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76 ちっちゃい




 王都をぐるりとかこむ山脈の南側、あんまり活気のない村がちらばるあたりを通って西へ西へ。

 ロクに使われてない街道っていうか荒れ地を、たまーにある村にお世話になりつつ歩き続ける。


 そうして二週間ほど。

 とうとう私たちは旧国境線をこえて、亜人領へと到達した。


 道が通ってるのは、ハルプの大樹海よりも深い深い森の中。

 街道って言うより、ほとんど山道だ。

 最初に出てきた感想は、


「すごいトコだね、なんか」


 こんな感じ。

 ギャーギャーと魔物か動物かわかんない声が聞こえるし、ホントに自然しかない。

 こんなとこ侵略しようとしてたブルトーギュ、アホ丸出しでしょ。


「そうです、すごいのです! ドワーフの技術は!」


 そういう意味じゃないよ、メロちゃん。

 元気があって何よりだけど。


「湿気もすごいし、春なのに蒸し暑い……。ベアトは平気? 辛かったらすぐ知らせてね」


「……っ!」


 ふんす、って感じで元気をアピール。

 うん、二人とも大丈夫そうだね。


「ドワーフの国って、あとどのくらいなんだろ」


「もうとっくにモルグ領のはずなのです。そのうち村とか出てくるんじゃないですかね」


 モルグっていうのか、ドワーフの国。

 こんなとこにある村とか、湿気や虫ですっごい寝苦しそうだな……。


「ヒヒィィィィィンッ!」


「な、なんですか!?」


 森の中に、突然の馬のいななき。


「……っ!」


 ハプニングの予感しかしないけど、ベアトが見に行く気満々だ。

 この娘、困ってる人を放っておけないタイプだもんな。

 聖女かよ。


 お忍びでの旅の途中だし、私としてはあんまり関わり合いたくないんだけど、ベアトが黙っちゃいないよね。


「……あっちか。二人とも、危ないかもしれないから気をつけてついてきて」


 助けに行けと言われる前に行動だ。

 声の聞こえた方へ走っていくと、すぐにハプニングの現場が見えた。


「おらっ、積み荷をよこせっ!!」


「やめろ、この……っ」


「ひひっ、コイツ女だぜ。積み荷のついでにいただいちまうか?」


 荷馬車が山賊におそわれてるんだ。

 武器を持って取りかこむ、五人くらいの薄汚いヤツら。

 おそわれてる女の子が荷台の上に乗って、必死に追いはらおうとしてる。


 ……ただ、あの山賊たちちっちゃいな。

 子供くらいしかないかも。

 だけど顔はしっかり老けててヒゲ面で、妙な感じだ。


「あっち行けっ! この鉱石はな、残り少ない貴重なモノなんだよっ!」


「知ってんよ、だから狙ってんだろ?」


 いよいよおそわれそうだな。

 助けに入らないとまずそうだ。


 一気に加速して馬車に接近、山賊のうち一人の後頭部をつかんで叩きつけ、地面とキスさせてやった。


「ぶげぇぇっ!」


 歯が折れたのかな、つぶれたカエルみたいな声出してる。


「……ねえ、おそわれてる人。こいつら殺してもいいヤツら?」


「え? う、うん。殺してもいいヤツら」


「りょーかい」


 パァァンッ!!


 許可もらったし、魔力をそそいで急速沸騰。

 思いっきり頭を破裂させてやった。


「な、なんだぁっ!?」


「今、なにが起こったぁ!?」


 できるだけハデな音と死にざまで脅かせば、怖じけづいて逃げ出さないかなーとか思ったんだけど。


「ひ、ひるむな、やっちまえ!」


「こんな優男一人、俺たちで囲んじまえば……」


 ……誰が男だっての。

 たしかに男のカッコはしてるけどさ。

 理不尽なのはわかってるけど本気でムカついた。

 ついでに逃げないマヌケさにもムカついた。


「……はぁ。身の程知らずにもほどがあるよね」


 まずは二人。

 ロクに手入れもされてない斧で、両側から同時に斬りかかってきた。


「死ねぇっ!!」


 雑な大振り。

 あくびが出るくらいおそい。

 両手で一人ずつ手首をつかんで、


 パァンっ!


「ぎゃひっ!」


「なぁぁっ!?」


 沸騰、破裂させる。

 そのまま煮えたぎる腕をひっぱって、


 ゴシャァ!


 二人の頭をごっつんこ。

 ひしゃげてくっついて色々飛び散った。

 こんなにパワーついてたんだね、自分でもちょっとびっくりだ。


「ひ、ひぃっ!」


「何なんだよぉ、コイツはぁ!」


 格が違うと思い知ったみたい。

 残った二人がおびえた声で、それぞれちがう方向に逃げていくけれど、【沸騰】をハッキリ見られて逃がすワケないよね。


 地面を一蹴りして、右側に逃げた男に一瞬で追いつく。

 ソイツの肩をつかんで、全身の血に魔力を流して沸騰させ、


「あびゃっ」


 即死したコイツの死体を浮かび上がらせて、最後に残った一人の背中をめがけて飛ばす。

 ドンっ、と激突した瞬間。


「はじけ飛べ」


 パァァン、ドスドスドスッ!!


 一気に沸騰、体を破裂させると、煮えたぎる血と飛び散った骨を全身に浴びて、ソイツもくたばった。

 はい、一丁あがり。


「……ふぅ。ベアト、メロちゃん、終わったよ」


「は、はいです……ぅ」


「……っ」


 私の合図で二人が木陰から出てきた。

 死体をできるだけ見ないようにしながら、小走りで。

 戦いがはじまる前から、ギュッと目を閉じてたみたいだね。

 えげつないシーンが繰り広げられると、よくおわかりで。


 転がってる死体、ニオイも見た目もアレだし、血の中に残ってた魔力を操って茂みの奥に飛ばしておいた。


「キミ、ケガはない?」


「な、なんとか無事、だよ……。アタシも馬も、積み荷もね……」


 あ、この子、顔がひきつってる。

 もう少し綺麗な戦いかた、こころがけるべきだったかな……。


「と、とにかく礼を言わせてもらおう。助けてくれてありがとう、少年」


 そう言って荷台から飛び下りてきた、この女の子。

 ちっちゃい。

 メロちゃんよりも少し大きいくらいで、とってもちっちゃい。

 だけどなんだか態度は大きい。


「キミ、いくつ? 子どもが一人で荷運びなんて危ないよ?」


「失礼だな!! アタシはこれでも、れっきとした大人っ! たぶんキミより年上だぞ!!」


「お、大人……?」


 私たちより少しだけ焦げた色の肌に、銀色のおさげ髪。

 子どもにしか見えないけど、ウソは言ってなさそうだし、この身体的特徴。

 この人ってもしかして……。


「あ、あのっ! もしかしてお姉さんはドワーフさんですか!!」


「おぉ、少女! なんとキミにはわかるのか!」


 やっぱり。

 大人でも子どもくらいの大きさの亜人、ドワーフ族だ。

 さっそく出会えて、メロちゃんがキラキラ目を輝かせてる。

 ……ってことはもしかして、さっき殺したちっちゃいおっさんたちもドワーフだったのか。


「アタシはトーカ。その通りドワーフ族だ」


「あたいはメロ・オデッセイなのです! トーカさんはなにしてる人なのです?」


「この先の村で鍛冶職人してるんだ」


 しかも鍛冶職人さん。

 目的の人、さっそく発見だね。


「なんと鍛冶職人さんです!? ではまさか、この積み荷は……っ!」


「おうっ、貴重なレアメタルの数々さっ」


 トーカが積み荷のヒモを解いて、荷台をおおう布をバサッとひるがえす。

 黒っぽかったり緑がかってたりする鉱石が、荷台の上でキラキラと輝いてた。


「これはっ、癒しの魔石っ! こっちは火炎の魔石に、あぁっ、これはルナライト!」


 メロちゃん、テンション爆上げだし。


「……でも、量が少ないですね。レアメタルってほどのレアメタルも、そんなにないのです」


「……ホントによくわかってるね」


 メロちゃんの疑問に、トーカは軽くため息。


「まあ、こんなとこで立ち話もなんだし、アタシの村に招待しよう。助けてもらったお礼もしたいし」


 だね、ここ血とか肉とか色々と飛び散ってるし。

 トーカが荷台をしばって、馬に乗って、手綱をふるって荷馬車が動きだす。


「ドワーフさんの村……! 楽しみです、興味深いです……!」


 メロちゃんはとってもウキウキ、スキップ交じり。

 けどトーカのさっきの口ぶり、何か事情があるっぽいよね。

 武器を作って欲しいってお願い、聞いてもらえるか不安だな……。




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― 新着の感想 ―
[一言] 「武器を作って欲しいってお願い、聞いてもらえるか不安だな……」 依頼できるだけの資金持っているのかな?金銭の話が出てこないけど、旅を続けるにもいるだろう。
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