイツとくらべて、かなりちっちゃいけど。
「……はーあ、さっきから黙って聞いてりゃあさ。ナニ? アンタ、わっちに勝つ気でいんの?」
「勝つ気っていうか、殺す気でいるよ。王都での火事場泥棒っぷりも、かなり怒ってるんだから」
「身の程知らずにもほどがあるってね! 知ってるよ? あんたの【ギフト】、無生物には効果がないんだろ。魔導機兵ちゃんたち、やっちまいな!」
ゴーレムが、ざっと五体かな、いっせいに私に襲いかかってくる。
「……身の程知らずはどっちかな」
鋭刃と金剛力を同時発動。
パワーと切れ味を上げて、ゴーレムたちが間合いに入った瞬間、一回転してなぎ払った。
ズバアアァァァッ!!
五体のゴーレムが胴体を分断され、上半身と下半身にわかれて機能停止。
こいつら程度で私を殺そうだなんて、ハッキリ言ってナメてるよね。
私を殺りたきゃ、てめえが下りてこいっての。
「ねえ、アンタさあ。数とか関係ない強者の一人だと思ってたけど、もしかしてザコの数そろえるだけしか能がないの? だとしたら、とんだ期待外れだね」
「ほぉ、言ってくれるじゃん。【機兵】の恐ろしさを前にして、まだその口が叩けるか試してやるってな!」