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60 お前を殺すにはこいつで十分だ




「……愚かな。我が力を目の当たりにしてなお、そのような無礼な口を利くとはな」


「なんとでも言ってろ」


 ギリウスさんの戦いで、不死身のブルトーギュを殺す方法が見えた。

 今の私なら可能なはず。

 全てをフルに活用して、捨て身の覚悟を持っていれば。


「バカな……! 無茶だキリエ、部下たちを連れて逃げろ……!!」


「無茶はしないよ、リーダーにもしつこく言われたし。それに、死ぬ気もない」


 コイツを前に背中を見せて逃げるなんて死んだ方がマシ、絶対にゴメンだ。

 それに、あの娘との約束があるからね。

 必ず生きて帰るって。

 左手にソードブレイカーの柄を強く握って、その切っ先をブルトーギュに向ける。


「コイツを殺すまで、死んでたまるか」


「身の程を知れ、湯を沸かすしか能のない出来損ないの勇者めが」


「あぁ、そうだ。お湯を沸かすしか能がない勇者さ。けどな、お前を殺すにはこいつで十分だ」


 姿勢を低くとって、走り出す。

 行き先はブルトーギュではなく、ここまでの攻防で斬り落とされた二本の腕だ。


「何を企んでいるか知らぬが……。練氣レンキ飛刃ヒジン


 ヤツが繰り出したのは、大剣にまとった練氣レンキを透明な刃に変えて飛ばす技。

 最初に戦った部隊長が見せたヤツと同じだけど、大きさも速さも全然違う。

 速すぎてちょっとよけられそうにない。


 よけられないなら、左手のガントレットでそらして衝撃を逃がす。

 受け流しってやつだ。

 まともにガードするのは無理だけど、これなら。


「っぐぅぅぅぅ……」


 斬撃がガントレットに接触。

 メチャクチャ重いけど歯を食いしばって、


「らぁぁぁっ!!」


 腕をふって、左ナナメ上に方向をそらした。

 なんとか成功だ。

 飛んでった先を見てる余裕はないけど、きっと壁に大きな傷ができてるんだろう。


 はじいたら急いで腕の方に走って、駆け抜けながら両方にタッチ。

 よし、これで準備完了だ。


「ブルトーギュ、今からそのツラぶん殴ってやる!」


 急ブレーキからの方向転換、今度はまっすぐクソ野郎へと突っ走る。

 内部の血液を沸騰させて浮かび上がらせた両腕を、自分の背後に隠しながら。


「笑止なり」


 今度はブルトーギュのヤツ、練氣レンキを大剣にまとわせたまま、大きくふりかぶって。


「……むんっ!」


 床に叩き付けた。

 衝撃波が石材を砕きながら、一直線にこっちへ向かってくる。


「どんな力だっての……!」


 こんなの食らったら終わりだし、ガードしても終わり。

 コイツと正面から打ち合うのはムリだな、やっぱ。

 左に転がって回避しながら、太い柱のカゲへ。

 浮かんだ腕の一本を、そこから敵の死角を通して後ろに飛ばす。


「こそこそと隠れおって、ドブネズミが……」


 そして、後頭部めがけて全速力で——。


「気付かぬとでも思ったか、無駄だッ!」


 激突する前に、ふりむいたブルトーギュに斬り刻まれた。

 はやっ!

 何回斬ったのか、一瞬でこまぎれになったよ。


 けど、その反応も予想通り。

 振り向いた瞬間に柱から飛び出して、またブルトーギュへと走り出す。


「無駄だと言っている!」


 振り向いて剣を振りかぶるけど、こっちだってわかってるっての。

 お前と至近距離で斬り合うつもりはない。

 そんなことしたら、私一瞬で肉片だし。


 姿を晒したのは、油断させるためともう一つ。

 ギリウスさんの援護のために飛び散った熱湯から、目をそらさせるため。

 まだ私の魔力が残ってた、十五個の水玉を浮かび上がらせる。


「行けっ!」


 ブルトーギュの全方位から、極小の熱湯が襲いかかる。

 オールレンジ攻撃、タリオのヘイルストームを参考にした技だ。

 名前をつけるなら、ボイルストーム……?

 まあなんでもいっか。


「ぬっ、ぐぅぅぅ……っ!!」


 さすがにこれは避けきれないみたいだ。

 ギリウスさんが鎧を砕いたおかげで裸の上半身に、熱湯のしずくが次々と当たって、敵がひるんだ。


 で、最後の仕上げ。

 これまで隠してた浮遊腕その2。

 こいつを直接つかんで魔力を大量に流したあと、思いっきりブン投げる。


「同じ手を何度も……ッ!」


 果たして同じ手かな?

 迎撃のために剣を振りかぶった瞬間、腕全体の水分を急激に沸騰させた。


 急に沸騰させるとさ、いっつもその部分が爆発するんだよね。

 頭とか手首とか、さっさと破壊したい時に使ってる。

 それでもさ、加減はしてるんだ。

 思いっきりやったらきっと大爆発して、骨とか肉とか飛び散って、近くにいる私まで危ないから。


 ——そう、こんな風に。


 パァァァァァァン!!

 ドスドスドスッ!


「ぐああぁぁぁっ!!?」


 腕が爆発四散して、砕けた腕の骨やガントレットがブルトーギュの上半身に突き刺さる。

 勢いよすぎて貫通したかけらもあるみたいだ。

 この目くらまし(・・・・・)が最大の狙い。


 ひるんだスキに一気に加速して、ブルトーギュの前までつっこむ。

 手をのばせば届く距離まで近づいて、心臓にむけて右手を突きだす。

 私の考えが正しければ、これでブルトーギュは殺せる!

 あそこに触れさえすれば——。


「……この程度で、余がひるむかァァァッ!!」


 ゾクリ、と全身に寒気が走った。

 針の山を押しつけられたような、生きてるのが嫌になるほどの強烈な殺気。

 見上げると、ブルトーギュが練氣レンキをまとった大剣をナナメ上から振り下ろそうとする瞬間だった。


 だめだ、避けられない。

 あとすこしなのに。

 あとちょっとで、仇が討てるのに。

 ほんの少しのスキすら、コイツは与えてくれないのか。


「我が前をうろつくジャマな子ネズミが! 消えろッ!!」


 ブオンッ!


 もうこれしかない。

 強烈な斬撃に、私はあえて左腕のガントレットをさらす。

 さっきの飛ぶ斬撃みたいに、うまく受け流せれば——。


 ズバシュッ!


「あ——」


 ほんの少し、軌道は変えられた。

 胴体をナナメに斬り裂くはずだった剣の軌道を、肩の辺りにまで変えられた。

 その代償に、ガントレットが叩き割られ、ソードブレイカーをにぎった私の左手首が斬り飛ばされて、ついでに左肩から先も斬り落とされた。


「っあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁッ!!!」


 なんか、痛いというより冷たい。

 冷たいというか熱いというか、もうよくわかんない。

 けどね、この叫びは苦痛の叫びじゃないよ。

 気を失わないための気合のおたけびだ。

 腕の一本がなんだ、私はもうブルトーギュの喉笛に喰らいついてんだ。


「この程度でッ! 私゛がひる゛む゛か゛ぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 振り切った剣を、もう一度かまえるまでのわずかな時間、わずかなスキ。

 無事に残った右腕をブルトーギュの心臓にのばして、全開の魔力を送り込む。


「弾け゛、とべえええ゛ぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」


 パァァァァァン!!!


 心臓を守る肉が弾けて、肋骨が弾けて、全部私が浴びる、突き刺さる。

 知ったことか、この程度の痛みがなんだ。

 露出した脈打つ心臓。

 そこに手をのばし、にぎって。


「貴様まさか……っ! させるかぁッ!!」


 ズドッ!


 体ににぶい衝撃が走る。

 呼吸ができなくなって、口から大量の血があふれ出す。

 たぶん、剣を腹に突き刺されて、背中まで串刺しにされた。

 ……関係ない!


「……っあ゛あ゛あぁぁぁあぁぁぁ!!!」


 一瞬飛びかけた意識を、叫びで強引に呼び戻して、力の限り心臓を引き抜く。

 死んでたまるか。

 生きて帰るんだ、絶対に!




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