表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/373

48 もう一人の居候




 路地裏を通って、レイドさんの道具屋の裏口までやってきた。

 ここまで誰にも会ってないし、ジョアナによれば後をつけられたりもしていない。

 アイツが言うなら安心だね。

 ギリウスさんが裏口の戸を軽くノックしてしばらく待つと、中からレイドさんの声がした。


「お客さん、ここは裏口ですよ?」


「失礼、東から来たもので」


 なに、このやり取り。

 合言葉みたいなもんかな。

 ガチャリとカギが開く音がして、レイドさんが姿を見せる。


「ようこそ、ギリウスさん。……おっと驚いた。勇者の凱旋だったのかい」


「レイド、バルジはいるか?」


「僕の店から出られないからね、当然いますよ? さ、早く入ってください。誰かに見られないうちに」


 六人もいたら目立っちゃうよね。

 急いで中に入って、お店の居住スペースへと通される。

 それからレイドさんがリーダーを呼びに行って、すぐにリターナー兄妹が登場した。


「おう、キリエちゃん! 作戦は成功したか?」


 あぁ、まず最初にそれ聞くよね、リーダー。

 言いにくいけど言わなきゃ、と思ったら、ギリウスさんに肩を叩かれた。


「俺が伝える。奥さんのことも含めて、全てをな。真実を知って語らずにいた、俺のケジメだ」


 ギリウスさん……、ごめんね、嫌な役目を押し付けちゃった。


「バルジ、話はキリエたちから全て聞いてある。地下でゆっくりと話そう、今後の方針も含めてな」


「あ、あぁ。……どうしたんだ、兄貴。なんか変だぜ?」


 ギリウスさんがリーダーを連れて、地下室に降りていく。

 やっぱりリーダー、様子がおかしいとは感じてるみたいだね。


 で、残ったのはストラ。

 久しぶりに顔を見た気がする。

 なぜかいきなり機嫌悪そうにしてるけど、なんかしたか、私ら。


「キリエ、おかえり」


「うん、ただいま。無事に戻ったよ」


「そりゃ何より。話したいことは山ほどあるけどさ、まずあんたら、臭い!!」


「くさっ……いですか!? あたい!?」


「……っ!!?」


「ひ、姫様に仕える騎士であるわたしが、く、くさい……?」


 いや、あんたは間違いなくクサイよ。

 ゲロ吐いてたし。


「相変わらず辛口だね。たしかに下水道通ってきたから、ちょっとにおうかもだけど」


「うわっ、フケツ!! 今すぐ風呂に入って来なさい! 汚れた服は洗濯しといてあげるから!」


 なんだか口うるさいおばさんみたいだな。

 って言ったら多分ハンマーで殴られそうだから、絶対に言わないでおこう。

 せめてお母さんかな、うん。



 お風呂のお湯は、ふつうは釜に火を入れて、時間をかけて沸かすものだ。

 けど、私の能力があれば簡単。

 三分の一くらい張った水を沸騰させて、あとは冷たい井戸水をどんどん入れる。

 湯船がいっぱいになるころには、ちょうどいい湯加減になってるんだ。

 湯沸かし勇者の本領発揮ってか、チクショウ。


 お風呂の準備がととのって、私たちクサイ認定された女子はお風呂場へ。

 脱いだ服はストラがすごい文句言いながら持ってった。


「くさっ! これホントくさっ!」


 こんな感じで。

 わざわざ鼻近付けて嗅がなくてもいいのに。

 けど、ちゃんと全員分の着がえも用意してくれてる辺り、さすがオカン属性。


 この家のお風呂はそんなに広くないから、ジョアナは後でいいって言って、まだリビングにいる。

 そもそもアイツ、全然臭くなってないし。


 にしても、あんな短い時間でそんなにニオイ移るかな。

 長旅の汚れとかもあるんじゃないだろうか、ゲロ女以外は。


「いい湯です、お姉さん。さすがです」


 お湯につかってとろけた顔で、メロちゃんがほめてくれた。


「それは何より」


 って返したけど、正直なところかなり複雑かなーって。


「……っ、……っ」


 私が頭を洗ってる間、ベアトが背中を流してくれている。

 自分の体、まだ洗ってないのに。

 こんな時まで私のこと優先なんだね。

 お湯を頭からかぶって、頭をふって水を飛ばしてから、ベアトに振り向く。


「もういいよ、背中。あとは自分でやるから」


「……っ」


 なんで残念そうなんだ。

 そういえば、ベアトといっしょにお風呂入るのって初めてだな。

 やせてた体、すっかり肉付きがよくなって何よりだ。

 胸はそんなだけどね、お腹の方も細いけど。


「……」


 じっと見てたら顔を赤くされた。

 でも隠さないんだね。


「ご、ごめん。タオルもらうね」


 なんで私も顔熱いんだろう。

 目をそらしつつあわだちタオルを受け取って、体の前の方を洗っていく。

 ベアトの方も、自分の体を洗い始めたみたい。


「勇者殿、少しよろしいか?」


「よろしくない」


 あぁ、そういえばコイツもいっしょに入ってたのか。

 なんか馴れ馴れしく隣にきたけどさ、お前と裸の付き合いはしたくないからね?


「よろしいでしょう! 体洗ってるだけでしょう!」


 うっさいな。

 お前とは話したくないっつってんだよ。


「はあ……。で、なに?」


「少し態度を柔らかくしてはくれませんか。確かに一度は戦った間柄ですが、今は味方同士なのですから。しっかりと親交を深め、いざという時に連携を取れるようにすべきだとわたしは思うのです」


「……このさいだから、はっきり言わせてもらうね」


 コイツはきっと、ハッキリ言わないとわかんないタイプだ。

 頭も固そうだし、自分が正しいと信じて疑わない、私のホントに嫌いなタイプ。


「私は、あんたが、嫌い。仲良くする気もない。いっしょに戦いたいってんなら勝手にすれば? 私は無視するだけだから」


「な……っ! それはあまりに……」


「てかさ、あんたこんなとこにいていいわけ? 姫様の近衛騎士なんでしょ? お城に一人で置いてきたら、暗殺とかされちゃうかもよ?」


「……問題ありません。確かに姫様はお城ですが、今は反国王派の騎士たちが数人がかりでお守りしています」


 あ、ちょっと機嫌悪くなった。

 自分以外も姫様を守るヤツがいるの、面白くないのかな。


「なら、いいんだけど。あんたの姫様に死なれたら、リーダーたちも困るだろうしさ」


 体を洗い終わって、泡を流してさっさと湯船へ。

 イーリアの隣にはいたくないからね。

 入れかわりでメロちゃんが湯船を出た。


「お姉さん、体キレイですね」


「ベアトがいなかったら、間違いなく傷だらけだろうけどね」


 すれ違いざまに体を見回されて、そんなコメントを残された。

 実際、ベアトの治癒魔法のおかげで、私の体には傷あとが一つもない。

 戦うたび、あんなにボロボロになってるのに、あの子のていねいな治療のおかげだ。


「それに、中々のモノをお持ちです……。初対面の時、男の人だと思ったのに……」


「……ねえ、どこ見てんの」


 そっちの方にはノーコメント。

 お湯につかると、当然のようにベアトが隣にやってきた。

 ホント、この子は私について回るね。



 ○○○



 イーリアとメロちゃんを残して、ベアトといっしょに一足先にお風呂から出たら、リビングに見知らぬ女の子がいた。

 金髪の髪をお団子に結んで、カチューシャをつけた女の子。

 ジョアナと普通に話してて、すっごいなじんでたけどさ、私はちょっとびっくりだよ。


「……ねえ、ジョアナ。その娘は?」


「ベルちゃん。この家に住まわせてもらってるんですって」


「へー」


「はじめまして、ベルです。あなたが勇者様ですね」


 なんだかあいさつされた。

 金髪で、瞳の色は蒼。

 どこにでもいる町娘、みたいな格好してるけど、ここにいるってことは。


「うん、私はキリエ。一応勇者だよ。……ねえジョアナ、この子もアレ?」


「ええ、私たちサイドの人間。だから安心して」


 ナットクは出来ないけど、どうやらこの子もレジスタンス側みたい。

 ベアトとベル、ニコニコしながら握手を交わしてる。


「……キリエちゃん、風呂はすんだか?」


「リーダー……。うん、終わったよ」


 ギリウスさんから、ノアと奥さんのこと聞かされたんだろうな。

 リーダー、悲しそうな顔してる。


「なら早く来い。こっちはお前といっしょに計画立てるって決めてんだ。ジョアナと、あとベルちゃん。あんたもいっしょに来てくれ」


 おっと、どういうことだ?

 ベルもいっしょに呼ばれたぞ。


 ベアトはリビングに残って、私たちは地下の会議室へ。

 ジョアナが臭くないのは不思議だけど、まあ今はどうでもいいか。

 会議に参加するのは、私とリーダー、ギリウスさん、それにレイドさんとジョアナ、最後になぜかベルの六人だ。


「……さて、作戦を立てるわけだが、まずはその前に。こちらのお方からお言葉をたまわろうか」


「はい、僭越せんえつながら」


 こちらのお方とはどなたでしょうか。

 首をひねっていると、ベルが立ち上がってお団子の髪を解いた。

 すごいサラサラの髪、この子改めて見るとすごい美人さんだ。


「まずは自己紹介を。私はペルネ・ペルトラント・デルティラード。この国の第二王女です」


 ……え、ちょっと待って。

 姫様お城にいるんじゃないの……?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ