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71 幕間 その時、姫と近衛騎士は




 姫様の膝枕で休んでいるうちに、本陣には捕縛された王族が次々とやってきて、さらにはバルバリオが現れた。

 その後しばらくして、ギリウス殿が第三騎士団の攻撃隊をつれて帰還。


「暴君ブルトーギュは討ち取った! このいくさ、我らの勝利だ!!」


 高らかに勝利を宣言、大歓声が巻き起こる。

 王族たちからは悲鳴が上がったけれども。

 ところが、


「……だが!! いいか、喜んでばかりはいられないのだ。落ち着いて聞いてほしい。ペルネ様も、心してお聞きください」


 またもギリウス殿の衝撃的な発言。

 王都に攻めてきている、たった五人の圧倒的な強者たち。

 彼が語った信じられない、恐るべき事実に、その場の全員が言葉を失った。


「今の我らでは、戦えば確実に全滅する。城を枕に討ち死にするか。恥を忍んでいつかのために王都を捨てて逃げるのか。ペルネ様、ご決断を」


「ギ、ギリウス殿、それはあまりに……!」


 そのような重大すぎる決断を、今この場で即決しろだなどと、それはあまりに酷では——。


「……退きましょう。王城西門から脱出し、その後、北のアローナ川を渡って東へ向かいます。すぐに準備を始めてください」


「はっ!」


 ……いやいや、ペルネ様!

 そんな簡単に国を捨てる決断なんて出来ますか、普通!

 わたしはこのお方を心から敬愛しているが、時々何を考えておられるのかわからなくなる……。


「イーリア、不服そうですね」


「い、いえ、そのような……」


「たしかにその通り。今逃げれば私は国民から後ろ指をさされ、臆病者とも言われるでしょう。ですが、ここで意地を通して死んで、その後なにが残りますか。どちらにせよ、王都は敵に占領されるのです。ならば私は、最後に笑う方を選びます」


 理屈はわかります。

 わかりますが、それはあまりにドライ過ぎでは……。


 ……あーもう、なにを迷っているのだイーリア・ユリシーズ!

 わたしは姫様の近衛騎士、このお方のために全てをささげ、死ねと言われれば笑って死ぬ!

 その覚悟でお仕えしているはずじゃないか!


「姫様のお覚悟、しかと胸に染みました! このイーリア、どこまでもお供いたします!」


「頼みにしてます、イーリア」


 えぇ、頼みにしていてください。

 わたしはあなた様ただお一人をお守りする騎士なのですから。



 ……さて、正門の方から逃げてきたレジスタンスのメンバーとも合流し、全員で西門へと向かう。

 バルバリオ以外の王族は、ぐるぐる巻きにされたままナワを引かれて。


 西門は街へ続く普通の門の他に、もう一つの門がある。

 こちらは王家の者が持つ魔石のみに反応し、ひらく仕組みになっている。

 その先は地下通路。

 王都の外、草原地帯へと抜けられる秘密の抜け道だ。

 出口は街を囲む壁に偽装されている。


 ペルネ様が魔石をかざして封印を解き、暗い通路を出口まで進む。

 隠し扉はギリウス殿が力づくでこじ開けて、あとは川を渡って東へ逃げるだけ——。


「みーつけた」


「……っ! イーリア、かまえろ!!」


 通路から出たとたん、聞きなれない女の声と、ギリウス殿の張りつめた声がひびく。

 よくわからないながらも騎士剣を抜き、ペルネ様をかばって両手でかまえる。

 わたしたちの前に姿を見せたのは、二人組の魔族だ。

 一人は若い女、一人は少女に見える。


「あははっ! ホントにここだった! 隠し方、もう少し頑張んなよっ!」


「ブルム、遊び半分はダメだよ。しっかり気合入れな。いくらザコ相手の仕事だからってね」


「あーいよっ、わかってますって!」


 少女の方がブレスレットをはめた腕をかかげると、全身鎧の騎士たちがモコモコと地面からわいて出る。

 生えてきた鎧騎士十人ほどが、敵の後ろにズラリと並んだ。


 どういうことだ、伏兵か!?

 一体どこに隠れていたというのだ……!


「さあ、あんたたち! わっちの可愛い魔導機兵ゴーレムちゃんたちと、遊んでくれな!」


魔導機兵ゴーレムだと……! まさか【ギフト】……!」


「あっれー? 知ってるヤツいんじゃん。わっちの勇贈玉ギフトスフィア、【機兵】ってけっこー有名だったりするー?」


 肯定か。

 つまりこの騎士たち全員が、ゼキューと同等かそれ以上の強さということ。


「総員、戦おうなどと思うな! 全速力で逃げろ!」


 ギリウス殿の指示で、騎士団員たちは王族を守りながらアローナ川の方へと走り出す。


「逃がすワケないじゃんっ。わっちの任務、王族たち全員の捕縛なんだからっ! お人形ちゃんたち、おっかけてとっ捕まえろ!」


 ブルムと呼ばれていたか。

 魔族の少女の指示で魔導機兵ゴーレムが追撃を開始。


「そいじゃ、ルイーゼ。面倒そうなのはまっかせたよー!」


 そう言い残して、術者の方も楽しげに追いかけていく。


「お、おい、バルバリオ! ただ逃げるだけじゃ捕まる! 僕にいい考えがあるんだ!」


「なんだ、いい考えとは!! 俺にも聞かせろ!!」


「じゃあまず僕のナワを解いて——」


 なにやらおバカ二人が、逃げながら大声で話し合っているが……大丈夫なのだろうか、アレは。

 けれどむこうの心配をしている余裕はない。

 もう一人、この場に残った魔族の女がさきほどからずっと、ペルネ姫様に視線を向けているからだ。


「ブルムのヤツ、楽な任務でうらやましい。こっちはちょっとだけ、骨が折れそうだからねぇ」


 短く切りそろえた薄緑の髪の女剣士。

 こいつの狙いはまさか……!


「さぁて、アタシも自分の任務、果たさせてもらうよ。ペルネ姫の確保って任務を、ね」


 やはり、ペルネ様か!


「そうはさせない! このイーリア・ユリシーズ、命にかえても姫様をお守り——」


「何してる、逃げるぞ!!」


「えっ、ええぇっ……!?」


 わたしが名乗りを上げている間に、ギリウス殿は姫様を小脇にかかえて王都の西門へと走り出していた。


「ぎ、ギリウス……!?」


「姫様、舌を噛みます! しゃべってはいけません!」


 あの人、月影脚ゲツエイキャクを使った正真正銘の全速力で走っている。

 わたしも発動して、大慌てであとを追う。


「ぎ、ギリウス殿、戦わないのですか!」


「戦えるか! 相手は全員バケモノだ、今はまだ逃げる以外に手段はない!」


「だったら、なんで王都の中に戻るんですか! みんなと一緒に逃げれば……!」


「むこうにはゴーレム軍団がいる! それに、広い平原よりも入り組んだ街中の方が逃げやすい!」


 な、なるほど、さすが判断がお早い。

 見習わなければ……!


「し、しかし、姫様を抱える役目はわたしに譲ってくれませんか……?」


「のんきなもんだねぇ、このアタシに追われてるってのに」


「……っ! イーリア、左に転がれ!」


 ギリウス殿のとっさの指示に、考える前に体が動いた。

 左へ転がって回避した瞬間、わたしの真横を風の刃が飛んでいく。

 あのまま走っていたら、縦に真っ二つだったところだ。

 今のは、敵の魔法か……?


「へえ、まさか避けるとはねぇ」


 いや、違う。

 振り向いたらすぐにわかった。

 敵の刀身が風をまとっている。


 今のは風魔法ではなく魔法剣。

 約五十年前、邪悪な魔術師を倒した勇者が使っていたという、有名なギフトの一つ。

 間違いない、敵のギフトは魔法剣を操るという【魔剣】だ。


「振り向くな、イーリア! 街に入るぞ!」


 王都西門はもう目の前。

 門をくぐって街中へ飛び込み、ギリウス殿のあとに続いて路地裏へと走る。


 さすがです、ギリウス殿。

 むこうの方が速くとも、入り組んだ路地にさえ入ってしまえば。

 複雑な道を何度も曲がりながら、わたしたちは一心不乱に逃げ続けた。



 △▽△



 ギリウスに抱えられながら、イーリアと共に逃げ続け、ようやく敵を振りきることができました。

 私たちが今いるのは、東区画。

 他の場所にくらべて破壊されている家屋かおくが多く、避難する住民の姿も目立ちます。


 騎士団の皆さんや兄弟姉妹たちは無事に逃げられたのでしょうか。

 壊れた街並みに胸が痛みます。

 どうしてこんなことに……。


「あ、あの、ギリウス殿? そろそろ姫様を下ろしてもいいのでは……」


「……念のため、なのだがな。姫様、くれぐれも私から離れぬようお願いします」


 イーリアの提案で、抱えられていた私の体が下ろされました。


「ギリウス、イーリア、ご苦労さまです」


「まだ安心はできません。一刻も早く東門にむかい、王都を脱出しましょう」


 ギリウスが騎士鎧のマントを取って、私にかぶせてくれました。

 これで少しはカモフラージュになるでしょうか。


 避難民にまぎれて東区画を歩いている中、私たちを呼び止める声が聞こえました。


「あれ、大兄貴?」


「……ストラか」


 よかった、ストラさんたちです。

 少し離れたところにいるのを、お互いに見つけました。

 一緒にいる人たちは、遠いのでよく見えませんけれど。


「姫様、ストラたちと合流しましょう」


「ええ、その方がお互いに安全でしょうね」


 ギリウスとうなずき合って、彼女たちの方へとむかおうとしたその時。


「みーつけた」


「な……っ!!」


 抜け道を出た時に聞いたものと同じ声、言葉。

 驚きの声とともに振り返るイーリア。

 つられて、私も振り向きます。

 そこにいたのは、私たちを追いかけていたあの魔族でした。




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