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45/373

45 数の暴力の前には




 改めて考えると、この状況かなりヤバい。

 ぐるりと周りをかこむ槍兵と、そいつらの後ろに守られた魔術師兵。

 私は右肩と背中を負傷して、殺したいゴミ二匹は包囲の外で兵士たちに守られてる。


「いくら吠えてもいさんでも、ただただ虚しく聞こえるな。ハッキリ言おう、キミはすでに詰んでいる」


 言ってろ。

 私は諦めない。

 いくら絶望的っつっても、あの日の、あの時の絶望に比べたらどうってことない。


「勝手に決めんな。詰んでるかどうかは私が決める」


「諦めてくれれば、余計な犠牲を払わずにすむのだがな。仕方ない、せいぜい無駄な抵抗をするといい」


 無事な左手にソードブレイカーを握って立ち上がる。

 さて、現実的にどう切り抜けるか。

 ジョアナが助けにきてくれるってのは、期待できないね。

 パラディの人間だし、ベアトの安全第一に動くだろうから。


(私一人で、頑張るしかない)


 コーダが右手のうちわっぽいのをかかげると、場の空気が変わった。

 槍兵がいっせいに、穂先を私に向ける。


「かかれ」


 振り下ろすと同時、槍ぶすまの突撃が始まった。

 さすがに全員でってわけにはいかないのかな。

 八人が同時に突っ込んできたけど、この程度で私を殺れると思うなよ。


 息の合った動きで、八方向からの突きが繰り出される。

 息が合いすぎて、タイミングがばっちり読めるよ。

 突きに合わせて飛び上がり、敵の頭上を飛び越えて背後に着地。

 このまま一人、背中から斬り伏せ——。


「っあぐ!」


 られない。

 着地した瞬間、真横から火炎魔法が飛んできて、横っぱらに直撃を喰らった。

 熱い、痛い、服コゲたじゃん、クソっ!


 吹き飛ばされて転がる私に、さらなる追い討ちが加えられる。

 火球が、風の刃が、土の塊が飛んでくる。

 ごていねいに氷魔法は使わせないのな。

 私に武器を与えるってわかってるからか、賢すぎて腹立つ。


「好き放題に、させるかっての!」


 隙間をかいくぐって避けながら、腰に下げた革袋に指先でちょい、と触れた。

 この中には水がたっぷり、パンパンに入ってる。

 中身を沸騰させてからキャップを外して、必要な分だけを宙に浮かべた。

 全部で八つ、それぞれチェリーくらいの大きさのお湯の塊だ。


「いけっ!」


 避けきると同時、八人の槍兵にそれぞれ飛ばす。

 人間八人殺すには、これで十分。

 タリオを倒した奥の手、見せてやる。


「がぼっ!」


「ひがっ!?」


 小さな熱湯の玉を操作して、鼻の中へ、そのさらにさらに奥へと送り込む。

 なるほど、これ疲れるね。

 二十個が限界ってタリオの言葉もナットクだ。


 確か鼻って、脳とつながってるんだよね。

 ケニーじいさんが言ってた。

 上手く脳まで送り込めたかはわかんないけど、八人全員頭をかかえて絶叫しながら悶え苦しんでる。

 攻撃としては成功かな。


「さぁ、次は——」


 スパァァァンっ!!


 風の刃が、水の入った革袋を斬り裂いた。

 中身が全部地面にしみ込んで、最大の武器が失われる。


「油断大敵だよ、勇者くん?」


「くっそ……!」


 熱湯を喰らわせた八人は死んだけど、たった八人。

 まだこれ、五十人くらいはいるよね。


「ザコばっかりのくせに……!」


「ザコとあなどるなかれ。よほど規格外な力の持ち主でもなければ、数の暴力には無力なのだよ」


 あぁ、リーダーもそんなこと言ってたっけ。

 真理なんだろうさ。

 それでも、諦めるわけには——。


「それと、いつ私が、ザコだけ連れてきたなどと言った?」


 包囲の中から、三人の騎士が飛び出した。

 ウソでしょ、どいつも武器に練氣レンキをまとわせてる……!


「紹介しよう。彼らは私直属の三騎士、いずれ劣らぬ精鋭だ」


 インプみたいな顔の小柄な男が、先陣を切って私に斬りかかってきた。

 横っ飛びでよけた瞬間、練氣レンキが剣から触手みたいにのびてきて、私の足に絡みつく。

 そのまま引っ張られて、地面に倒された。


「今だ、ゼキュー! 叩き潰せェ!」


「ぬう……!」


 次に全身鎧兜の大柄なヤツが、練氣レンキをまとった大剣を私めがけて振り下ろす。

 転がって直撃をさけるけど、地面に叩きつけられた衝撃で大きく吹き飛ばされた。

 なんだ、コイツらの連携……!


「足のヤツ、ジャマだっ!!」


 ソードブレイカーで千切り斬る。

 触れるってことは実体がある、つまり物理的な攻撃も効くみたいだ。


「ヒモにかまってるヒマがあるのかな?」


「ぐっ……!」


 吹き飛ばされてる最中だってのに、私の後ろに回り込んだヤツがいる。

 普通の背丈で、ヘルメットみたいな髪型した男。

 腕と足に練氣レンキをまとって、たぶん身体能力を強化してる。

 だからこんなに速く動け——。


 ガギィィィィッ!


 なんとか反応できた。

 振り向きながら、ソードブレイカーの峰で斬撃を受け止める。

 けど、その反動でまた逆方向に弾き飛ばされて。

 着地すると同時、コーダの合図で魔法の集中砲火が浴びせられた。


「休むヒマすら……っ」


「与えるワケがないだろう」


 まずい、まずい、まずい。

 小さいヤツとデカイヤツと中くらいのヤツ。

 三人の練氣レンキ使いの騎士に、大量のザコが私を囲んで、コーダの采配も完璧だ。

 あの、なんだっけ名前、第十王子とは全然違う。


 魔法を避けて、避けて、避けきれずに体中が傷だらけ。

 痛い、疲れた、もうダメかも。

 ……ダメ、諦めるな!

 諦めたら終わっちゃう。

 こんなところで、終わってたまるか!


「まだ折れない、か。いいだろう。レブラン、ゼキュー、ティル。トドメを」


 コーダの命令で、まず中サイズのヤツが突っ込んでくる。

 速い、いつもの私ならともかく、今のボロボロな私じゃ……!


 ガギィィッ!


 初撃、なんとか止められた。

 けど……っ!


「さあ、終わりだよ勇者! このティルと、人生最後のダンスを踊ろう!」


「お前も気色悪い系か……!」


 次々と振るわれる斬撃に、防戦一方。

 その場から一歩も動けないまま、刀身で受け続けるしかない。


「ヒヒっ、隙だらけェ!」


 だから、簡単に足に練氣レンキのロープを巻き付けられた。

 背後に回った、小柄なヤツのしわざだ。


「ナイス、レブラン。さあ、最期の時だ」


 つばぜり合いの最中、練氣レンキで強化された膝蹴りを腹にまともに喰らった。


「かはっ……!」


 お腹の中身が全部外に飛び出していくような感覚がして、実際口から血をたくさん吐き出した。

 死ぬほど痛い。

 痛すぎて気を失えないレベルで痛い。

 その攻撃で私の体は上空へとすっ飛ばされて、足のロープがピンと張る。


「ゼキュー、トドメはくれてやるぜェ!」


 小男が剣をふって、私の体が引っ張られる。

 大男の上にめがけて落とされる。


「ぬぅ……ん」


 デカブツが大剣に練氣レンキをまとって、切断力を上げた。

 まだだ、諦めない。

 ソードブレイカーで紐を斬って——クソっ、斬れない。

 さっきより丈夫になってるのか、ダメージを食らいすぎたのか。


 こうなったら一か八か、あのデカブツの攻撃を受け止めてやる。

 体が切断される可能性の方が高いけど、それしかない。

 落ちていく私の体。

 大男が剣を振るって、私は防御の構えを取って。


 ブチっ!


「え——?」


 これ、私の体が千切れた音じゃない。

 練氣レンキのヒモが斬られて、私はあさっての方向にすっ飛んでいく。

 斬られたって、誰に?


「あの人は……」


 斬ったのは、白銀の鎧を身に着けた、大柄のゴツイ騎士さん。

 かなりの高さがあるのに軽々飛んで、身長くらいある大剣を軽々振って。

 重さを感じさせないほど、軽やかに着地した。


「ギリウス……さん?」


 体勢を整えて、私も着地。


「間に合った、ようだな……」


 間違いない、ギリウスさんだ。

 私の方を見て表情をゆるめた後、すぐにコーダたちに向き直る。


「ギリウス……! 貴様、どうしてここが……」


「さあ? そこのバカ——失礼。カミル様にでもお聞きください」




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