表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/373

79 【機兵】強襲




 立ちはだかる六体の魔導機兵ゴーレム

 術者の姿も気配もどこにもない、きっと遠くから操ってるんだ。

 たぶん、この坑道の外から。


「トーカ、詳しく説明してるヒマはないんだけど、こいつらは——」


「ゴーレム……ッ!」


「……知ってるの?」


「よーく知ってるさ。ドワーフ軍を壊滅に追い込んだのは、ゴーレム使いを名乗る、黒い騎士を率いた魔族だったって……!」


 赤いリボンにそっと触れて、怒りと共に吐き出した言葉には、それ以上の気持ちがこもってた。

 そっか。

 きっとその時に、親しい誰かが殺されたんだね。


「キリエは下がってて。ここはアタシがブチ砕く」


「そうはいかないよ。私もコイツには——コイツらにはたっぷり恨みがあるんだ」


 もう二度と、王都での不意打ちみたいにいくもんか。

 魔導機兵ゴーレムは無生物。

 触れても体液を沸騰させたりできないけど、それだけで勝てると思うなよ。


練氣レンキ鋭刃エイジンっ!」


 今の私にはこれがある。

 まずは刀身に練氣レンキをまとって、切れ味を増す基本技。


「食らえっ!」


 ズバァァッ!!


 一番近い魔導機兵ゴーレムにかけよって、胴体を右からナナメに斬り裂く。

 正直言って私、練氣レンキの扱いはまだまだなんだ。

 スティージュにいた時、ギリウスさんと特訓したんだけど、基本的な技しかマスターできなかった。

 あの人やイーリアみたいな大技なんて絶対ムリ。

 けど、この程度の相手なら基本技で十分っ!


「もう一発っ!」


 今度は左からナナメに斬り裂いて、ゴーレムの胴体がX字に分かたれて機能停止。

 続けざまに二体、三体、四体まで斬り倒す。


「おらおらおらぁッ!!」


 その間に、残りのニ体をトーカが殴りまくってボッコボコに破壊してた。

 これで全滅……ってわけにはいかないよね。

 出口の方から、たくさんの足音がどんどんこっちに近づいてる。


「二人とも、私とトーカで道を切り開く! 後ろ、ついてきて!」


「はいです!」


「……っ!!」


 一声かけてから、出口をめざして走り出す。

 トーカと並んで、ベアトたちがついてこれる程度の速さで。

 後ろの二人を気にかけながら、立ちはだかるゴーレムを斬り倒し、殴り倒し、走って走って洞窟を脱出。

 坑道まで飛び出したところで、


「……止まって!」


 洞窟の出口にベアトたちを待機させて、辺りの様子をうかがう。

 ここから先は迷路みたいな坑道だからね。

 一直線だった洞窟と違って、はさみ打ちにも気をつけなきゃ。


 山積みのダマスカス鋼はとりあえず放置。

 後で取りに戻ればいいよね。


「ここから先は慎重に、ゆっくり歩いていこう。トーカ、メロちゃんおぶれる?」


「当然。なんたってこの中で一番年上だからね!」


 ……ちっちゃいこと気になってるのか?

 種族的なものだし、気にしなくていいのに。


 方針がかたまったところで、鉱山の出口をめざして出発。

 そこらじゅうにいるゴーレムを見つけ次第に倒しながら、ベアトの安全には特に気を使って進んでいく。


 敵の狙いはまず間違いなく、ベアトをさらうことだろうから。

 この娘を生け贄にされてたまるか。

 誰にも渡してたまるものかよ。



 ○○○



 坑道を進む中、疲れてきたベアトたちをちょっと休憩させる。

 安全な行き止まりで二人を休ませて、トーカと二人で見張りに立ちながら、ふとさっきのトーカの言葉が気になった。


「……ねえ、トーカ。さっきの話、聞いたりしてもいい?」


「さっきの……って?」


「このゴーレム使い、誰かの仇なんでしょ?」


「……そのことか。あんまり話したくないんだけど、キリエも勇者だってこと、話してくれたしな。特別だ」


 ちょっとだけ言いにくそうだったけど、トーカは語ってくれた。


「本当なら、アタシがドワーフ軍として戦場に出るはずだったんだ。この通り腕っぷしも立つし、さ。けど、上層部から通達が来て、お前は村に残って鍛冶を続けろって。それで、妹が代わりに前線へ行くことになった」


 鍛冶の腕も強さも、トーカの方がずっと上。

 ドワーフ隊の役目は後ろの方の予備戦力だったから、上層部もトーカを戦場に送るより、鍛冶を続けさせる方がいいって判断したみたい。


「妹ってば気弱なくせにガンコでさ、一度決めたら絶対にゆずらないヤツだったんだ。アタシが行くって言ってんのに、お姉ちゃんは残って鍛冶してて、の一点張り。アタシは根負けして、妹に全部押し付けた。友人たちも戦場に行くってのに、アタシ一人が安全な村に残って鍛冶をし続けた」


 ギュッと噛んだトーカの唇から、ひとすじの赤い血が流れた。


「許せないんだよ、仇も、自分もっ……!」


「トーカ……」


「妹は殺された。友人たちも死んだり、鍛冶師として絶望的なケガをしたヤツもいる。なのにアタシ一人がのうのうと……っ!」


「……私にはなんのなぐさめもできないけどさ、実は私もメロちゃんも同じような経験あるんだ」


「……そうか。良ければ今度、聞かせてくれよ」


「もちろん。その代わりと言ったらアレだけど、仇討ち、私がかわりにやってもいいかな」


「……くやしいけど、アタシじゃ勝てそうにないね。いいよ、そのかわり絶対に——」


「うん、わかってる」


 心配しないで。

 絶対に、コイツを殺してあげるから。



 ○○○



 休憩終わってから、どのくらいたったかな。

 ふいに通路が明るくなって、階段の先にまぶしい光がさしこむ出口が見えた。


「……見えたっ、もう少しだぞ少女たち!」


「や、やっとなのです……」


「……っ」


 ベアト、すごく疲れてる。

 ごめんね、もう少しだから。


「出口だけあって、団体さんがゾロゾロ入ってきてるけどね……」


 当たり前だけど、坑道の中のゴーレムたちって、全部ここから送り込まれてるんだよね。

 出口へ続く短い通路、ゴーレムであふれかえってる。


「さぁラストスパートだっ!」


「……むしろ、出てからが本番って感じだろうけど」


 気合いを入れてつっこむトーカに聞こえないよう、ぽつりとつぶやく。

 そう、ここからが本番だ。

 コイツらを操っている親玉が、この先にいるんだから。


「おりゃおりゃおりゃあぁぁあぁっ!!」


「すごいのですっ! トーカすごいのですっ!!」


「トーカお姉さんだろ、メロ!」


 やる気満々で魔導機兵ゴーレムを蹴散らすトーカを尻目に、こっそりと力をセーブ。

 そもそも、ここまで本気出してないけど。

 トーカがゴーレムの大群をまとめて練氣レンキパンチでぶっ飛ばし、一番に坑道から飛び出した。

 少し遅れて私とベアトも脱出。


「……って、なんだこれ! 多い!」


 出迎えてくれたのは、入り口をかこむ大勢の黒い鎧騎士。

 そして、


「あーららぁ。レヴィアに傷を負わせるくらいだもんね。やっぱりゴーレムちゃんじゃ止められないかー」


「声!? どこだっ!」


「……上だよ、トーカ」


 全身を黒い鎧で覆ったようなドラゴンの背に乗って、上空からこっちを見下ろす魔族の少女。

 アイツが五人組の魔族の一人、ギリウスさんたちの前に現れたっていうゴーレム使いだな。


「上……? とわっ、なんだあのドラゴン!?」


「いいリアクションだーね! わっちの魔導機竜ガーゴイルちゃん、かっこいいだろう?」


 ガーゴイル……?

 よくわかんないけど、あれも生き物じゃなくて【機兵】で創り出したゴーレムの一種か。


 敵の顔を見た瞬間、トーカの表情が一変した。

 ものすごく怒ってる顔だ。


「ゴ、ゴーレム使い……っ! お前か……? お前が、ドワーフ隊を壊滅させたヤツか!」


「はぁ? そうだっつったらどーすんの。あんなの戦争じゃよくあることだろ?」


「ドワーフ軍に、戦う意志はなかったはずだ! ただお前らの暴走を止めようとしただけ! それを一方的に攻撃しておいて、戦争の犠牲だなどと、どの口がッ!」


「わーメンドクサ。わっちはお前になーんも用ないのさね。余計な時間、取らせないでほしいってな」


「お前……、お前っ!!」


「トーカ、何言ってもムダだよ」


 そう、言葉なんて無意味だ。

 こういうヤツは何を言っても。

 死ぬまでわかんないんだから。


「絶対に殺すから、安心して」


「……あぁ、そうだったな。任せたぞ」


 トーカが後ろに下がって、私は一歩前に出る。

 うん、ますます負けられなくなった。

 どす黒い殺意の炎を燃やして、上空を飛ぶ機竜ガーゴイルの背の上をにらむ。


「トーカはベアトたち連れて、坑道の入り口あたりにいて。二人のこと、お願い」


「……この娘、大切なんだろ? しっかり守るから、お姉さんに任せて思いっきりやってきな!」


 年上のお姉さんがいるのって、なんか頼もしいな。

 ジョアナといっしょの時の安心感を思い出す。

 アイツとくらべて、かなりちっちゃいけど。


「……はーあ、さっきから黙って聞いてりゃあさ。ナニ? アンタ、わっちに勝つ気でいんの?」


「勝つ気っていうか、殺す気でいるよ。王都での火事場泥棒っぷりも、かなり怒ってるんだから」


「身の程知らずにもほどがあるってね! 知ってるよ? あんたの【ギフト】、無生物には効果がないんだろ。魔導機兵ゴーレムちゃんたち、やっちまいな!」


 ゴーレムが、ざっと五体かな、いっせいに私に襲いかかってくる。


「……身の程知らずはどっちかな」


 鋭刃エイジン金剛力コンゴウリキを同時発動。

 パワーと切れ味を上げて、ゴーレムたちが間合いに入った瞬間、一回転してなぎ払った。


 ズバアアァァァッ!!


 五体のゴーレムが胴体を分断され、上半身と下半身にわかれて機能停止。

 こいつら程度で私を殺そうだなんて、ハッキリ言ってナメてるよね。

 私を殺りたきゃ、てめえが下りてこいっての。


「ねえ、アンタさあ。数とか関係ない強者つわものの一人だと思ってたけど、もしかしてザコの数そろえるだけしか能がないの? だとしたら、とんだ期待外れだね」


「ほぉ、言ってくれるじゃん。【機兵】の恐ろしさを前にして、まだその口が叩けるか試してやるってな!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ