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64 決死の防衛戦




「おい、なんだありゃ!」


「こんな街中に、モンスターだと!?」


 おっと、召喚された魔物を目にしたレジスタンスの野郎共が、うろたえ始めた。

 まずいな、このままパニックになっちまったら……。


「落ち着け! レジスタンス総員はただちに修練場の騎士団と合流し、王城西門から脱出しろ!」


 ナイスだ、レイド。

 指示を受けたことで混乱は未然に防がれ、みんな城の西側へと走っていく。

 と、安心してばかりもいられねぇか。


「ガアァァァァッ!!」


 まず襲ってきたのはトカゲ男(リザードマン)

 ギザギザの荒い剣を手に、雑に振りおろしてくる。

 単調な攻撃だな。

 ソードブレイカーを逆手にかまえ、


「おいおい、ロクに手入れもしてねぇみてぇだな。そんな剣じゃ……」


「グガァッ!」


 ガギィッ!


 斬撃を受け止め、クシに絡ませて、


「すぐに折れちまうぜ?」


 パキィッ!


 チョイとひねってへし折ってやる。

 武器を失えばただのでかいトカゲだ。

 練氣レンキをまとった右の剣で、全身を細切れになるまで斬り刻む。

 たぶんレイドには、俺の剣閃すら見えちゃいねぇだろうな。


「ギュアアァァァァッ!」


 断末魔の悲鳴を残して、リザードマンはバラバラの肉片となった。

 ボトボトと音を立てて落下するブロック肉を背に、ルーゴルフへ切っ先を向ける。


「どうしたぁ、こんなモンか。俺を殺るにゃ、一匹ずつじゃ足りねぇぜ」


「なんかムカつくなぁ、お前……。いいよ、お望み通りにしてやるよ……」


 ルーゴルフが指輪に念じると、今度は三体のワイバーンが突っ込んできた。

 そんなヤツら、なおさら相手をするまでもねぇ。

 俺に到達する前に、


「テンペスト」


 レイドの発動した乱気流に三匹まとめて飲みこまれ、翼を切り裂かれて墜落。

 地面でもがいているところを狙って、三つの風の刃(ウインドエッジ)がすかさず首を斬り飛ばした。


「違うだろ、バルジ。キミを殺るには、じゃない。僕たちを殺るには、だ」


「そうだったな、頼むぜ相棒」


 レジスタンスは全員、本陣の方へ逃げたみてぇだ。

 ひとまず安心だが、仲間の安全とひきかえに戦力は大幅ダウン。

 さて、どうしたもんか——と考えるまでもなく、勇ましい声が広場にひびく。


「我らを忘れるな!」


「王国の危機に、貴殿らだけに任せておいては我らの名折れ!」


「そうだ! 今こそ我ら、一丸となって戦う時!」


 ずっと広場でおとなしくしてた王国兵たちが、武器を手に立ち上がった。

 武装解除したっつっても、武器そのものはその辺に山積みにしてたからな。

 いつでも加勢してもらえるようにってレイドの考え、裏目に出ねぇか心配だったが、とんだ考え違いだった。


「……ありがてぇ、最高に頼もしいぜ!」


 これで、数の上でも戦力は問題ねぇ。

 あとは兄貴とキリエちゃんが復讐を遂げるまで、全ての元凶であるブルトーギュがくたばるまで、ここを持たせるだけだ。


「気ぃ張っていくぜ、お前ら!」



 ■■■



「コイツで……っ!」


 ズバシュッ!


 化け物イノシシの頭に剣を突き立てて、脳みそまで串刺しにする。

 倒れ込んだ巨体から飛び下りて、刃についた血を軽くぬぐった。


 もうどんくらいの時間、戦ってんだろうな。

 兵士たちの数は半分まで減っちまった。

 だが、まだいける。

 好き勝手に遠くで暴れまわってる飛竜どもをのぞけば、残るはキマイラただ一匹だ。


「……へぇ、やるもんだね。僕もまだまだ全然本気出してないけど」


 だろうな。

 ルーゴルフのヤツ、ずっとつっ立ったまんま。

 モンスターを襲わせる以外、なんの指示も出しちゃいねぇ。


「まあ、コイツで終わるだろうけどさ。行っといで、キマイラ」


 さぁ出やがった。

 大きさは十メートル以上。

 獅子の頭に虎の体、グリフォンの翼で尻尾は大蛇。

 ごちゃ混ぜ感満載のバケモノだ。

 強さの方も、今までのモンスターとは比較にならねぇ。


「エェェエェェェンッ!」


 おまけに鳴き声が、赤ん坊の悲鳴みたいな不気味さときたもんだ。


「ひるむな、総員、かかれっ!」


 王国兵さんたち、勇ましいな。

 あの巨体にひるまず、何人かが向かっていった。


「レイド、援護だ! 死なせるな!」


「わかってる、キミも死ぬなよ!」


 レイドと魔術師隊の魔法の援護を受けながら、俺も敵へと突っ込む。

 大木のような前足の薙ぎ払いで、五人くらいの兵士が血煙になった。

 常人じゃあ、原形すら残らねぇ威力。

 こりゃ気合入れねえとな。


「エエェェェンッ!」


 魔法が顔面に殺到するが、レイド以外のヤツは効いちゃいねえ。

 アイツのウインドエッジも、小さい傷を顔にきざんだだけだ。

 だが、ひるませることは出来た。

 顔をそむけているうちに、前足を駆け上がって背中に飛び乗る。


「わりぃが、速攻で沈んでもらうぜ!」


 狙うは首筋。

 そこに剣をブッ刺しゃぁ、どんな魔物でも一撃だ。


「バルジ、後ろだ!」


 剣を突き立てようとした瞬間、レイドが必死な表情カオで警告を飛ばす。

 振り向けば背後から、尻尾の蛇が二本の牙をむき出しにして、信じられねぇ速さで迫ってやがった。

 コイツ、尻尾は尻尾で意思を持ってるのか!?

 ダメだ、速過ぎて回避が間にあわねぇ……!


 ピッ……!


「つっ……!」


 牙の先っぽが、腕に当たっちまった。

 軽いかすり傷だが、おかげでバランスを崩して足をすべらしそうになる。


「エェェェェエェエッ!!」


 バサッ、バサッ!


 その上コイツ、背中の翼を羽ばたかせて暴風を巻き起こした。

 とことん俺を振り落としたいみてぇだ。


「くそっ……!」


 崩れた体勢じゃふんばりがきかねぇ!

 俺の体はあえなく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「大丈夫か、バルジ!」


「あぁ、なんとかな……」


 受け身を取ってケガはしなかったが、やべぇぞ。

 キマイラが大きく口を開け、その喉奥に魔力が集まっていく。

 なんだかわかんねぇが、デカイのが来る前触れだ。

 さて、この状況をどうする……?

 まずは兵士たちを射線上から逃して——。


「リーダー、レイドさん!」


 ○○○


 見えた。

 よかった、二人ともまだ無事だ。

 レジスタンスのみんなはいないけど、死体も転がってない。

 きっと二人が逃がしたんだ。

 ……そのかわり、お城の兵士さんたちの死体がわんさか転がってるけどね。


「キリエちゃん! 用事は——」


「終わった!」


「……そうか。そうか! よっしゃ、逃げるぜレイド!!」


「あぁ、逃げよう。状況は不透明だが、まずは逃げよう、あの故郷まで!」


 二人とも嬉しそう。

 ……うん、次に私がやるべきことは、二人に無事に故郷の土を踏ませることに決定だ。


「で、そのためにはアイツを殺せばいい。シンプルで分かりやすいね」


 あのでっかい獅子……いや、鳥?

 なんかよくわかんないけど、魔力を口に溜めててヤバそうな状況だ。

 念のため、アレを持ってきててよかった。


「行けっ!」


 血液に魔力を流して浮かせてきたワイバーンの死体。

 このでっかい水袋を、魔物にむかって全力で飛ばす。

 猛スピードでぶつかってきた巨体に、魔物の顔が上をむき、


 ドォォッ!!


 極太の魔力ビームを真上に発射。

 まるで雲を斬り裂く柱みたいだ。

 ……うん、ヤバいもん見た気がする。

 このモンスター、どれだけ強いんだ。


 けど、私には関係ない。

 生物である限り、触れれば一撃なんだから。


「はじけろっ!」


 ワイバーンの死体を瞬間沸騰させて、体を破裂させる。


 パァァンッ!


 煮えたぎる血肉と飛び散る骨を全身に浴びて、魔物は大きくひるんだ。

 この間に私は魔物の前まで到達。

 ジャンプしながら指先で頭に触れ、奥の方へと魔力を流しこむ。


「エェェッ!?」


 ズズゥゥゥゥン……!


 脳みそをはじけさせると魔物は即死、その巨体が横たわった。

 で、驚いたことが一つある。

 ワイバーンの血肉スプラッシュ、その爆心地にいたにもかかわらずだよ。

 魔物の横にいた魔族、そいつの体にも服にも、血の一滴もついてないんだ。

 全部よけたってのか、んなバカな。


「ぁんだ、お前は……?」


「キリエ・ミナレット。一応勇者やってるよ。あんたは?」


「あぁ、なんだ勇者か……。なら僕のターゲットじゃないや……」


 着地した私に、魔族が話しかけてきた。

 きっとコイツが例の五人組の一人だ。


「お前らもさぁ、もう用事はすんだんだろ? だったらさぁ、もう僕のジャマしないでくれるかなぁ……?」


 ……でも、敵にしてはなんだか妙だな。

 この口ぶり、私たちと戦うつもりはないってことか?


「見逃してくれんならありがてぇ。おい、さっさとずらかるぜ!」


「衛兵さんたちも、一度逃げた方がいい。王都は落とされるだろうが、まずは退いて体勢を整え——」


「ご忠告、ありがたく受け取っておく。だが、ペルネ様がまだ中にいるのだろう? ならば我らは、逃げるわけにはいかんのだ!」


「……そうか。覚悟はできてるんだね。だったらもう、僕らは何も言わない」


 レイドさんが忠告してくれたけど、兵士さんたちはここに残るみたいだ。

 きっと全滅するだろうけど、意地があるんだろうな。


「……バルジ、キリエさん、急ごう!」


 その場に兵士さんたちと敵の魔族を残して、私たち三人は走り出す。

 王都東区画、ベアトが待ってるレイドさんの道具屋へ向けて。

 ……あれ?

 リーダー、なんか走るの遅い?


「リーダー、平気? 走れる?」


「そこそこやられちまったからな。体中が痛てぇ……。それと、ちっと寒気がする気もするが……、まぁ気のせいかな」



 ▲▼▲



「アイツ、キマイラの尻尾かすってたよな……。あの牙には『三夜越え』の猛毒が……。ま、僕には関係ないか。アイツが死のうと、強くなろうと……」




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三夜超えたら逆に強くなるんかな
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