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後日談その2 正直な気持ちを



「ふんふん、なるほどねー。ベアトがみんなと楽しそうなのが気に入らない、と」


「そ、そうは言ってないじゃん……」


「言ってる言ってる。要するにあんた、ベアトも自分と同じで二人っきりの方がよかったって思っててほしいんでしょ?」


「う……。そ、そうだけど……」


「ほらね。子どもかっ」


 ハッキリ言うなぁ。

 だんだんみじめになってきたぞ。


「……アンタたち二人のことさ。あたし、最初から見てたんだよね」


「確かにね。一番付き合い古いよね」


「だから知ってるんだけどさ。アンタら二人、ケンカしたことないでしょ。いつもビックリするくらいお互いのこと大切にして、好き好き光線飛ばしまくってる」


「……いいことじゃない?」


 これまではもちろん、これからもベアトとのあいだにケンカなんて起きる気がしない。

 それってとってもいいことじゃん。

 ケンカ別れとか離婚とか、そんなモノとは無縁なワケだし。


「いいことだけどさ。それって逆に言えば、お互いに言いたいことをぶつけ合えてないってことじゃない?」


 んん、どうなんだろうか。

 ベアトに対して不満に思ったことなんて無いし、今感じてるのは子どもじみた軽い嫉妬だし……。


「納得いってなさそうな顔してんね。まぁなにもケンカしろとまでは言ってない。たださ、ため込まずにハッキリぶつけるのも大切だよ」


「経験則?」


「そ。ペルネとあたし、そんなカンジの馴れ初めだったからねー」


 そういえば聞いたことあるな。

 王都が襲われてリーダーが死んだと思われてたときに、ペルネ女王とケンカっぽいことしたのが始まりだったって。


「アレがあったから今のあたしたちがあるんだ。そう思うと感慨深いねー、うんうん」


「本当に」


 と、ペルネ女王がストラのとなりに優雅に腰を下ろす。

 やっぱり生まれながらのお姫様って、仕草からして違うな、なんてストラに失礼なことを考えてしまった。


「あの頃はまさか、私とストラさんがこのような間柄になるだなんて考えも致しませんでした」


「お、ペルネ。みんなと遊んでなくていいの?」


「ちょっと休憩、ですっ」


 口元に手を当てて優雅に笑う女王様。

 やっぱり生まれながらのお姫様って――いや、もうしつこいか。


 波打ち際で遊ぶベアトやメロちゃん、リフちゃんたちを微笑ましそうに眺めながら。

 海風になびく金髪を軽くおさえながら、ペルネ女王はどこか遠くを見るように話し始める。


「本音を伝え合うには、勇気が必要です。とても、とてもたくさん必要です。一国の姫という立場だったから、でしょうか。私も本音をさらけ出すのが苦手でした。もしも私が、本音を話せていたら。お父――いえ、『あの男』や、血を分けた肉親たちと腹を割って話せていたなら、なにか変わっていたのでしょうか……」


 ペルネ女王、この人は強い人だ。

 けどやっぱり、私はブルトーギュなんてクズホントに死んでも仕方ないし地獄に落ちるべきだし茹で殺してやったことになんにも後悔なんてないけど、娘であるこの人には思うところがないわけじゃないみたい。


 それと、自分の行動で結果的に死に追いやってしまったたくさんの兄弟、姉妹。

 こっちに関してはタルトゥスのヤツが全部悪いわけで、気にする必要なんてない、と私は思うよ。


 ペルネ女王はそう思ってないらしいけど。

 そんな彼女の横顔をじっと見たあと、ストラは不意に口元をゆるめてペルネ女王のほっぺをぷにっとつっついた。


「ふにゅっ!?」


「ほら、楽しい海水浴なんだから、もっと楽しそうな顔して!」


「ストラさん……」


「本音をさらけ出すなんてこと、得意な人なんかいないって。あたしだってまだなにか隠してるかもよ?」


「あら、隠してらっしゃるのですか?」


「えへへっ、どうだろうねー。隠してるのか隠してないのか、隠してるとしたら何なのか。ペルネにわかる~?」


「もうっ、わけがわかりませんっ」


 ぷにっ、とストラのほっぺをつっつき返す女王様。

 この仕草はべつに優雅だったりしないね、普通の女の子だ。


「……ありがとうございます、ストラさん」


「いやいや。笑ってるペルネの顔が見たかったからやっただけだし」


「ふふっ、そうなのですか?」


「そうなんです。これ本音ね。笑ってる顔かわいいよ?」


「あ、う、ぅぅぅ……」


「照れてる顔もかわいい」


「いぢわるですぅ……」


 ……はい、もう見てられなくなりました。

 はげましてくれた二人のジャマにならないように、心の中でこっそりお礼をしつつ静かにその場をあとにする。

 あとは女王様お二人で仲良くやっといて……。


「キリエ、どこ行くッスか?」


「あれ、クイナ。ベアトたちといっしょじゃなかった?」


「休憩ッス」


 それ、さっき別の人から聞いたような。


「本音、言うんじゃないッスか? 二人にまだありがとう、って伝えてないッスよ?」


「……聞いてたんだ。べつに、二人のジャマ、したくなかっただけだし」


「面倒なお人ッスね~」


 悪かったね、素直じゃない上に不愛想が抜け切れてなくって。

 一度定着した性格なんて、なかなか変わんないモンだし。


「ま、本音を言うのが怖いってのはジブン――よく分かるよ」


 スっ、とクイナがメガネを取った。

 この雰囲気……。

 しばらくぶりのセリアモード、かな。


アタシ(・・・)の本音、とっても情けなかったからね。キリエに弱いとこ、ぜんぶぜんぶ晒しちゃった」


「……後悔してる?」


「まさか。だってあの後、キリエとまた友達に戻れて、すっごくスッキリした気持ちだったもん」


 二っ、と笑うクイナにつられて、私の口元もゆるむのがわかった。

 クイナは手にしたメガネをもどして、元のゆるい感じに戻る。


「だからきっと、キリエも後悔しないッス。せっかくの新婚旅行なんスから、ベアトさんともっと仲良くなっちゃってください!」



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