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368 夫婦仲は良好なようで




「……あの、ギリウスさん?」


「ずびっ……、あ、あぁ、キリエにベアトか……。久しぶりだな、見苦しいところを見せた」


「いや、いいんだけど」


 たった一人の妹だし、生まれた時から知ってるんだもんな。

 お父さんみたいな気持ちで見てるのかも。


「スティージュの人たち、そりゃ呼ばれてきてるよね。もちろんリーダーたちも?」


「あぁ、来てるぞ。ほら、ちょうど――」


「兄貴、まだ泣いてんのか? ……っと、キリエちゃんにベアトちゃんか。久しぶりだな」


 ウワサをすればなんとやら。

 お酒の入ったグラスを片手にリーダーがやってきた。

 その後ろにはケルファ。

 リフちゃんと同じくらい背が伸びて、髪も肩まで伸ばしてる。


「にしてもアニキよぉ。結婚知らされた時に泣いて、スティージュ出る時も泣いて、お披露目パーティーでも泣いて、か。本番の結婚式にゃ干からびるんじゃねぇの?」


「泣いてはいないだろう、今は」


「ついさっきまで滝だったろうが」


 兄弟らしく軽口をたたき合う二人。

 長年を共にした信頼が、表情からも見て取れる。

 ……そう、ギリウスさんやストラといっしょに過ごした長い時間を、記憶をリーダーは取り戻したんだ。

 ラマンさんががんばってくれたおかげで。

 そのラマンさんは……あ、むこうでレイドさんと魚料理食べてる。


「兄さん、その辺にしときなよ。大兄さんが困ってんじゃん」


 記憶を取り戻したあとも、リーダーのケルファに対する態度は少しも変わらない。

 ケルファの方もこの通り、三兄妹にすっかりなじんでる。

 ギリウスさんのことを大兄さん、ストラのことを姉さんなんて呼んじゃって。

 でもやっぱり、三人の中ではリーダーが一番特別みたい。


「まったく。姉さんに声掛けにいくんでしょ? キリエたち、そういうことだからボクらは行くね」


「お、おう、じゃあまたな。おいケルファ、押すなって」


「うん。またね」


「ケルファちゃん、あとでたくさんお話しましょう!」


「……考えとく」


 ケルファがリーダーを押して、ギリウスさんたちはストラの方へ。

 さて、私たちはどうしようかな……。


「ずび、ずず……っ。姫様……っ」


「……ん?」


 またもや鼻をすする音が……。

 今度は誰が滝になってんだ?


「姫様が……、あの姫様が……っ。お側仕えとして、近衛の騎士として、わたしは、わたしはぁ……っ!」


 あ、イーリアだ。

 王国最強の騎士団長サマが、ペルネ女王を遠巻きに眺めながら涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってる……。


「アンタ、奥さんいるのにまだ姫様好きなままなの?」


「ぐず……っ? ……こ、これは勇者殿、お見苦しいところをお見せしました」


 ハンカチで顔をパッパッと拭いて、すました顔を作ってみせるけどさ。

 さっきまで涙と鼻水垂れ流しだったからな?


「……して勇者殿、なにか勘違いをなされているようですが、姫様への恋慕の情はとうに捨てました。この涙は純粋に臣下としての喜びからくるもので――」


「本当かしら……?」


 そして登場する騎士団長夫人。

 今やペルネ女王の右腕と称される政務のスペシャリスト、ベル。

 女王とうり二つな顔はそのままだけど、女王とおそろいだった長い髪は肩までバッサリ切っている。

 影武者はもうやめだ、そういう意思表示なのだそう。


「女王陛下を見つめるあなたの目、畏敬の念以外のものも感じたけれど?」


「ご、誤解ですベル殿! たしかにわたしはかつて、姫様をお慕いしてはいましたが、それはもう過去のものっ! わたしはただ一人、ベル殿だけを愛しております!」


「……必死すぎ。冗談よ」


「じょ、冗談、でしたかぁ……」


 ……冗談じゃなかったと思うよ?

 ベルの目、わりと怖かったし。

 アンタのカウンターが刺さって、顔を真っ赤にしちゃったけど。


「ふふっ。お二人とも、本当に仲良しさんですねっ」


「えぇ、そうよ。王国一の夫婦仲だから。陛下たちにも負けないわ」


 それでも堂々と言ってのけ、イーリアの腕をぎゅっ、と抱き寄せる。

 たしかに夫婦仲よさそうだよね。

 ちょっとイーリアが尻に敷かれてる感じするけども。



 このあと、二人の女王のスピーチが行われて、パーティーは一応のひと段落となった。

 それでもまだまだ会場には多くの人が残ってて、料理もデザートもどんどん運ばれてくる。

 まだまだ宴は終わらなさそうだ。


「お、いたいた! キリエにベアトも、楽しんでる?」


「……あ、ストラ。ペルネ女王も」


「お二人とも、ごきげんよう」


 やってきた今回の主役二人に、ベアトが優雅におじぎする。

 このあたり、さすがパラディのお姫様ってカンジ。


「おかげさまで、とっても楽しんでますっ!」


「ふふっ、それは何よりです」


 そのベアトに笑顔で応対するペルネ女王もさすがの風格。

 なんか二人の間の空間だけ、すっごいほわほわしてるというか……。


「……キリエ、あれは本物のお姫様たちにしか出せないオーラだよ」


「ストラだって本物の女王様じゃ――」


「所詮は養殖、たたき上げ。一皮むけば一般庶民よ……」


 言ってて悲しくならないのか、この女王。


「あの、ペルネさんっ。ひとつお聞きしてもいいですか?」


「はい、なんでもどうぞ」


「どちらから、プロポーズなされたんですかっ?」


「プロポーズ、ですか……。じつはストラさんから――」


「ちょ、ちょっとペルネ、待って!」


 正直に答えようとしたペルネの口を、ストラが必死に手でふさぐ。

 今さら遅いけどね。

 そうか、ストラからか……。


「むー、ひどいじゃないですか、ストラさん。お化粧が乱れてしまいます……」


「仕方ないじゃん、恥ずかしげもなく恥ずかしいこと言おうとするんだもん!」


「だからって手で塞がなくても……。どうせなら、唇で塞いでほしかったです」


「こ、こんなとこでできるかぁ!」


 あはは、ストラってば顔真っ赤。


「ふふっ、お二人も仲良しさんですね」


「あははっ、そうだね。いい夫婦になりそう」


「もう、キリエたちまで冷やかすな!」


 顔を真っ赤にしたまま両手を振り上げるストラ。

 うん、たしかに天然のお姫様ならこんなんしないだろうね。

 ベアトとペルネと三人して笑ってたら、


「そういうアンタらはどうなのさ……。あたしてっきり、アンタたちが真っ先に結婚するもんだと思ってたのに」


 飛んだ爆弾発言でカウンターを喰らうハメになろうとは、思いもしなかった。




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