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59 暴君の力




勇贈玉ギフトスフィア……? ギリウスさん、知ってる?」


「初耳、だな。パラディには秘密も多い。何が飛び出してきても不思議じゃないが……」


 持ってるだけで勇者のギフトを使える秘宝だって?

 そんなもんを一つとはいえブルトーギュ(あんなの)にプレゼントとか、なに考えてんだ神託者。


 レジスタンス勢が逃げ出す中、勇敢な騎士さんたちは不死身っぷりにもひるまず向かっていくけど。


「羽蟲どもがたかりおって、鬱陶しいわッ!」


 一喝と共に大剣が振るわれて、一振りで五人の首が飛んだ。


「いかん、作戦変更だ! 全員、一度下がれっ!」


 さらなる犠牲が出る前に、ギリウスさんが部下たちへ指示を飛ばした。

 と同時に、ブルトーギュに向かって駆けていく。


「その【ギフト】は数で押す戦法との相性が悪い! これ以上は無駄死にだ! ギフトの弱点を見つけるまで、お前たちは下がっていろ!」


 たしかにあの無限回復をなんとかしないと、どうにもならないよね。

 いくら囲んで剣を刺しても、致命傷にならないんじゃ意味ないもん。


 ギリウスさんといっしょに、私もダッシュ。

 腰にぶら下げた水袋、その中身全部に魔力を注いで宙に浮かばせる。


練氣レンキ月影脚ゲツエイキャク


 騎士さんたちが逃げ始め、入れ替わりにギリウスさんがブルトーギュの目の前に。

 金剛力コンゴウリキとの同時発動で、腕と足に練氣レンキをまとって斬りかかる。


「これ以上、部下はやらせん! ブルトーギュッ!」


「無礼なり……。ギリウスよ、余を誰と心得おるか」


 二人の斬り合いが始まった。

 練氣レンキブーストのギリウスさんに対し、練氣レンキを使ってないブルトーギュ。

 なのに剣速も足運びも互角、正直なところあんまよく見えないくらい速い。


「……っと、きちんと援護しなきゃ」


 びっくりしてる場合じゃないよね。

 浮かせた熱湯を二十五個の水玉に変換。

 今の私に操作できる限界の数だ。


「いけっ!」


 熱湯の散弾、その全てをブルトーギュにめがけて飛ばす。

 斬り合いに専念してる今なら、全部当たるはず。

 と、思ったんだけど。


「小賢しい……!」


 猛スピードで剣撃を続けながら、横っツラに飛んできた熱湯全てをチラリとも見ずに避けられる。

 コイツ、どこに目がついてんだよ。

 これじゃ援護にもなりゃしない。


「……けど」


 一度避けられただけじゃ、コイツは止まんないよ。


 ■■■


 キリエの放った熱湯が左側から殺到した。

 少しはスキが出来るか、そう期待したのだが。


「小賢しい……!」


 俺の右斬り上げ、打ち下ろし、横なぎをさばきながら、ノールックで全てを避けきるとは、とんだ化け物だ。


「余を倒すすべなど、この世に存在せぬと知れ」


「あいにくと、そこまで物分かりはよくないのでなっ!」


 刺突、横なぎ、左の斬り上げ。

 全てさばかれ、敵の剛腕から繰り出される最上段からの振り下ろし。

 両手で大剣を支えて受け止めるが、腕にしびれが走る。


 金剛力コンゴウリキで腕力を増強してるってのにこのザマか。

 だが、剣を弾かれることはない。


「それに、お前を殺す目星はついている……!」


「ほう……。ならばせいぜい無駄な足掻きを見せてみよ」


 無駄かどうか、試してやろう。

 いくら再生速度が速くても、首を斬られてまで生きていられるのか、試してやる。


 だが、問題は首を斬り落とす方法。

 コイツにそんなスキが生じるか——。


(……ん?)


 暴君の連撃をさばきながら、視界のはしに妙なモノが見えた。

 避けられたはずの熱湯玉たちが、ブルトーギュの死角を通ってヤツの背後に、ひと固まりに集まっていく。


 なるほど。

 キリエの魔法は外れたわけではなかったか。

 ならば今、俺がすべき行動はヤツの注意を引きつけることだ。


「いくぞ、ブルトーギュ! 練氣レンキ魂豪身コンゴウシンッ!!」


 全身に練氣レンキをまとわせ、全ての能力を十倍以上に高める、俺の定めた奥義にして最大の技。

 五分程度しか続かないが、使いどころは今だ。

 猛攻をしかけて、敵の目を釘付けにする。


「ぬ……!」


「ずりゃああぁあぁぁぁぁッ!!」


 ブルトーギュ以上の剣速で攻め立てる。

 右ナナメの斬撃、返しの斬り上げ、真上からの斬り落とし。

 続けて刺突、剣を引いての横なぎから、体を一回転させて二度目のなぎ払い。


 全てを防がれるが、敵は防戦一方。

 いいぞ、ヤツは背後に気付いていない。


小癪こしゃくな——がぼっ!?」


 よし。

 少々小さいが、背後から熱湯が直撃。

 すばやく顔の両わきを通って、鼻と口をふさいだ。


「ゴボぶっ……、かぁぁぁぁっ!!!」


 次の瞬間、ブルトーギュの叫びと共に熱湯の玉がはじけ散る。

 練氣レンキを顔の周りで爆発させて、その衝撃ではがしたか。

 だが、充分なスキだ。


 ズバッ……!


「か゜っ……」


 熱湯の攻撃に気を取られた、その一瞬。

 練氣レンキで切れ味を増した俺の一刀が、ヤツの首を刎ね飛ばした。


 ゴトっ、ゴロゴロゴロ……。


 ブルトーギュの首が、床に落ちてゴロゴロと転がる。

 まだだ、まだ終わらない。

 両腕も斬り落とし、残った胴体に怒涛の連撃を浴びせる。

 心臓も肺も、内臓全てを破壊し、鎧ごと上半身を細切れにする。


「これで、終わりだッ!!」


 故郷の恨み。

 両親の恨み。

 全てを込めて、大剣にありったけの練氣レンキを乗せる。


練氣レンキ豪破突ゴウハトツッ!!」


 極太の氣の刃による渾身の刺突。

 バラバラに散らばった肉片が全て、一片も残らず完全に蒸発した。


「……暴君の最期だ」


 緑色の小さな玉がただ一つ、わずかな肉片をつけて、ブルトーギュの胴体があった場所から無傷で落下する。

 どうやらヤツは、勇贈玉ギフトスフィアを体内に埋め込んでいたらしいな。

 だが、ここまで消し飛ばしてしまえば——。


 ずりゅっ。


 ……まるで、時間が巻き戻ったようだった。

 玉についた肉片が心臓に変わり、そこから上半身が再生されて、剣を握ったまま落下する右腕とつながり、下半身ともつながった。

 最後に左腕と首が生え、鋭い眼光がこちらをギロリとにらむ。


「な……っ!」


「愚か。目星とはこの程度のことか」


 バカな……!

 細切れにしてやったというのに、ここまでしたというのに……!

 わずかに付着した肉片から、一瞬で完璧に再生したというのか……!


「ならば死ね」


 驚愕のあまり動きを止めてしまった俺に、練氣レンキをまとった刃が振るわれる。

 ダメだ、ガードが間に合わない……っ。


 ドガっ……!


「ガハ……ッ!!」


 体に走るにぶい衝撃。

 鎧を通して、圧倒的な力が体の奥まで、内臓まで伝わる。

 魂豪身コンゴウシン練氣レンキの鎧によって体の両断はまぬがれたが、致命的な一撃には変わりない。

 口から血を吐き散らし、俺の体はおもちゃの人形のように吹き飛ばされた。


 ○○○


「ギリウスさんっ!!」


 そんな、あそこまでやったのに……!

 勝ったと思った次の瞬間、ギリウスさんは吹き飛ばされて、壁に大の字に叩きつけられた。

 血を吐いて、ずるりとすべり落ちて、全身の練氣レンキも消えて、剣を手放してしまう。


「……がはっ! こ、コイツはもう、俺たちの手に負えない……! 退け、お前らだけでも、逃げろ……!」


 最後の力をふりしぼって、部下たちに逃げろと命令してる。

 ……けどね、ギリウスさん。

 今ので勝ち目、見えたよ。

 絶対に無駄にはしないから、そこで安心して休んでて。


「愚かな騎士よ、最期の時だ。我が手にかかって果てること、光栄に思うがよい」


 なーにが光栄に思えだ、偉そうに。


「おい、クソ野郎。今度は私が相手だ」


「……む」


 ブルトーギュがギリウスさんへのトドメを中断して、こっちに振り向いた。

 やーっと私を見てくれたな、嬉しいよ。

 空っぽになった邪魔な革袋を捨てて、ソードブレイカーを左手に握って、ありったけの殺意を込めてにらみながら一歩ずつ歩み寄る。


「出来損ないの勇者様が、お前を地獄に送ってやる。覚悟しろ」




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