表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/373

58 ブルトーギュ・ハディス・デルティラード




 ブルトーギュ・ハディス・デルティラードは、前国王の五男、第五王子として生まれた。

 彼は生まれつき気性が荒く、王族の器たりえないと判断した国王により、政治から遠ざけられて育つ。

 退屈な日々の中、ブルトーギュはひたすらに己を鍛え続けた。


 十七歳の時、両親である国王夫妻を殺害し、王位を簒奪さんだつ

 兄妹たちを敵に回し、王国は内乱状態へと突入する。

 ここで、ブルトーギュの才能が開花した。


 圧倒的な強さである。


 彼はライバルとなる兄や弟、妹たちとのいくさに勝利し、全員を処刑。

 己の力のみで王位を勝ち取った。


 その後、国内を統一した彼は力の矛先を周辺諸国へとむける。

 対外戦争でも、彼は勝った。

 勝ち続けた。

 デルティラード王国の領土も広がり続けた。


 いつの間にか、王国はあまりにも強大な大国となった。

 ブルトーギュが自ら戦場に出ずとも、配下の将兵はいくさに勝ち続け、ただ座っているだけで領土が広がっていく。


 ここに至り、彼は確信した。

 この世は力こそ全て、そして自分はその力を持っている。

 全てを手中に納める資格を、王としての力を。

 ならば自分こそが、この大陸の全てを治めるべき運命を背負った選ばれし人間なのだ、と。



 ○○○



 ずっと会いたかった。

 会いたくて会いたくてしかたなかった相手が、今目の前にいる。


「案の定、謁見の間(ここ)にいたね。この期に及んであんた、まだ王様気取ってんの?」


「余は王だ。この大陸をべるにふさわしい、まことの王だ」


「はっ、ギフト使わなくっても茶が沸きそう」


 くだらないプライドだけはご立派なこのゴミが、私たち下々(しもじも)の民にお顔をお見せくださる場所。

 ここしかないと思ってたけど、大当たり。


「ねえ、あんた今からさ、役立たずって切り捨てたくっそショボイ【沸騰】なんてギフト持ちのザコ勇者に殺されるんだけど、どんな気持ち?」


「余は死なぬ。貴様を殺し、歯向かう者は全て殺す」


「……状況見えてる?」


 いくら強くても、よっぽどの化け物じゃなければ数の前には無力。

 私が身を持って思い知った、絶対的な事実。

 ブルトーギュに、今の状況をひっくり返せるような規格外の力があるとは思えない。


「ま、いっか。これ以上ウダウダ話しててもさぁ、意味ないよね。こっちはテメェを殺したくてウズウズしてんだ」


 右の腰に差したソードブレイカーを、ガントレットをつけた左腕で引き抜く。

 次の瞬間、私は地面を強く蹴り、三段ある階段を全部飛ばして玉座の前に着地。

 座ったままのブルトーギュに斬りかかる。


「余を見下ろすか——無礼な」


 ガギィィィッ!!


 ……速い。

 玉座の脇にあった大剣を手にとって、こっちの攻撃を受け止める。

 そこまでの時間が、私が剣を振るよりも速かった。


「我が前に立つ者は、等しくこうべを垂れよ」


 つばぜり合いのまま立ち上がったブルトーギュ。

 やっぱデカイな。

 あとコイツ、全然力を入れてない。

 私が両腕プルプルさせてんのに、片腕で平然としてやがる。


「入り口からだ、礼儀をわきまえて入り直せ」


 おもむろにブン、と剣を振るわれて、私の体が謁見の間の入り口まですっ飛んでいく。

 片腕で人をここまで軽々飛ばすか、普通。


「キリエっ!」


 おっと。

 広間を追い出される前に、飛びこんできたギリウスさんが受け止めてくれた。

 第三騎士団の騎士さんたちと、後宮こうきゅうに行かなかったレジスタンスのメンバーもいっしょだ。

 壁みたいにでっかいな、この人も。


「無事のようだな。……まったく、無茶をする」


「ありがと、私は平気だよ」


 大剣を手にしたブルトーギュが、段を降りてじゅうたんの上をこっちに歩いてくる。

 ギリウスさんも背中の大剣を抜いて、私はその隣で臨戦態勢。


「一人で先走るなと、あれほど言っただろう」


「ごめん……。あわよくば一人でって思ったけど、やっぱアイツ強いね……」


「あぁ、強い。この俺よりも、な。だが、これだけの人数がいれば負けはせん」


 私たちの周りに展開する戦力、総勢五十人近く。

 いくらブルトーギュでも、私とギリウスさんにこの数まで加わったら勝てるわけない。


「……愚かな。余はこれより、貴様ら全員を無礼討ちとする。その後、余に歯向かった愚か者ども全員を撫で斬りにしてくれる」


「バカじゃないの? あんたはもう詰んでんだ。寝言は死んでから言えっての」


 ギリウスさんとアイコンタクトでうなずき合って、同時に駆け出した。

 私が左側から、ギリウスさんが右側から。

 カーブを描いてブルトーギュに駆け寄って、左右同時に攻撃をしかける。


「ぬんッ!!」


 コイツ、ギリウスさんの方向きやがった。

 出来損ないの勇者は眼中にないってか。


 上段から両手で振り下ろしたギリウスさんの大剣を、これまた両手持ちで受け止める。

 背中がガラ空きだ、心臓にダイレクトで魔力送ってや——。


「がっ……!」


 後ろ蹴り。

 するどく繰り出された足先が、私の腹に食い込んだ。

 ミシ、って体の中で音がして、口から血がこぼれて、体がすごい勢いで吹き飛ばされ、そのまま太い柱に叩きつけられた。


「げほっ……! かはっ、チクショウ!」


 クッソ痛いけど、戦闘不能になるほどじゃない。

 すぐに着地して、またクソ野郎めがけて駆け出した。

 これだけのダメージですんだの、服の下に着た鎖かたびらのおかげかな。


 騎士さんたちも私らの後に続いて、突撃をしかけてたみたい。

 ギリウスさんが敵と斬り合ってる間に、暴君に騎士剣を突き立てようと突っ込んでいく。


「小賢しい……!」


 ギリウスさんと斬り結ぶ片手間の斬撃で、次々と騎士さんたちの首が飛ぶ。

 けど、ギリウスさんも部下を黙ってやらせない。


練氣レンキ金剛力コンゴウリキ!」


 腕に練氣レンキをまとって、力と速さをアップ。

 騎士さんを迎撃する余裕を削いでいく。


 そんな中、私も戦いに復帰。

 今度は蹴られたりしないように、慎重に立ち回らなきゃね。


 こっちを見てないのにやたらと的確な蹴りを、素早く回避。

 ソードブレイカーで反撃するけど、これまた見えてるみたいに避けられる。

 でも避けてるってことは、その分私に意識をむけさせてるってこと。

 ギリウスさんの猛攻と私の攻撃で、充分に時間とスキは作れた。


「今だっ!」


 ギリウスさんの合図で、私たち二人は同時に後ろへ、高く飛ぶ。

 ブルトーギュを囲んでいた騎士さんたちが、全方向から突撃してくるその上を飛び越えて。

 私たちの下を通って、みんながいっせいに剣を突き立てにかかる。


「コバエどもがッ!!」


 迎撃の横なぎで、三人の騎士さんが胴体を切断された。

 けど、それだけでは全員を止められない。


 ドスッ、ドスドスドスッ!!


「う……ごぼっ……!」


 背中に、脇腹に。

 鎧のすきまをぬって、騎士剣が大量に突き刺さる。


「ぐ……ぬああぁぁぁぁぁっ!!」


「お前ら、もういい! 離れろ!」


 嫌な予感がしたんだろうギリウスさんが指示を飛ばすけど、それよりも反撃は早かった。

 体に剣を突き刺されながら雄たけびを上げ、一回転しながら剣を振るう。

 攻撃に成功した騎士さん全員が、その一撃で首を飛ばされた。


「……くそっ! だが敵は重傷、お前らの犠牲無駄にはせん!」


「コイツで、終わらせる!」


 ブルトーギュはもうボロボロだ。

 着地したギリウスさんと私が一気に距離をつめて、最後の攻撃をしかける。


「お命、頂戴っ!」


「くたばれ、クソ野郎っ!」


 ギリウスさんの剣が、ブルトーギュの左腕を斬り飛ばした。

 私の指先が触れて、右腕に【沸騰】の魔力が流れ込み、右手首が弾けて剣といっしょに床へ落ちる。


(勝った!)


 ギリウスさんがさらに踏み込み、胴体を斬り裂きにかかった。

 右腕の沸騰も、いずれ全身に行きわたる。


 やった。

 やったよ、みんな。

 仇を討っ——。


 ズルッ!!

 ドゴォッ!!


「……へ?」


 今、なにが起きたのか理解できなかった。

 ありのままを言うと。

 斬り飛ばされたブルトーギュの左腕。

 その切り口から一瞬で腕が生えて、新しい腕がギリウスさんの顔面を殴り飛ばした。


 バキィッ!!


「っがあぁぁっ!!」


 驚きのあまり動きを止めたそのスキに、私の腹がまた蹴り飛ばされる。

 二人でゴロゴロと転がり、剣を杖代わりにしてなんとか起き上がった。


「……余の体に傷を負わせるなど、万死に値する」


 落とした大剣を拾って、沸騰の魔力が上ってくる右腕を自分で斬り落とす。

 すぐに新しい右腕が生えてきて、古い右腕は煮沸き溶け落ちて骨に変わった。

 よく見ると、騎士さんたちに刺された傷も全部治ってる。


「……ねえ、ギリウスさん。あれ何? ブルトーギュって中身以外も化け物なの?」


「わ、わからない……。こんなものは俺も知らない……!」


「……いいだろう、教えてやる」


 え、教えてくれるの?

 かなりありがたいんだけど。


勇贈玉ギフトスフィア。歴代の勇者のギフトが封じられたパラディの秘宝。その一つを、余は神託者ジュダスより受け取った」


 勇贈玉ギフトスフィア……!?

 なんだそれ、そんなんあるなんて初耳だぞ。


「我が勇贈玉ギフトスフィアに込められしギフトは【治癒】。理解したか? 余は不死身、ゆえに無敵だ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ