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06 利害の一致




 デルティラード王国の王都ディーテ。

 大陸中央部の、山に囲まれた盆地に築かれた一大都市。

 平地にあるけど、周りの山と街の南北を流れる二本の川が天然のよーがい? だかになっていて、外敵に攻め込まれにくい地形だってケニーじいさんが言ってた。


 私こと湯沸かし勇者キリエは、今この大都会に足を踏み入れている。

 人ごみにまぎれて、ひっそりと。


(街の門、警備がいないのは幸いだよね)


 経済の流通をスムーズに進めるために、門はフリーパス。

 それと、周辺の属国に王都の発展を見せつけるためって狙いもあるらしい。

 ケニーじいさんが言ってた。


(さて、とにかくまずは、カロンの屋敷の正確な場所を突き止めなきゃ)


 ガラレ……だったっけ?

 名前ぼんやりとしか思い出せないけど、アイツが言った情報は嘘じゃないと思う。

 ホントのことじゃないと、あんなにスラスラ出て来ないだろうし。

 でも、嘘の可能性もあるから、裏を取るために。

 私は北部の住宅街を目指して、歩きだした。


 それにしても、王都は目まいがするほど広い。

 地面に石が敷き詰められて広い道が作られてるし、その真ん中を馬車が当たり前のように行き交ってるし。

 建ってる建物も、二階建てとか三階建てとかばっかりだし、通り沿いにあるのは大体どこもお店や劇場、お宿って感じ。


(けど、街の人たちはあんまり元気じゃないんだよね)


 みんな、疲れた顔してる。

 あと、男の人や若い人が少ないみたい。

 きっと戦争に駆り出されてるんだ。

 そしてみんな、戦争に嫌気がさしてるんだ。


(あの王、そこまでして領土なんて欲しいのかな。全然理解できない)


 人の命を犠牲にして、お金も物も時間もかけて、恨みもいっぱい買って。

 属国にされた周辺諸国、今でも恨んでるってよく聞くし。


(……っと、ぼんやり歩いてちゃ危ないよね)


 考え事をしながら歩いてたら、すぐ誰かにぶつかっちゃう。

 しっかりと前を見て、早歩きで、王都北部のお城を目印に進んでいく。



 ○○○



 ようやく辿り着いた。

 何十分かかったかな、広すぎるよ王都。

 アイツの話通り、カロンの屋敷——ストゥクス邸を発見した。

 でっかい屋敷の表札に書かれてたから間違いない。

 門の前に警備がいて、前を通りながらチラっと確認するしか出来なかったけど。


(……やっぱり警備はいるよね。正面から入るのは無理そうかな)


 高い塀の角から、そっと門の方を覗く。

 兵士が二人、門の左右を固めていて、とても入れそうにない。

 そもそも、ただの村娘な私がどうやって忍び込めばいいんだ。

 六人分の命を吸って、それなりには動けるようになったけど。


(特にあの小隊長。アイツ殺したあと、なんか体がすっごく軽くなった)


 強かったからね、あの……アイツ。

 もう名前思い出せないや。

 強い相手を倒すほど、勇者の加護で上がる能力は増えるみたいだ。


(いまなら、男の人に腕相撲で勝てるくらいにはなってるかも?)


 ムッキムキの男の人には負けるかもだけど。

 今の私の強さはそんな感じ。

 さすがに二人の兵士相手に勝てる自信は持てない。


「もーし、そこのお嬢さん?」


 突然、肩をつんつんされた。

 振り向くと、なんだか身なりのいいお姉さんが。

 ヤバい、見つかった!?


「なんっもがっ」


 振り向こうとしたところ、口を抑えられた。

 かなり鮮やかな手並だ。


「静かに。勇者キリエ・ミナレットね」


「もごっ、もごご」


「静かにって言ってるでしょ、私は敵じゃない。いい、放すわよ」


 忠告のあと、本当に口元を解放してくれた。


「ぷはっ、あ、あんた誰?」


「ここだと危険ね、ちょっと離れましょう」


 軽く手招きした後、お姉さんはストゥクス邸を離れていく。

 決して走ったりせず、堂々と歩きながら。

 じゅうぶんに離れたところで通りから路地へと入り、更に二、三回曲がったところでようやくストップ。


「……はぁ。あなたねぇ、あんな場所でそんな格好して覗きこむようにしてたら、自分は不審者ですって大々的に宣伝してるようなもんでしょ! 捕まりたいの!?」


「……ごめんなさい」


「分かればよろしい」


 なんかいきなり怒られた。

 クリーム色のウェーブがかった長い髪を後ろ頭で結んだ、このお姉さん。

 私のこと知ってる時点で、かなりうさんくさい。

 簡単には信用出来ないけど……。


「……えっと、あんたは誰なの? なんで私のこと知ってるのさ」


「そうね、私はジョアナ。あの屋敷にはちょっとした用事があるの」


「はぁ、用事」


「そしてあなたのことを知っているのは、あなたの村のケニーさんのおかげ。彼、殺される前に仲間である私たちに伝書鳩を飛ばしたのよ」


「ケニーじいさんの、仲間……?」


 私のことを知ってて、ケニーじいさんの仲間で、敵じゃなくて、あの屋敷に用事がある。

 考えられる可能性としては。


「……もしかして、反体制のレジスタンス?」


「おっと、大正解。思ったより頭が切れるのね」


「失礼だな」


 ……と、言っても。

 素の私じゃ、そこまで考えは回らなかったと思う。

 ケニーじいさんが言ってたからだ。

 この国にはそういう人たちがいるって。

 ……そっか、ケニーじいさんも、そうだったんだ。


「さあて、キリエさん。そんなわけで、私たちとあなたの目的は同じ。信用は出来ないかもだけど、一旦共同戦線を敷いてみない?」


「……メリットが分かんない。私なんかに協力して、あなたたちに何の意味があるの?」


「あなたが勇者だから」


「はぁ……?」


 全然分かんない。

 勇者だからなんだってんだ。

 お湯しか沸かせないぞ。


「私たちの最終目標は、王を打倒すること。その時、私たちには大義名分と旗印が必要なの」


「……つまり?」


「あなたを抱きこんでおけば、私たちの利益になるってこと。勇者様が滅ぼしたのなら、王家は悪い奴らだったんだって、民衆も納得するでしょう」


「あー、なるほど。あんたらもなかなか小ずるいね」


 そういうの、大事だよね。

 せっかく王を倒しても、正統性が無ければ支持を得られず空中分解ってことか。


「……分かった。でもまだちょっと信用出来ない。私がカロンを殺すの、ちゃんと手伝ってくれるんだよね?」


「ええ、もちろん。その点に関して、私たちの利害は一致しているもの」


 誰かを信用するなんて精神状態じゃない。

 仲間を作って仲良しする気も、さらさらない。

 けど、この状況は利用できる。

 私一人だけよりも、復讐の成功率は段違いだ。


「……いいよ、あなた達に手を貸してあげる。だから、あなた達も手を貸して」


「交渉成立、ね。あとあなた、少しは笑いなさい。ちょっと無愛想過ぎるわよ」


 ……そんなこと言っても、笑えないよ。

 きっと、ブルトーギュを殺すまで。




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