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66 原動力




「復讐……? 私に……?」


 意味わからん。

 魔族に恨まれるおぼえはないし、そもそもコイツと会うのも初めてだし。


「モルド、聖女の片割れはあずける」


「全力でるつもりか? 占領した後のことも考えろ」


「考えてる。無駄な破壊はしないから」


 レヴィアって呼ばれてたっけ。

 女魔族が中年の魔族にむけて、ベアトを突き飛ばした。


「ベアトッ!!」


 モルドとかいう中年魔族が、ベアトの手首をにぎって捕まえる。

 クソ、ベアトに触れるな!

 こいつら、絶対にブチ殺して——。


 スパァッ!


「——え」


 なに、今の音。

 変な音が聞こえて、何かが真横を横切ったように感じた、次の瞬間。


 ブシィィィッ!!


 左の二の腕から、血が噴水みたいに噴き出す。

 いつの間に斬られたんだ!?

 たぶんすれ違いざまに斬りつけてきたんだろうけど、さっきと同じ、動きが全然見えなかった……!


 ソードブレイカーを抜きながら振り返る。

 でも、後ろに敵の姿はなくて、


 ズバッ!


「くそ、また……っ!」


 今度は右腕に、浅い傷が走った。

 また振り向くけど、やっぱり敵の姿は見えない。

 見えないまま、どんどん傷が増えていく。


 スバッ、ズバッ、ズババババババッ!


「……っぐ、あぁぁあぁぁぁぁっ!!!」


 全身あちこちを斬られまくって、もう敵を探すどころじゃない。

 一歩も動けないまま、ひざをついて、なすすべなく斬られ続けるしか。

 くそったれ、コイツ強すぎる……!


 レイドさんの話じゃ、前線の王国軍一万五千はこいつらが全滅させた。

 つまり百人でザコ一万五千人分以上の戦力……っていうか、もうそんなレベルじゃない。

 百人のうち最低でも、攻めてきているこいつら五人は間違いなく『数なんてそろえても無意味な、規格外の強さの持ち主』だ。


 斬撃がやんで、敵がようやく姿を見せた。

 少し反った細身の片刃剣を、私の首に突き付けながら。


「……どう? 少しは苦しんだ?」


「ベアトを……、返せ……っ!」


「まだまだ苦しみ足りないんだ、わかった」


 コイツ、いつでも私の首を刎ね飛ばせるし、いつでも心臓を貫ける。

 なのに肌を浅く斬るだけで、致命傷になる攻撃はしてこない。


 どうして、だなんて考えるまでもないよね。

 私もよく、同じことするもん。

 コイツはただじゃ殺さない。

 苦しめて苦しめて、とことん苦しませてから殺してやるって。

 復讐って、その瞬間が一番スッキリするもんね。


「なんでそんな……っ、私になんの恨みがあるってんだ……! 私は、あんたなんて知らない……っ!」


 ただ一つ、ナットクできないのがそこだ。


「貴様個人が知らなくても関係ない。ボクの復讐の対象は、『勇者』という存在そのものだから」


「なんだ、それ……。意味わかんないっての……!」


「私の姉は勇者に殺された。だから私は勇者を殺す。勇者が誕生するたびに、何度でも。どう、意味わかった?」


 わかるか。

 何言ってんのか一言も理解できないっての、イカレてんのかコイツ。

 結局私、関係ないじゃんか。

 クソ、せっかく仇を討ったってのに、こんな頭のおかしい逆恨みで殺されてたまるか!


「……っ!!! ……っ!!!!」


 ベアトが泣きながら叫んでる。

 声出てないけど、叫んでる。

 ごめんね、いきなり泣かしちゃったね。


 ……いや、違う。

 ベアトにあんな顔させてんのは私じゃない。

 目の前のコイツらだ。


「……わかんないね。あんたの事情なんか興味ない。マジで意味分かんないし頭おかしいとしか思わないしクソどうでもいい」


 怒りが無限にわいてくる。

 いつだって、私を前に進ませてきた原動力は怒りだった。

 家族を奪われて、故郷を焼かれた、その怒りで私はここまで進んできたんだ。


「けどさ、私今怒ってんだ。……あんたらさぁ」


 私の胸に渦巻くドス黒い感情。

 どんだけ体が痛くても、苦しくても、何度だって立ち上がらせてくれる。


「なにベアトのこと泣かせてんだ」


 ありったけの殺意をこめて、顔面につかみかかる。

 圧倒的に強い?

 はるかに格上?

 関係ないね。

 指先だけでも触れれば即死、そいつが私の能力ギフトなんだから。


「……っ!」


 ひるんだのか、触れられるのをさけるためか、レヴィアが後ろに飛び退いた。

 その速度は、普通に目で追えるレベル。

 これでわかった、あのデタラメな高速移動は【ギフト】の能力だ。

 魔力を込めなきゃ、とっさのことには使えない。


 さて、わかったところでどう打開しようか、この状況。

 せめてもう少し戦力がいたら、色々と手があるんだけど。

 マジでジョアナのヤツ、こんな時にどこにいんだよ……!


「ベアト、いた……!」


 ……あぁ、状況がさらに悪化した。


「……なんでっ! ストラ、なんで戻ってきたんだよっ!」


「だって、ベアトがいないんだもん! 放って行けるわけないでしょ!」


 ストラたち三人が、この場に戻ってきてしまった。

 そりゃ、はぐれたと思ったら探すだろうね。

 ストラたちには事情を話す時間もなかった。

 だから知らないんだ、こいつらがどれだけヤバいのかなんて。


「とにかく、ベアトは私に任せて出来るだけ遠くに逃げて!」


「……ふむ、なんとも驚きだ。まさか第二王女がいるとはな」


「ボクは知ってた。けどボクらの任務じゃないから」


「だがあやつの任務だ。ここは捕まえておいてやれ」


 まずい、興味がむこうに移る……!

 あのペルネ姫はたぶん影武者だけど、あとの二人に危害が加えられないとは限らない。

 そして何より、ペルネ姫が捕まったらこの戦いは終わってしまう。


 二人もお荷物を抱えたまま、私との戦闘を続けるとは思えない。

 つまり、ベアトが連れていかれる。

 ベアトがさらわれる……!


「……ぐっ! 逃げて、早くっ!!」


 ダメだ、叫んだって間に合うわけない。

 女魔族がギフトを発動したら、一瞬で——。


「ストームウォール!」


 その時、ストラたちの前に乱気流のバリアが張られた。

 高速で動こうとしたレヴィアが、【ギフト】の発動を中断する。


「……チッ」


 さすがのコイツでも、風のカッターが乱舞する中にあの速度で突っ込んだら、ただじゃすまないらしい。

 三人をかばうように立って、風のバリアを展開してるのはレイドさんだ。

 あの人が来たってことは、当然——。


「ふぅ、なんとか間に合ったみたいだね、バルジ」


「あぁ、ギリギリだったみてぇだがな」


 やっぱり来てくれた。

 ベアトを捕まえてる中年魔族の背後から、リーダーが斬りかかる。


「ぬっ……、新手か!」


 さすがに反応が早い。

 モルドとか呼ばれてた魔族はすぐに回避行動に入る。


 けど、さすがにリーダーの全力。

 ベアトを連れたままじゃ避けきれないと判断したのか、手を離した。

 その瞬間、私は倒れこむベアトに全速力で駆けよって、


「ベアトっ!」


 細い体を、腕の中に抱きとめる。


「大丈夫? ケガはない!?」


「……っ!!」


 コクリ、コクリとうなずく。

 よかった、本当によかった……!


 ……けど、喜んでばかりいられない。

 片腕でベアトを抱き寄せながら、視線と切っ先を敵に向ける。

 ありったけの怒りと殺意を込めて。


「ベアト、もう絶対に私から離れないで。ベアトは私が守るから」


「……っ!!!」


 正直さ、ブルトーギュを殺してから、私なんだかふわふわしてたんだ。

 目的を見失って、なにすりゃいいのかわかんなくって。

 リーダーたちの力になるとかも、とりあえずって感じだった。


 だから、今のこの感じ。

 ベアトを守るために、狙ってくるコイツらを殺す。

 この感じがシンプルで分かりやすくて、すっごく私って感じがする。


「……っ、……」


 ……ん?

 視界のすみにチラっと見えたベアトの顔、今までにないくらい真っ赤だ。

 どうしたんだろう。


 リーダーの方は、右手の剣でモルドに何度か斬りかかってた。

 けど、その攻撃は全部避けられるか手刀で受け止められて、二人は間合いを離して向かい合う。

 ……見間違いじゃないよね、手刀で剣を止めるって。


「リーダー、遅いよ!」


「わりぃ、ちょっとジョアナのヤツと話しててな」


 ……ジョアナと?

 なのにリーダーたち、アイツといっしょじゃないのか……?


 とにかくこれで形勢は、ほんのちょっとだけ私たち側にかたむいた。

 絶体絶命な状況には、まだまだ変わりないけどね。



 ○○○



「くすくすっ、キリエちゃんったら、あんないい表情カオして『ベアトは私が守る』だなんて、まるで正義の味方みたい」


 道具屋の屋根の上からこっそり見物してたけど、面白いシーンが見られたわ。

 本当に変わっちゃったわね〜、キリエちゃん。


 でもね、変わってもらっちゃ困るのよ。

 あなたには冷酷な復讐鬼のままでいてもらわないと。


「憎しみの炎を消さないようにあおってあおって、勇者としてこれまで通りに、たっくさん殺してもらわなきゃ……」


 このままだと、どんどん綺麗なキリエちゃんになっていっちゃうからね。

 アフターケア、できるだけ早くにしておかないと。


「それにしても、ふふっ。殺すべき仇がまだ二人も残ってるって知ったら、どんな表情カオに変わるのかしら……。ふふふっ……」


 その時の反応が、今からとーっても楽しみだわ……。




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