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57 暴君への謁見




 皆さんが出ていって、道具屋さんには私とストラさん、メロさんだけが残りました。

 私はとっても不安です。

 キリエさんが生きて帰ってくる保証はどこにもないのに、全てが終わるまで何もできない。

 この場所でただ、あの人の帰りを待つしかできないなんて。

 心細さで泣かずにすんだのは、いっしょにいてくれた二人のおかげかもしれません。


 しばらくすると、ジョアナさんが戻ってきました。

 お姫様のドレスを着た影武者さんを連れて。


「この娘が本物のベルちゃんよ」


「……っ!」


 びっくりするほどお姫様にそっくりです。

 本人が戻ってきたんじゃないかっておもったくらい、そっくりです。


「え、お姫様って双子とかだったのですか!?」


「んなワケないでしょ。影武者なんだからそっくりじゃなきゃつとまらないって」


 双子、そのワードにはちょっとビクっとしました。

 平常心、平常心です。


「それじゃ、私はお城の方行ってるわ。色々と援護してやんないとね。ベアトちゃんの愛しい人が死なないように」


「……っ!!!」


「あはは、冗談冗談。そんなに怒らないで」


 冗談でも言わないでください、キリエさんが死ぬだなんて!

 ……いけない、平常心です。


「にしても、なんだか意外ねぇ。キリエちゃんはともかく、ベアトちゃんまで認めたがらないなんて……」


 あれ、なんだか怒ってる部分を誤解されてるみたいです。

 誤解されたまま、ジョアナさんは行ってしまいました。


「……あの、私は」


「ベルちゃんでしょ? 話は聞いてるよ。まあ座って」


「……うん、座るね」


 この方、なんだかちっとも笑いません。

 ちっとも笑わないまま、ストラさんに軽く頭を下げて、イスに座りました。

 同じ笑わない人でも、キリエさんとはまた少しちがう感じです。


「あたしはストラ。こっちがメロで、このかわいいのがベアト。よろしくね」


「よろしくです! ……あの、ストラお姉さん。その紹介だと、あたいがかわいくないみたいです……」


「いやいや、メロもかわいいと思うよ? けどベアトには負けるでしょ」


「ハッキリ言ってくれるですっ!! フォローになってないですよ!!」


 二人とも、楽しそうにお話してます。

 自然と笑顔になっちゃいますね。


「……」


 でも、ベルさんは何も言いません。

 私とちがって喋れるのに、なにも。


「ベルちゃん、ホントお姫様とそっくりだね。はじめて会ったのに、初対面な感じしないよ」


「……どうも」


「あ、お茶のむ? やっすいお茶っ葉だけど、おいしく淹れる自信はあるよ」


「おかまいなく……」


 ストラさんが話しかけても、反応は薄いまま。

 もしかしてこの人、きっとずっとペルネ姫を演じ続けて、自分がわからなくなったんじゃないでしょうか。

 ……その気持ち、なんとなくわかります。


「……っ!!」


「え、なに……?」


 ベルさんの前に行って、胸の前で両腕ガッツポーズをつくります。

 せいいっぱいのはげましと応援です。


「……っ!!」


「わ、わかんない……。何、この子……」


 困らせちゃいました。

 キリエさんには全部伝わるからって、誰にでも伝わるわけじゃないですよね……。

 ちょっと恥ずかしいです。


「ベアトお姉さん、ドンマイです。気持ちはきっと伝わったと思いますですよ」


「……っ」


 だと、いいんですけど。

 今もまだ、変な人を見る目をむけられてます。


「ベアトは喋れないんだ。けど、ベルちゃんが元気ないから励まそうとしたの。でしょ?」


「……っ!」


 首を縦に振ります。

 よかった、ストラさんには伝わってたみたいです。


「……別に、私なんかのために気を使わなくていいよ。格好はこんなだけど、中身はただの奴隷だし……」


「はい、ウジウジ禁止! 自分のことそんな風に言わない! それよりさ、楽しい話しよう! たとえば恋バナ!」


「……っ!!!」


 恋バナですか、まかせてください!


「おぉ、ベアトお姉さんやる気満々です」


「ベアトはいいや。わかってるし」


 なんでですか。

 言わせてくださいよ。

 羊皮紙五十枚くらい使いますから。


「そ・れ・よ・り〜、ベルちゃん、ちょっと顔赤くない? なんかあるんじゃない?」


「そんな、恋バナなんて……」


「正直になれ、ほれほれ」


 ストラさん、こういう話題だと生き生きしますね。

 ベルさんも、本当に顔が赤いです。

 あ、いま少しだけ、笑ったように見えました。


 ……でも、こうして不安をまぎらわしても、心に浮かぶのはキリエさんのことばかり。

 お願いです、無事に戻ってきてくださいね。



 ○○○



 ダンスホールを突破した私たち攻撃部隊は、手分けして王宮のあちこちを走りまわって、王子や王女を手当たり次第に捕縛、本陣まで連行していく。

 戦力を持ってるヤツらはダンスホールで一網打尽にしたから、どいつもほとんど無抵抗だ。


「離せ! 離せっ!」


 第十七王女をぐるぐる巻きにして、レジスタンスの人に渡す。


「この、離せと言っておる! わらわを誰と心得おるかっ!! この愚民がっ、ひれ伏せ、無礼なっ!!」


 アレ、十歳だっけ。

 肩にかつがれてメチャクチャ暴れてる、やけに態度のデカイ偉そうな子供。

 しつけが行き届いてないみたいだね。


「この愚民めっ! わらわの養分ふぜいがっ! 離せ、離せぇっ!!」


 ちょっと罵倒のレパートリーに乏しい感じかな。

 頭悪いんだろう、かわいそうに。

 この反乱が終わったあと、アレらはどうなるんだろうか。

 しつけし直すにしても、手遅れ感あるけど。


(やっぱ処刑かな。……ま、どうでもいいや。ゴミの子供がどうなろうと)


 王子王女は今ので最後。

 奥方たちは北の後宮こうきゅうの方にいるけど、そっちにはレジスタンスのメンバーの一部が向かってる。

 むりやり妻にさせられた諸国の関係者も、いっぱいいるからね。


 バルバリオにはギリウスさんの指示で、本陣に向かってもらった。

 建前としては守りの強化、本音はバカすぎて邪魔だから。

 あと、いくらバカでも目の前で父親を惨殺されたらどうなるかわかんないし。

 ……で、肝心のブルトーギュなんだけど。


「……ねえ、ギリウスさん。ここまでにブルトーギュって見つかった?」


「いや、いない。ヤツの自室にも、王子たちの部屋にも、どこにもいなかった」


 ってことは、もしかして。


「……逃げられた?」


「いや、その可能性はない。ヤツが自室にいたことは、反乱前にこちらの手の者が確認済みだ。逃げ道も、俺たちとバルジたちで全て封鎖している。未発見の抜け道があれば別だが、王子や王女が全員いたからな。これも考えにくい」


「でも居住スペースにはいない。じゃあ、いったいどこに——」


 そこまで考えて、私は思い当たった。


「もしかして……」


 王様が——いや、王様気分のクソ野郎が顔をお見せくださる場所。

 理由なんてまったく不合理だけど、プライドの塊だろうアイツならきっとあそこだ。

 場所はだいたい覚えてる。

 その部屋にむけて、私は走りだした。


「お、おい、待て! 一人で先走るな!」


 ギリウスさんが、騎士を呼び集めながら私のあとを追いかけてくる。

 ごめんね、最後まで殺意先行しちゃって。

 けど、いてもたってもいられない。

 だって、やっと殺せるんだよ?

 にっくき仇を、この手で殺せるんだ。


 居住区を抜けて、王宮の中心へと向かう。

 前にも来たことがある、見覚えのある廊下。

 豪華な赤いじゅうたんの上を走って走って、大きくて豪華な両開きの扉の前で止まる。


「……きっと、ここにアイツがいる」


 両手で押し開ける。

 重い音がして、扉が開いた。

 高い天井、両脇の太い柱、玉座へと続く赤いじゅうたん。

 あの日あの時以来に訪れる、謁見の間。


 玉座に向けて、私は一歩ずつ歩みを進める。

 広い広い部屋の中は、大きなシャンデリアが三つ並んで照らされてる。

 一歩、また一歩と、歩みを進めるたび、胸の中に黒い喜びが満ち溢れる。


 今まさに、この謁見の間の玉座に座っているクソ野郎。

 偉そうにふんぞり返って、玉座のわきに大剣突き立ててるゴミを、やっと殺せるんだから。


 玉座の手前、三段くらいの階段の下で足を止め、にらみつける。

 見下ろしてくるソイツと、視線をぶつける。


「よぉ、ブルトーギュ。会いたくて会いたくて、しかたなかったよ」


「頭が高い。面を下げよ、無礼者が」




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