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53 ダンスホールの戦い




 吹き抜けになった丸いホール、二階部分の廊下に立ってこっちを見下ろすクソ野郎。

 あの顔は忘れもしない、私を罠にハメやがった第二王子コーダだ。

 ……口元、覆面でおおってるけど。

 私の熱湯飛ばして鼻に入れる戦法への対策か、無駄だってのにご苦労なこって。


「私に会いたかった? ふふ、強がりはよしたまえ。今度は都合よく、ギリウスが助けになんて来やしないよ? 彼は今、第一騎士団の精鋭たちの相手で手いっぱいだ」


 あぁ、ペルネ姫のいる本陣への攻撃、コイツの命令だったのか。


「勇者殿……! こ、こんな、どうすれば……!」


「慌てずに、まずは状況確認!」


 二階の吹き抜け廊下の部分、私たちの真正面にコーダ。

 アイツのそばには大中小の騎士三人組もいる。

 で、そいつらを中心に魔術師隊がズラリ。

 一階には敵の騎士たちが五十人くらい、陣形を組んで固まってる。

 二階部分に行くには正面にある大きな階段を使うか、もしくはジャンプだね。


 で、コーダ以外にピカピカした格好の偉そうなヤツが三人。

 その中の一人には見覚えがある。

 私をクソみたいな策でハメようとした、第十バカ王子だ。


「イーリア、あそこのヤツらって全員王子だったりする?」


「え、えぇ。第六王子、第九王子、第十王子です」


 なーるほど。

 合計で百人以上いるかな。

 これはかなりまずいかも。


「コーダも合わせて、その親衛隊全員の戦力を、この場に投入してきたってことか……」


「ご名答。この場所は先へ進むために、必ず通らねばならない場所。いわばこの城の虎口こぐちだ」


「こぐち? なに?」


「その城でもっとも防御の固い場所のことです、勇者殿。戦闘用の城塞になら大体あります」


 へえ、そうなんだ。

 この城は戦闘用じゃないけど、うまいことソイツを作り出したってことか。

 やるじゃん、息子二号。


「そう、この場所こそが守りのかなめ、そして戦力の分散も下策。ゆえにっ! この場に全ての王子の手勢てぜいを集結させてもらったよ!」


「全てって、十一から十三の王子は?」


「まだ親衛隊をもらえていませんから、戦闘には参加できないはずです」


 イーリア、さっきから補足ごくろうさん。

 けどさ、その足の震えは止めようか。


「あんまビビってるとさ、アンタマジに死ぬよ?」


「ビビってません、武者震いですっ!」


 ホントかよ。

 コイツ、実戦経験の方は大丈夫なんだろうか。


「わ、わたしなら入り口をふさいだ岩を壊せます! いったん退いて態勢を——」


「させると思うかい? 前衛隊、かかれっ!」


 さあ来たよ。

 コーダのヤツがうちわみたいの振ったら、三人の騎士が二階から飛び下りて、敵の騎士たちといっしょに突っ込んできた。


 ザコはともかく、三人組は厄介だ。

 それと、二階にいる魔術師たちの横やりも。


「……あんたに背中あずけるのは嫌だけどさ、この際ゼータクは言ってらんないや。死ぬんじゃないよ、私が後ろから斬られるから」


「勇者殿……、もう少し言い方があるでしょうに……。ですが、心得ました」


 お互いに剣を抜いて並び立つ。

 頼りない相方だけど、いないよりはマシか。


「いきます! 練氣レンキ月影脚ゲツエイキャク!」


 イーリアの足が透明のモヤモヤに包まれた。

 リキーノと同じスピードを上げるヤツか、これ。


「勇者殿、わたしと足並みをそろえて——」


「レジスタンスのみんな、自分の安全を最優先に! 私は一気にコーダをしとめる!」


「ちょっとぉ!?」


 イーリアがなんか言ってたけど、構わずダッシュ。

 まずはコーダを殺す。

 司令塔ブッつぶしてやれば統率とれなくなるだろうし、何よりアイツを早くブチ殺したい。

 ザコどものスキマをすり抜けて、向こう側まで飛び出す。

 そのまま、二階のコーダをめがけて一気にジャンプ、


 ズドドドドドドッ!!


「んなっ……!?」


 しようとした瞬間、大量の魔法が降りそそいだ。

 危ない危ない、当たる前に急停止。


 私の目の前の床に着弾する、炎、風、土の魔法。

 相変わらず氷はナシの用心深さ。

 なるほど、その魔術師兵たちは足止めのためにいるのか。

 こいつら使って私の足を止めたところで、


練氣レンキ縛鎖バクサァ!!」


 小柄な騎士のヒモみたいな練氣レンキが、足首に巻き付いた。

 たしか、レブランだったっけか、アイツ。


「ヒッハアァァァァ!!」


 後ろから思いっきり引っ張られて、うつぶせに倒される。

 そこに大柄の、ゼキューとかいったっけ。

 ソイツが練氣レンキまとった大剣を振り下ろしてきた。


「むぅぅぅっ……!!」


「させるかっ!」


 倒れた状態のまま、転がって回避。

 ついでにソードブレイカーで、練氣レンキのヒモをブチっと斬ってやった。


「お見事。さあ、次はこのティルと踊ろうっ! このダンスホールで、命尽きるまでっ!!」


「相変わらず気色悪いっての!!」


 練氣レンキを腕にまとわせて、強化した腕力で斬りかかってくる気色悪い髪型ヘルメット野郎。

 ソードブレイカーの峰で剣を受けようとするけど、軌道をズラされて根元同士のつばぜり合いに。


「勇者キリエ、このコーダを殺したいのなら、まず先に彼らに殺されてくれたまえ。その後であれば、いくら触ってくれてもかまわないよ?」


 クソ野郎、調子に乗りやがって。

 私の相手、この騎士三人か。

 イーリアと生き残ったみんなは、五十人のザコを相手にしてる。

 どっちも多勢に無勢だ。

 ……でも。


「コーダ、あんたさぁ。前もコイツらで押さえこめたからって思ってんだろうけど、なんか忘れてない?」


「私が何を忘れている、と?」


「わかんないならいいよ。そこで偉そうに見下ろしてろ」


 つばぜり合いの隙を狙って、小さいヤツが触手を伸ばしてきた。

 中サイズと剣を弾き合って、後ろに飛んで回避。

 着地を狙ってデカイ奴が、えーっと、ゼキュー?

 そいつが横ぶりに大剣を振った。


「むぅんっ……」


 振りは遅いけど、当たったら一撃。

 あんなんガントレットも鎖かたびらも役に立たない。


 けど、遅い。

 しゃがんでよけて、胴体に後ろ回し蹴りを叩き込む。

 アイツ全身鎧でガッチガチに固めてるから、触っても殺せなさそうなんだよね。

 腹に靴底がヒットして、鈍い音が響き渡った。


 ドゴォォッ!!


「むううぅぅっ!!」


 デカイのがすごい勢いでブッ飛んで、背中から壁に叩きつけられる。

 これでしばらく二対一。

 ……ジョアナやギリウスさんに名前教えてもらったけど、やっぱり覚えきれないな。

 もう大中小でいっか。


「ゼキューの巨体がっ、一撃で吹っ飛ばされただとォ!?」


「これはまた……。ぜひとも喰らいたくないね、あのおみ足は」


 コイツがコーダの誤算。

 あの時、私は不意打ち食らってかなりのダメージを受けてた。

 今は違う、万全だ。

 思いっきり戦える。

 こんな三下どもとは格が違うってとこ見せてやる。


 さて、まず片づけるべきは小サイズ。

 アイツの触手みたいな練氣レンキがもの凄くやっかいだ。


「まずはお前だっ!」


 小サイズにむけて突撃。

 同時に、腰に下げた革の水袋へと手をのばす。

 魔力をチョイとそそいで、中身を沸騰させつつコントロール下に。


「ヒヒっ! こっちに来やがったぜェ!」


「行かせるかっ! 君のダンスパートナーはこのティルだっ!」


 中サイズがなんか言いながら、こっちに向かってきた。

 袋の栓を外して握り拳くらいのお湯を宙に浮かばせ、そいつの顔面に向けて発射。

 このヘルメット頭、なんで魚みたいな顔でナルシストやれてんだろ。


「おっと! その程度の速さで——」


 顔をかたむけて、ヒョイとかわしたつもりなんだろうけどさ。


「はい、あんたもしばらく大人しくしててね」


「あ゛っ!?」


 それ、タリオのつららと同じホーミングなんだよね。

 首筋を通して背中から、鎧の中にブチ込んでやった。


「あづっ! あづぅっ!!」


「ダンスならお前一人で踊ってろ」


 熱湯は私の魔力がある限り、服に染み込みながらも沸騰をやめない。

 両手を背中に回して、魚みたいにピチピチ跳ねまわる中サイズ。

 これでアイツも無力化できた。


「な、なんでコイツっ! あの時は、俺ら三人に手も足も出なかったのにィ!」


「だからさぁ、あん時はケガしてただけだっつーの」


 不意打ち食らわなきゃ、こんなもんだ。

 こいつらのやっかいさ、そのキモは三人の連携だ。

 中サイズが身体能力を強化して足止め、小サイズが触手で援護して動きを封じ、トドメにデカブツが重い一撃を加える。


 三人いるから強いのであって、一人一人の戦闘力は、今の私よりもずっと格下。

 こうして孤立させてやれば——。


「ヒ、ヒヒィっ! 来るなァ!」


 苦しまぎれに剣を振って練氣レンキの触手を伸ばすけど、不意をつかれなきゃ当たんないよ、こんなの。

 軽く左にステップしただけで、簡単によけられる。


「し、しまっ……!」


 そして、伸びきった触手はすぐには戻せない。

 つまりガラ空きだ。


「ヒ、ヒ、ヒイイィィィィィ!!」


 一気に距離をつめて、恐怖におびえる顔面をわしづかみ。

 沸騰の魔力を流しこむ。


「イヤっ、イヤアアァァァ!!」


「弾け飛べ。破砕ブラスト


「やびゃっ」


 小男の頭の中身が沸騰。

 内部から後頭部が破裂、血と脳みそをまき散らして砕け散った。


「レ、レブラァァァンッ!!」


 おっと、熱湯にもなれたのか、蒸発しきっちゃったのか。

 中サイズが復活して、今死んだヤツの名前を叫んでる。


「悲しまなくても、すぐに後を追わせてあげるよ」


「ぐっ……! 勇者キリエェェェッ!!」


 つかんでた顔を離すと、血を噴水みたいに噴き出ながら、死体があおむけに倒れた。

 中サイズ、ティルっつったか。

 腕に練氣レンキをまとわせて、怒りにふるえてる。


「よくも我が友を、許さんっ! 練氣レンキ金剛力コンゴウリキ!」


 やめてよね、まるで私が悪者みたいじゃんか。

 あんなクズに仕えたあんたらが悪いんだからさぁ、大人しく全員私に殺されといてよ。


「仇を、討たせてもらうっ!」


「……あ?」


 今なんつった?

 仇を討つのは私だっつーの。


 斬りかかってくる魚野郎を前に、私はソードブレイカーを両手に持ちかえた。

 峰のギザギザを立てて待ちかまえる。

 その攻撃、真正面から受け止めてやるよ。


「無駄だっ! このティルの金剛力コンゴウリキは腕力を十倍にまで跳ね上げるっ! そのような細い腕では、剣を弾き飛ばされるのが——」


 ガギィィィッ!


「オチ……な……」


「十倍がなんだって?」


 ビクともしないよ、その程度の力じゃ。

 タリオの攻撃の方が、ずっと速いし重かった。

 で、調子にのってギザギザに絡めたね。

 右手で切っ先の方をつかんで、剣をぐるりと一回転。


 パキィッ!


 コイツの騎士剣は、見事真っ二つにへし折れた。


「あぁっ! このティルの剣がっ、魂がっ!」


 ひるんだコイツの腹に、右手のひらを押し当てる。

 軽鎧だからってさ、お腹出してるのはどうかと思うよ、マジで。


「はい、お疲れさま。弾けろ、破砕ブラスト


 パァン!!


「ごぼっ……!」


 お腹の中身を沸騰させて、内臓を大量に破裂させてやった。

 口から大量の血を吐き出して、うつぶせに倒れる。

 血だまりを広げながらしばらく痙攣けいれんしてたけど、すぐに動かなくなった。


「……さて、あのデカブツは、と」


 どうやら、まだ起き上がれないみたいだ。

 あんな重い鎧着てるからだよ。




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