表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/373

74 新しい出発




 メロちゃんを仲間に加えて、旅立ちのあいさつ回り。

 みんなこころよく送り出してくれるみたい。

 中にはリーダーの仇を討ってくれ、なんて頼んでくる人もいた。


 考えてみると、リーダーと最後に会ったの私なんだよね……。

 仇の顔も、しっかり覚えてる。

 あの中年の魔族——。


「……っ」


 そでをクイっと引っ張られる。

 いつも隣にいてくれる、ベアトのこのサイン。

 私が頼んだんだ、顔が怖くなったら引っ張ってって。


「また怖くなってた? ありがとね、教えてくれて」


「……っ!」


 周りの人が怖がるからとか色々理由はあるけど、一番の理由はベアトが好きじゃなさそうだから、かな。

 ドス黒い気分になっても、ベアトの顔を見るとスッキリするから不思議だ。


「おぉ、なんだかわかりませんが、以心伝心って感じです!」


「……っ」


 目をキラキラさせるメロちゃんに対して、なぜかドヤ顔のベアト。

 こんなやり取りも、私の心をなごませてくれる。

 ……けど、どんなになごんでても、私の胸の奥に煮えたぎる復讐心は消えない。

 これからも、仇を全員殺すまで、絶対に。


「……っ」


 なんて思ってたらそでクイされた。



 さて、あとはギリウスさんだけだ。

 レイドさん、ものすごく忙しそうで会えなかったんだよね。

 あの人、旧スティージュの文官集めて、寝る間も惜しんで政務バリバリやってる。

 悲しみをまぎらわすため、でもあるのかな。


 それを言うなら、毎日騎士団鍛えて自分も猛特訓してるギリウスさんもだけど。

 弟であるリーダーをやられて、イーリアもどこかに行っちゃって、あの人も色々抱えてるもん。


 ゴツイ騎士さんを探し歩いて、私たちがやってきたのは海岸線。


「綺麗な砂浜ですー。リーダーさんたちが取り戻したかった気持ち、なんとなくわかるです……」


「……そうだね」


 素敵な思い出も、たくさんあったんだろうな。

 白い砂浜に青い海、寄せくる波の音。

 そんなのどかな景色には似合わない、浜辺で必死に大剣を振りまわす騎士さんをようやく発見。

 まずメロちゃんが、


「いたのです! おーい、ギリウスさーん!」


 手をブンブンふって駆け寄っていく。

 メロちゃんに続いて、私たちも小走り。

 私たちに気付いたギリウスさんは、砂浜に剣を突き立てて、タオルで汗をぬぐった。


「お前らか。そろいもそろってどうした」


「ギリウスさん、実はね……」


 今までと同じように、事情を話す。

 私たちが旅に出ることを。

 ギリウスさん、うんうんとうなずきながら、最後まで黙って聞いてくれた。


「……そうか。ずいぶんと急な話だが、しかたないだろうな」


「こんな綺麗な場所を、せっかく取りもどしたスティージュを、戦いの舞台には絶対にしたくないから」


「あぁ。いくらタルトゥスが干渉しないと宣言したとは言え、建前にすぎないだろう。スティージュはにらまれている、と思った方がいい」


 にらまれてる。

 その一言にはたぶん、色んな意味が込められている。

 私とベアトをかくまってるってだけじゃなく、手柄をかすめとったレジスタンスの中心地で、リーダーもやられてる。

 反乱起こすには、十分すぎるくらいに材料そろってるよね。


「俺たちも、そんなことは承知の上。だが今は王都住民の反戦感情が強い。事を荒立てれば、すぐにタルトゥスは人望を失うだろう。むこうもこっち(・・・)も、しばらくは大人しくしているさ」


「しばらくは、なんだね」


「あまり大きな声では言えないがな」


 水面下で色々動いているっぽいな、これは。

 浜辺で特訓してたのも、やがて来る戦いのためなんだろうな。


「あぁ、そうとも。……やられっぱなしで終わってたまるかよ」


 ギリウスさんの表情から、闘志がみなぎる。

 絶対にあきらめない、不屈の闘志。

 リーダーの心にも燃えていた、十年以上も消えなかった炎。


「だが……。ふふっ、スティージュ以外にもにらまれている国はあるぞ。特に、ここから南西の新興国しんこうこくは面白い」


「しんこーこく? なにがどう面白いのさ」


「第四のアレと第十のアレが建てた国、だよ」


 ……は?

 それ大丈夫なのか、色んな意味で。


「……っ?」


「お姉さんが、みたことない顔してるのです……!」


 あ、いけないいけない。

 口を思いっきり開けちゃった。


「おどろいたみたいだな。しかし、意外に利口だよ。素性を隠して表向きは別人を演じている」


「へー……」


 そりゃ、堂々と名乗ってたら速攻つぶされるでしょうけども。

 あのバカ二匹にそんな知能があっただなんて、意外すぎるな。

 それとも優秀な参謀ブレーンがついたとか、かな?


「……さて、話を戻そう。旅に出る、とは言ったが、まずはどうするつもりなんだ?」


「まずはパラディをめざそうと思う。なんとか忍び込んで大臣殺して、あわよくば新しい勇贈玉ギフトスフィア盗んで強くなるつもり。ジュダスがいる方——強敵ぞろいの王都はその後だ」


 勇贈玉ギフトスフィアで得られる【ギフト】は一人一つ。

 だけど勇者が持つ場合、元々の【ギフト】と合わせて二つ使えるんだ。

 これはブルトーギュ戦で、私自らが【治癒】を使って証明してる。


 パラディに行くとなるとベアトが心配だけど、これは二人で話し合って決めたこと。

 向こうにはベアトの味方もいるみたいだし、その人たちと協力すればいけそうだ。

 もしかしたら、ベアトが生け贄にされそうな原因がわかるかもしれないし。


「なるほどな。で、どっちのルートを進む?」


「ルート……あぁ、ベアトから聞いたヤツか」


 王国の北に連なる山脈をこえた先に、パラディは存在する。

 山越えのルートは二種類、スティージュから近いけど、命が危ないレベルにけわしい東ルート。

 整備されていて安全に進める、いわば正規ルートの西ルートだ。


 ベアトは西ルートから逃げてきたらしい。

 私一人なら、東側からチョチョイと行けるんだろうけど、ベアトとメロちゃんには危険すぎるからね。


「西ルートで行くよ。ちょっと遠回りにはなるだろうけど」


「そうか……。無難な選択だが、そっちにも問題があってだな。西ルートの入り口は、まさにこの大陸の西側。魔族領コルキューテの只中ただなかなんだ」


「マジで……?」


 そんなん敵のふところに、いきなり飛びこむみたいなモンじゃん。

 下手すりゃ東ルートよりも危険かも。


「しかし、ジョアナからの情報に気になる部分がある。今回の襲撃は、タルトゥスが親衛隊を率いて独断で行った。コルキューテ本国は一切、関与かんよしていない……と」


「……いやいや。それが本当なら、とっくに本国と縁を切られて孤立してるはずじゃない?」


「そこが妙なのだ。詳しい事情を探るため、ジョアナにはコルキューテ本国にもぐりこんで、内情を探ってもらっている」


 ジョアナが見当たらないのはそういうワケか。

 いくらアイツでも、その任務は難しいだろうな。


「とにかく、西へ向かうにしても、気にはとめておいてくれ」


「ありがと、ギリウスさん。行ってくるね」


「行って来い。そして、無事に帰って来い」


 おかげで貴重な情報をもらえた。

 ペコリと頭を下げて、三人でその場をあとにする。


 強いな、ギリウスさん。

 家族を失ったのに、もう前をむいて、やるべきことのためにまっすぐ進んでる。


 ……私も、まっすぐ進むんだ。

 仇を討つ、ベアトを守る。

 二つの目標にむかって、まっすぐに。



 ○○○



 翌日。

 それぞれに荷物をせおって、私とベアトとメロちゃん、三人でスティージュを出発。

 パラディまでは、順調にいって一ヶ月ちょっとってとこかな。


 ベアトはともかく、私は勇者として顔が割れてるだろうから、久しぶりの男装スタイルだ。

 できる限り、敵に居場所がばれる可能性を低くしなきゃ。

 ものすごく嫌だけど、ね……。


 盛大な見送りなんてナシ。

 勇者とベアトだし、盛大にやっちゃダメなのは当たり前だけど。

 ただ……、


「結局ストラ、見送りに来てくれなかったな。……大丈夫かな、あの娘」


 そのことだけが残念だし、何より心配だ。


「……っ!」


 両手でガッツポーズのベアト。

 ストラさんならきっと立ち直れます、って言ってるんだね。


「そうだね、ストラならきっと大丈夫だ」


「おぉっ……!」


 無言のベアトと普通にやり取りしたら、メロちゃんの目が輝いた。

 また以心伝心とか言われそう。


 全てを失ったあの夜と同じ、復讐の旅の始まり。

 けど、あの時と違って一人じゃない。

 スティージュという、新しくできた帰るべき場所もある。


「……うん、行ってくるね。必ず帰ってくるから」


 海と、海辺と、小高い丘の上に並ぶ街並みに、再会を誓って歩きだす。

 きっとまた、血ぬられた復讐の道だけど。

 こんどは一人じゃなく、ベアトとメロちゃんと、三人で。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ