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54 未完の奥義




 ザコたちの方は、イーリアと生き残りメンバーが頑張ったのかな。

 今、最後の一人をイーリアが斬り殺したところだ。


「ねえ、コーダ。これってもう終わりじゃない? 前衛部隊、全滅だよ?」


 さぞ恐怖と絶望でギトギトの表情カオになってんだろうな、と思いきや。


「ひっ、ひひひっ。ここまでやるとは予想外。だがねぇ、次善じぜんの策は用意してあるんだよ」


「……は?」


 ヘラヘラしてやがったよ、このゴミクズ。

 いったい何考えてんだ、こんな状況が想定内だとでも?


「私の顔ばかり見上げてないで、もっと上を見たらどうかな?」


 もっと上……?

 そんなもん、高そうなシャンデリアがぶら下がってるだけじゃ……。


「なん、だこれ……」


 見上げれば、二階部分から伸びる鎖で吊るされたシャンデリア……の、さらに上。

 高い高い天井スレスレの薄暗いところに、一階ホールを丸々押し潰す大きさの岩が浮かんでいた。

 照明の上だから、影が出来ずにわかんなかったのか!


「ゆ、勇者殿、あれはいったい……」


「私に聞くな! わかんない!」


 あんなもの、誰がどうやって……。

 まさか、さっきから魔術師どもが魔法を撃ってこなかったのは、これを作っていたから!?


「ふははっ! 魔術師隊の魔力を結集した、最上位魔法に匹敵する巨岩さ!」


「……こんなもの落として、私が避けられないとでも?」


「そうだね、キミは避けられるだろう。だが、レジスタンスの諸君や、第三騎士団の面々はどうかな?」


 コイツ、みんなを人質に……!


「彼らを見捨てて、キミ一人逃げるのかい? 私は止めないよ」


 ……そう言っとけば私が避けないとでも思ってんのか。

 いざとなったら全員見捨ててでも、お前の頭を破裂させてやる。


「ただし、コイツを突破できるのなら、だけどね」


 コーダが指をパチン、と弾くと、私たちの周りを火炎旋風が取り巻いた。

 ジャンプじゃ飛び越せないほどの高さまで、真っ赤な炎が渦を巻く。

 炎の壁と風の渦の合わせ技。

 炎と風の魔術師たちはコイツを作ってたのか。

 だよね、土魔術師以外が何もせず、ぼんやりしてるワケないよね。


「さあ、炎の嵐に突っ込んでみるといい! 抜けだす頃にはキミは黒コゲだ!」


 くそっ、逃げ道もふさがれた。


「どうすれば……。あんな大岩、今の私でも壊せない……。どうすれば……!」


「……わたしなら、やれます」


 ……え、本気?

 この青臭い女騎士、あんな島みたいな岩を壊せるっての?


「ギリウス殿から授けられた奥義を使えば、十分に破壊できます!」


 本気の本気?

 不安しかないんだけど、任せていいのか?

 私の命もふくめて、コイツに全部任せちゃっても。

 あの乱戦の中で、五人いたレジスタンスの人たちは三人に減っていた。

 騎士さんの方は七人全員が無事。


 これだけの被害ですんだの、イーリアのおかげだったりするのか?

 もしかしてコイツ、ホントに強いのか?

 あの島みたいな大岩も、なんとかできるってのか?


「皆さん、わたしのそばに集まって!」


 やけに自信満々で、生き残りのメンバーをそばに呼び集めてる。


「勇者殿も、お早く!」


「う、うん……」


 まあ、この状況で私に出来ることはないからね。

 半信半疑でも従うしかない。


「ふははっ! 何をしようというのだね? この大岩を砕ける者など、この国広しといえどギリウスと父上くらいのもの!」


「ならば覚えておけっ! ここにもう一人いることを! イーリア・ユリシーズの名を胸に刻め!」


 おぅ、大きく出たな青二才。


「面白い、ならば覚えておいてやろう。その言葉が大言壮語でなければな! 魔術師隊、落とせッ!」


 コーダの指示で、浮かんでた超巨大岩が落下を始めた。

 落ちてくるまで一秒くらい、どうするつもりだ。


「……はぁっ!!」


 イーリアが、全身に練氣レンキをまとった。

 手とか足とか体の一部分じゃなくて、まるごと全部に。

 その練氣レンキが剣にも伝わって、巨大な氣の刃を作り出す。


練氣レンキ豪破削断刃ゴウハサクダンジンっ!!!」


 大上段にかまえた透明な巨刃が、振り下ろされた。


 ズガガガガガガァッ!!


 超巨大な大岩が、ぶっとい光の柱みたいな剣で、まるで削られるように真っ二つにされる。

 高そうなシャンデリアもろともガリガリと。

 振り下ろされた切っ先は、真正面にいたコーダにまで襲いかかった。


「コーダ兄サマっ!!」


 カミルだっけ、あのバカが叫ぶ。

 叫んだだけで別になんにもしてないけど。

 コーダを突き飛ばし、身がわりで光の刃を受けたのは、親衛隊の魔術師兵さんだった。

 あんなヤツのために体を蒸発させるなんて、アイツ意外と人望あるのか?


 ズゥゥゥゥゥゥ……ン!!


 二つに割れた大岩が、私たちを避けてホールの左右に墜落。

 その衝撃で、火炎旋風も消滅した。

 照明が壁と二階廊下のランプやロウソクだけになっちゃって、ちょっと薄暗い。


 ……って、あれ?

 壁ぎわのデカブツ、大岩の片割れに押し潰されたか、これ。


「おぉっ、やるじゃないか、イーリア!」


「すげぇぜ、嬢ちゃん!」


 騎士さんたちが騒いでる。

 正直、私も驚きだ。

 で、もっと驚いてるんだろうな、コーダのヤツは。

 悔し過ぎて死にそうになってるんじゃないか?


「くっ、くくっ……」


 あらら、突き飛ばされて倒れ込んだまま、プルプル震えてる。

 今度こそ勝負あった感じかな。


「少しだけ見直した。あんた結構やるじゃん」


「はっ……、はひ……っ、ぜひゅー……っ」


「……なんで死にかけてんの?」


 イーリア、大の字にぶっ倒れてる。

 さっきの頼もしさはどこいった。


「お、奥義……っ、魂豪身コンゴウシン……っ、ギリウス殿から……っ、教えてもらいました……がっ、まだ、モノにできてはおらず……っ!」


「一度使うとそうなっちゃうってことね」


「はひっ……、その、とおり……っ」


 未完成の奥義だったわけだ。

 イーリアは戦闘不能か。

 でも、もう勝負はついたことだし——。


「くくくっ、かはははっ、はーっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」


 なんだ?

 コーダのヤツ、いきなり立ち上がって笑いだした。

 もしや、ショックすぎて壊れたか?


「見事っ! 見事だよ、イーリア・ユリシーズ! お望み通り覚えてやろう、その名を! 全身の練氣レンキを全開にして身体能力を大幅に上昇させ、普通では使えない大技すら使用可能にする、あのギリウスが奥義と定めた技! まさか使えるとは思いもしなかったっ!」


 いや、違う。

 これは余裕の笑いだ。

 勝負は自分のものだって確信した笑いだ。


「だが一度きりっ! 二度は出せまい? もう一度巨岩を落とせば、もう防ぎきれまいっ!?」


「アンタ、この状況でなに言ってんの? 前衛部隊は全滅、頼みの三騎士も全員死んだんだよ? もう一度なんてさせると思う?」


「全員死んだぁ? さぁて、どうだろうねぇ。ゼキュー、リミッター解除だ」


 コーダが指をパチンと鳴らして、不敵な笑みを浮かべながら命令を下す。

 でもゼキューって、さっき押し潰されたじゃん。

 それにリミッター解除ってなに——。


 ズガアアァァァァァン!!


「な、なに、今のっ!?」


 突然、ゼキューを押し潰した大岩にでっかい穴が開いた。

 まるでトンネルみたいな穴が、一瞬で開通したんだ。

 多分、パンチ一発で掘ったんだと思う。

 どんな力だよって感じだけど。


「フシューッ……」


 で、トンネルの中から出てきたゼキューは完全に無傷。

 なんだアレ、ホントに人間か。


「さあ、ゼキュー。やれ、皆殺しだ」


「ムゥッ!」


 大剣を片手でかついで、うそ、次の瞬間には姿が消えた!?


「ぐぎゃっ!!」


「ひぎゃあぁっ!!」


 振り向くと、生き残りの騎士さんたちが、レジスタンスのメンバーが、すでに斬り殺されたあとだった。

 十人の人間を一瞬で斬り殺す速さ、さっきまでとはまるで別人だ。


「ムゥンッ!!」


 次に私に向かってきて、両手で大剣を振るう。


 ブォォン!


 前とは比べ物にならない剣速。

 後ろに飛んだ私の体スレスレを、大剣の切っ先がかすめた。

 スピードもパワーも大幅に上昇してる。

 コイツ、強い!


「ふはははっ! さあ、魔術師隊! この間に詠唱を! もっとも、完成前にゼキューが全て片付けてしまうかもしれんがね!」


 あの野郎、余裕ブッこきやがって。

 魔術師隊がまた巨岩を作りはじめた。

 もう一回やられたら、今度こそ防げない。

 その前にコイツを殺さないと!


「ムゥ!!」


 二メートル以上ある大剣で、残像が見えるほどの速度の二段斬り。

 いくらなんでも妙だ。

 さっきの大岩穴開けといい、こんなバケモノがずっと実力を隠してたってのか?


「って、考えるのはあとっ!」


 いくら速くても強くても、全身鎧で体に触れなくても、鎧の中は生身のはず。

 革袋から拳大の熱湯弾丸を五個浮かせて、狙いをつける。

 目標はフルフェイス鉄仮面の目のスキマ。

 暗くてよく見えないけど、確実にあの奥には目がある。

 そこに熱湯、ぶつけてやる。


「いけっ!」


 ホーミング状態で、五発同時発射。


「ヌゥッ!」


 素早い剣さばきで三発撃ち落とされたけど、二発がすり抜けてバイザーの奥へ。


「よし、これで……!」


 熱さに悶え苦しんで、致命的なスキを見せるはず。

 その間にヘルムを取って、直接魔力を流し込めば、殺せる!


「……ヌゥ!」


 ……は?

 なんでコイツ、全然効いてない。

 まったくの無反応で、私に斬りかかってきた。


「イーリア! コイツについて知ってること!」


 振り下ろしをかわしながら、倒れてるイーリアを問い詰める。

 その間にも素早い連撃が来て、反撃するヒマすらもらえない。


「ぜ、ゼキューは……っ、農村の出で……っ、はひっ、無口な……っ、感じ……です……はぁっ」


「そんなんどうでもいいから、最近なんか変わった事とかない!?」


「最近……っ、鎧を脱いだとこ……っ、誰も見てないらし……っ、です……っ。食事も……っ、一人で……っ」


「……なるほどね」


 もしかしたら、そういうことか。

 それに、さっきから観察しててわかったことがある。

 コイツの攻撃にはパターンがあるみたいだ。

 二回右上から振り下ろして、そのあと左から一回。

 三連撃が限界で、そのあと少しの間動きが止まる。

 そのスキに、一気に間合いをつめて、


「食らえっ!」


 軽く飛び上がりつつ、ソードブレイカーで鎧と兜のスキマ、首を狙って斬りつけた。


 ……ガギィィィッ!


「……やっぱり」


 はじかれた。

 スキマをぬって狙ったのに、防具で固めてない部分に刃を通したのに、はじかれた。

 予想は出来てたから、胸板を蹴って飛び離れる。


「イーリア、コイツはゼキューじゃない。っていうか人間ですらない。本物はたぶん、もう殺されてる」


「な、なんですって……!?」


「ふははっ! 勇者キリエ、キミは頭が切れるようだ。嫌いではないよ」


 肯定か。

 コイツ、自分の部下をなんだと思ってるんだ。


「タリオ兄様から送られてきたフレジェンタの資料の中に、興味深いものがあってねぇ。魔導機兵ゴーレムっていうんだけどね? かつて勇者の一人が【ギフト】で生み出し使役したとされる、戦闘用の人形さぁ」




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