78 坑道の赤い石
翌日、トーカに案内されてきた場所は、私のイメージする鉱山とはかけ離れていた。
「……なにここ、でっかいくぼみ?」
なにかが空からふってきて、この場所に激突したみたいな大きなくぼみ。
その真ん中に、地下へと続く坑道の入り口がある。
「ここはメテロ鉱山。勇者の伝承にある、空から降ってきた赤い星。激突した時に飛び散ったカケラが飛んできて、こんな地形になったらしいよ。ただの言い伝えだけど!」
「へぇ、魔物の出現のきっかけになったっていうアレか」
その話がもし本当なら、モンスターの数も多そうだな……。
「ところでトーカ、武器は持ってきてないの?」
危険な場所に行くってのに、トーカはゴツイガントレットを両手に着けてるだけ。
背中に背負ったツルハシは、あきらかに採掘用だろうし。
「ん? 武器ならあるだろ。これだよ、これ」
あぁ、そのガントレット。
なるほど、この人ぶん殴って砕く系の人か。
○○○
「おらぁぁぁぁっ!!」
ドゴォォッ!
人間ほどの大きさの岩クモが、トーカの練氣パンチでぶん殴られて砕け散った。
ロックスパイダー、岩石が意思を持ってクモの形をとった無生物系のモンスター。
私とは相性悪いけど、この人とは相性いいな。
てかこの人強いな。
「よし、と。いっちょあがりっ!」
「す、すごいのです……!」
いや、私もわりとがんばったよ?
練氣・鋭刃で剣の切れ味鋭くして、トーカ以上のペースでスパスパやってたよ?
ハデに砕くトーカにメロちゃんの視線が持ってかれてただけで。
あの娘、すっかりトーカになついてるな。
「……っ!」
あぁ、ベアトが寄ってきて、手をにぎってにっこり微笑んでくれた。
ホント聖女だな、この娘。
もうこの娘が聖女でいいんじゃないか?
「トーカ、この坑道ってどのくらい広いの? できるだけ強力な鉱石が欲しいんだけど、やっぱり奥の方じゃないと取れなかったりする?」
「あんまり広くないよ、数時間で回れる程度。魔物が湧きまくるから、あんまり奥まで掘れないんだよね。それでも質は高いから、ダマスカス鋼くらいなら軽く手に入るよ」
ダマスカス鋼、たしか元のソードブレイカーの素材だったっけ。
それだと強くはならないよね。
ま、ぜいたくは言ってらんないか。
トーカの言った通り、奥までは本当にすぐついた。
距離的にはすぐってだけで、魔物の群れに大量に出くわして、かなり時間かかったけどね。
ツルハシカンカンして、掘れた鉱石はたくさんのダマスカス鋼。
鉱脈でもあんのかな、掘れば掘っただけ出てきて、なんか面白い。
「……」
「……やる?」
「……っ!」
ベアトがやりたそうに見てたので、ツルハシを渡してみる。
受け取って、ずっしりとした重みにフラフラして、振り上げられなくて……。
しょぼんとしながら返してくれた。
「ベアトにはちょっと重かったかな」
「……」
向こうでは、トーカにツルハシ渡されたメロちゃんがカンカンやってる。
ベアトってメロちゃんより力弱いんだ……、ますます守ってあげなくちゃ。
カンカン、カンカン掘り続けて、武器に使う分はもちろんトーカや村に恩返しできそうなくらい大量の鉱石をゲット。
まさに山盛りって感じだけど、荷馬車に乗るかちょっと心配だ。
最後に一振り、少しだけ力を入れてカンッ、と叩きつける。
ガラガラガラ……。
「へっ?」
すると、壁が崩れて通路が出てきた。
なんだこれ、坑道か?
「どうした!?」
「お姉さん、落盤事故ですか!? そんな時はあたいの土魔法が——」
「いや、違くて。壁のむこうから坑道が出てきたんだけど。どっかと繋がっちゃったのかな」
「……違うな。これは坑道じゃない、天然の洞窟だ」
……言われてみれば、木で補強とかされてないし壁もゴツゴツしてる。
「未知の鉱床が眠っているかもしれない! 掘った鉱石はとりあえず置いといて、奥に行ってみよう!」
「おぉぉっ! 未知の鉱床……! ワクワクしてきました、行くですよお姉さんたち!」
この国に来てから、メロちゃんのテンション中々におかしいな……。
はりきって突撃するちっちゃい二人に続いて、私とベアトも洞窟の中へ。
少し奥に進むと、魔物の大群が湧いて出た。
全滅させて進むと、また群れが。
ここ、ただの魔物のすみかなんじゃないか?
けど、ここまで来たら引けないよね。
モンスターを蹴散らしながら進んで、とうとう奥にたどりつく。
そこに転がってたものを見て、まずトーカが歓声を上げた。
「うはぁぁっ! なんじゃこりゃ! こんな鉱石はじめて見るぞ!!」
なるほど、おかしなモノなんだ。
うっすらと光を放つ、赤くて大きな岩の塊。
どんな種類の鉱石かはよくわからないけど、とにかくすごそう。
「きっと新種の鉱石なのです! 大発見です、大発見なのですっ!!」
トーカとメロちゃんが、両手をにぎり合ってくるくる回りはじめた。
あの二人、ホントに波長が合うんだろうな。
「ねえ、ベアト。ベアトも驚い——」
ベアトは鉱石をじっと見て、両手で口元を覆ってた。
まるで信じられないものを見た、って感じの表情で。
「……ベアト? もしかして、コイツが何か知ってたりする?」
「……っ」
サラサラと羊皮紙にペンを走らせて、
『パラディにいたときにみました。なにかのじっけんに使っていたっていうあかい石に、よくにています』
「実験……」
またロクでもなさそうな情報だ。
けど、鉱石そのものに罪はないよね、きっと。
とりあえず新種の鉱石ってわけではないみたい。
「さぁて、まずは思いっきり硬度を確かめてみるかっ!!」
いや、豪快だな。
特大ガントレットを振りかぶって、トーカが岩をぶん殴った。
その結果……。
「…………ったああぁぁ!!」
岩には傷一つつかず、トーカが腕をおさえて悶絶。
これでわかったね、めちゃくそ硬いって。
「こ、こんなん剣の素材に使うにも、まずどうやって切り出しゃいいんだよ」
「うーん」
どうしたものか。
鉱石の前に行って、なんとなく手でさわってみる。
すると岩の発光が止まって、ピシッ、と亀裂が入って。
ゴロン。
剣の素材に使うにはじゅうぶんな、大きなカケラが私の足元に転がった。
「……キリエ? 今なにしたんだい?」
「わかんない。なんか割れた」
「いやいや、絶対なんかしたでしょ!」
「ホントになんにもしてないんだけど……。トーカのアレが時間差で効いたんじゃない?」
「……おー、そういうことか」
ナットクしてくれたらしい。
なにはともあれ、ナゾの鉱石の採掘は成功だ。
「さぁ戻ろう! この鉱石、早く叩いてみたいからなっ!」
「あたいもすっごく気になるのです! どんなすごいモノができるのかっ!」
トーカがカケラをカバンに突っ込んで、来た道を引き返そうとした時。
ガシャン、ガシャン。
鎧騎士の足音が洞窟にひびく。
どこかで聞き覚えのある足音だ。
どこかでって言うか、お城のダンスホールで。
「……ベアト、メロちゃん。後ろに下がってて」
近づいてくる足音は一人じゃない。
二人の前に出て腰の剣を抜く。
「お、なんだ? 新手のモンスター?」
「ちがうよ、トーカ。コイツはたぶん……」
そこまで言ったタイミングで、そいつらは暗がりから姿を見せた。
悪い予感、的中だ。
現れたのは六人の、剣と盾を持った漆黒の鎧騎士。
……いや、六人じゃなくて六体か。
「魔導機兵だ……!」
間違いない、王都を襲った五人組の魔族の一人、ゴーレム使いがここに来ている。
どうやって私たちの居場所がわかったのか知らないけど……嬉しいよ、こんなに早く復讐できるだなんて。
タルトゥス軍の犠牲者第一号、コイツに決定だ。