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70 バルジの死闘




「リーダーこそ死なないでよ?」


「へっ、心配すんな。こっちは『三夜越え』でパワーアップしてんだ」


 キリエちゃんに心配されるほどヤワじゃねぇよ。

 月影脚ゲツエイキャクのスピードを活かして、中年魔族に突進。

 勢いを乗せてナナメに斬りつける。


「……速いな」


 お前が言うか、軽々とかわしやがって。

 すぐに横なぎを繰り出し、前に踏み込みながら突き、斬り上げ。

 さらに追加で次々と連撃をあびせかける。


 ところがまぁカスりもしねぇ。

 どんどん後ろに下がりながら、ゆらりゆらりと体を揺らして回避回避回避。



 そのまま俺らは攻防を繰り返し、壁を蹴り上り、東区画を駆けまわり、どこかの家の屋根の上に着地した。

 ここでいったん、にらみ合いだ。


「おっさん、いいのかよ。ベアトちゃん捕まえんのが任務だろ? ずいぶん離れちまったな」


「攻撃が凄まじくてな、周りを見る余裕もなかった」


「はっ、よく言うぜ。腰にぶら下げたサーベル、抜きもしねぇくせによ」


「これは護り刀。戦場に出るときのゲン担ぎよ。拙者の武器は——これだ」


 コイツ、腰を落として両腕を前後にのばした独特のかまえを取った。

 徒手空拳としゅくうけん

 これまでの攻防もそうだったな、素手がコイツの最強の武器ってわけだ。


「我が名はモルド。コルキューテの将にして、タルトゥス様の親衛隊長をつとめる者だ」


「そうかい、俺はバルジ・リターナー。スティージュの元貴族で、今はみんなの兄貴やってるぜ」


「バルジか。そなたの名、猛者として刻んでおこう」


 ……まいったな、この構えスキが見当たらねぇ。

 ひとまず月影脚ゲツエイキャクに加えて、金剛力コンゴウリキを発動する。

 狙うは後の先、攻撃をさそってのカウンターだ。


「参るッ!」


 さあ来た。

 攻撃にそなえて、ソードブレイカーを練氣レンキで強化する。


「……練氣レンキ硬刃コウジン!」

 

 素手が相手じゃあんま役に立たねぇが、盾代わりにはなんだろ。

 短剣で受けて長剣で斬る。

 それが俺のバトルスタイルだからな。


 まずは右の手刀が来た。

 短剣ソードブレイカーを使って、いつもの調子で受け止める。

 ……重いな、ビリビリと手がシビれるくらいに。

 それと、やっぱり間違いねぇ。

 コイツ、手刀に練氣レンキをまとってやがる。


 受けた瞬間、のびきった右腕を斬り落とすため右の剣をふるう。

 が、モルドはすぐさま腕を引き、反撃は空ぶり。

 剣を振りきったところで、


 ドゴォッ!!


「ごぽっ……!」


「……勝負あり、だな」


 重い蹴りが、俺の腹にめり込む。

 体中の骨がミシミシ鳴って、口から血を吐き出した。

 ……勝負あり、だって?


「この程度で、か?」


 ニヤリと笑い、のびたままの足に短剣ソードブレイカーを突き立てる。

 ところが敵さん、やっぱり油断はしてなかった。

 すぐに足を引っ込めて体を回転させ、俺の突きが空ぶったタイミングで回し蹴り。

 わき腹にモロに喰らって、かわらを削ってブッ飛ばされる。


 ガシャァァァッ!!


「……驚いたな。仕留めたと確信したが、その頑丈さ。さきほどからの動きも人間離れしている」


「へへ、だろ? あんまよぉ、兄貴をナメるもんじゃねぇぜ……!」


 つっても、素の俺じゃ何回死んでることやら。

 キマイラの猛毒『三夜越え』のおかげだ。


 ついさっき出くわしたジョアナに教えてもらった、その特殊な猛毒。

 キマイラの尻尾の毒牙にかかった者は、三日以内に99パーセントの確率で死ぬ。

 だが、三日三晩続く苦痛に耐えきって生き延びた者の体には、絶大な力が宿るらしい。


 なんとも夢みてぇな話だが、どうやら事実らしい。

 なんせジョアナが持ってた『薬』とやらで、俺は三日分の苦痛を丸々スキップ。

 今はこの通り、びっくりするような力が湧き上がってくる。


 はじめはそんな都合のいい薬があるかよって思ったが、まあジョアナだしな。

 実際、こうして強さは大幅アップしてんだ。


「そいじゃあ続きといこうぜ。かかってきな」


「無論、存分に死合おうぞ」


 お互いに走り寄って激しく打ち合って、互角の攻防を繰り返す。

 何度も俺の剣がかすめてるってのに、コイツ笑ってやがる。


「……本来、貴殿との戦いは任務の外。我が使命は聖女の片割れ、その確保なのだが……。ふっ、血が騒いでしまうわ」


「今からベアトちゃん捕まえにいくっつっても、俺がさせねぇけどな」


 ……聖女の片割れ?

 意味はわかんねぇが、こいつらがベアトちゃん狙ってる理由と関係あんだろうな。


「ベアトちゃんはキリエちゃんといっしょに居たがってんだ。そんな二人を引き離すたぁ、粋じゃねぇよな」


「任務に私情は挟まん……とは言えんか。こうして貴殿との戦いに胸を躍らせている以上はな」


「へっ。じゃあよ、もう言葉はいらねぇだろっ!!」


 右の剣をなぎはらって、敵を吹き飛ばす。

 距離が離れたスキに、俺は切り札を切った。

 体中の練氣レンキをかき集める。

 それだけじゃねぇ、体の奥底に脈打つ鼓動、魂をも吸い取って、力に変える。


「奥義……! 練氣レンキ魂豪炎身コンゴウエンシン!!」


 俺の全身が、真っ赤な練氣レンキに包まれた。

 奥義に定めたはいいが、色んな意味でヤバ過ぎて実戦で使うのは初めてだ。

 だが、今の俺なら使いこなせるはず。


 ……へへ、体ん中が焼けるように熱ちぃ。

 魂豪身コンゴウシン以上の力を引き出す代わりに、体にかかる負荷も半端ねぇ。

 下手すりゃ寿命が削れるくらいにはな。

 だが——。


「……む!」


「こうなった俺は、強えぇぜ?」


 あふれ出る赤い練氣レンキを剣にまとわせて、猛然と斬りかかる。

 回避しきれずに切っ先がかすめ、モルドの肌に傷が走った。

 やったぜ、初ダメージだ。


「さぁ、どんどん行くぜ……っ」


 俺の連撃を前に、モルドは反撃すらできないまま、ひたすら回避を続けるだけだ。

 切っ先がなんどもかすめて、みるみる傷が増えていく。


「ま、まさかここまで……っ!」


 練氣の放つあまりの熱に揺らぐ意識の中、揺るがないのは故郷の海辺の景色。

 そして妹の、ストラの笑顔。

 生きる。

 絶対に生きて、あの景色をストラに……!


「っあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「この気迫……、まずいッ!」


 攻撃をさばく二本の手刀を、二本の剣ではじく。

 敵の両手が大きく開いて、胴体も顔面もガラ空きになった。


「トドメ、だぁぁぁぁッ!!」


 振りの早い左の短剣で、顔面に突きかかる。

 あぁ、やったぜ。

 このバケモノ、俺が仕留めたぜ。


 ズ……ッ!


 ソードブレイカーの切っ先が、モルドの右目に突き刺さる。

 このまま奥に押し込んで、脳まで突き刺してやれば——。


 ガシィッ!


「……見事。見事だ、バルジ・リターナー。我が右目の光を奪うとはな」


 ……あん?

 なんで左腕、動かねぇんだ。

 あぁ、つかまれてるからか。

 押しても引いてもビクともしねぇ。


「そなたに敬意を表し、我が【ギフト】にて葬ろう。拙者が授かった勇贈玉ギフトスフィア、その銘は【必殺】。あらゆる物体を一撃で破壊し、あらゆる生命を一撃で刈り取り、穿うがち抜く」


 あぁ、王都の南門ブチ飛ばしたのコイツだったか。

 左腕を引き絞って、拳に魔力が集まっていきやがる。

 だがよ、諦めねぇぞ。

 つかまれた腕、斬り落としてでも逃れてや——。


 ドクン。


「……がはっ!!」


「……む?」


 ど、どうなってやがる……!

 突然、体の自由がきかなくなりやがった。

 手足の先がしびれて、寒気が止まらねぇ。


「はぁ……っ、はぁ……!!」


如何いかがした、バルジ。まるで毒か、熱病にでも冒されたかのような顔色に見えるが」


 毒……?

 まさか、こいつぁキマイラの『三夜越え』か……?

 バカな、ジョアナの薬で症状はおさまったはずだ……!

 俺なんかがこんなバケモノと戦えてたのが、何よりの証拠のはず……!


「……ぐ、うおおぉぉぉっ!!」


 だが、敵が気を取られてくれた。

 しびれる腕で剣をふるって、つかまれた自分の腕を斬り落とす。


「見事な覚悟! だが、もう助かるまいな。今トドメを……む? そなたは……」


「モルド。ここは私に任せてください」


 そのまま屋根から飛び下りて路地裏へ着地。

 新しく誰か来たみてぇだが、確認してるヒマはねぇ。

 キリエちゃんたちが逃げる時間は、十分にかせげたはずだ。

 傷口をしばりながら、スティージュへと続く東門をめざして全速力で走る。


 ……へへっ、これが全速力かよ。

 フラッフラで、歩く方が速いくれぇじゃねぇか。


「はぁ……、はぁ……っ」


 魂豪炎身コンゴウエンシンの反動と、毒のぶり返し。

 だめだ、もう一歩も動けねぇ……。


 ドシャ……っ。


 とうとう体を支えきれなくなって、その場にぶっ倒れちまった。

 敵は追ってきてねぇ。

 だが、腕の出血が止まらねぇ。

 こんなところでお終いかよ、俺は……。


「リーダー……? リーダー、しっかりして!」


 ……あぁ、ジョアナか。

 もう声も出ねぇ。

 最期にお前に会えただけ、よしとするか。


「……そう、さっきの薬の効果が切れたのね。ふふっ、上出来だわ」


 あん?

 なに言ってんだ、お前。


「実はあの薬ね、『三夜越え』の特効薬なんかじゃないの。潜在能力を引き出す強壮薬ってとこ。引き出された力が強すぎて、毒の苦痛も効かなくなってただけ」


 ……よく聞こえねぇ。

 目もかすんできやがった……。


「つまり、あなたが『三夜を越えれば』もっともっと強くなれるのよ。三夜目の苦痛がひど過ぎて、記憶が飛んだり、人が変わっちゃうかもしれないけどね。キマイラ……、カミサマも変なもの作ったものだわ。……と、死んじゃいそうね。まずは【治癒】の勇贈玉ギフトスフィアで、ケガを治してあげる」


 …………。


「あなたはこのままパラディへ送らせてもらうわ。優秀な人間はいくらでも欲しいのよ……」




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やっぱり敵だった。
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