367 城からの招待状
どこだって最初は田舎、そこに人が集まって街になる。
王都ディーテがある場所も、エンピレオが降ってくる前はただの原っぱ。
クイナがセリアとして生きていた頃は、何もない荒れ放題の土地だった。
二年前に復興したリボの村は、今やリボの街と呼ばれてる。
山奥のド田舎に人が集まった理由だけど、主に私やクイナ、トーカの存在だ。
勇者とその仲間たちが住んでいる村なら、万に一つも盗賊や魔物に襲われないだろうということで人が集まり、移り住んだ人たちを相手に商売する人が集まり……って感じですっかり発展しちゃったんだよね。
王都から馬車で数時間っていう交通の良さもプラスに働いたみたい。
で、私はそんなリボの街の小さな家で、ベアトといっしょに今日も平和に暮らしている。
最近は魔物も少なくなってきて、大変なことなんてなにも――。
「キリエさん、大変、大変ですっ!」
……大変なこと、起きたみたい。
ベアトが紙切れを持ってあわてて走ってきた。
「えっと、どうしたの……?」
「大ニュースですっ! ストラさんとペルネさんの婚約が発表されて……!」
「え? それはホントに大変だ……」
「ですよねっ。あ、これは招待状です。婚約披露パーティーの。手紙といっしょに入ってました」
ベアトは両腕をぱたぱたさせながら、せわしなくしゃべってくれる。
きちんと話せるようになってから、この子は本当によくしゃべる。
まるで今まで話せなかったぶんを取り返すみたいに。
二年たって少し背が伸びて、胸も少し大きくなって、ほんの少しだけ大人びたベアト。
でも、一生懸命話してくれてるときは小さな子どもみたいで、本当にかわいい。
「あぁ、そこに書いてあったんだ。私たちに届いたってことは――」
「トーカさんたちやクイナさんたちのところにも届いてるかもですね」
「だね。行ってみようか」
あの時のままの木造の家を出て、石畳の道へ踏み出す。
山の斜面を開いて拡張されたリボの街は坂が多い。
街の中心には大きな教会、街外れにはあの事件で殺された村のみんなを弔うための霊園が広がってる。
もちろん、母さんやクレアのお墓もそこにあって、毎日お祈りを捧げにいってるんだ。
私たちの家の周りはほとんど旧リボの村そのままで、変わったのは石畳で舗装されてるくらい。
トーカとメロちゃんの家も、クイナとリフちゃんが住んでる家も、我が家を出たらすぐ見える。
現にほら、トーカの家の前で集まって話してる四人が見えた。
「みなさーん!!」
手をブンブン振りながら駆け寄っていくベアト。
みんなもすぐに私たちに気がつく。
「おっす、ベアト。今日も元気だな」
「キリエお姉さん、元気すぎて困ってないですか?」
「困ってはいないかな。むしろかわいいし。それにベアトが元気ない方が心配だよ」
「おぉ、そこまで言い切るとはさすがですね。伊達にラブラブしてないのです」
二年たってトーカの身長を追い越したメロちゃん。
最近はトーカのお姉さんと間違われるくらいだ。
中身の方はまったく変わらずおませさんのままだけども。
「あ、あぅ……、らぶらぶ……」
「そこ今さら照れるんスか? ベアトさん、いつまでも初々しいままッスねー」
「うん、ベアトおねえちゃんかわいい!」
クイナの冷やかしに乗っかるリフちゃんは、二年前のメロちゃんくらいに背が伸びた。
つまりはトーカと同じくらい。
近頃はこの子が泣いてるところをとんと見ない。
クイナといっしょにこの村で暮らして、この子の心も癒されたのかな。
さて、顔を赤くして固まっちゃったベアトの代わりに話を進めよう。
見たところ、クイナもトーカもベアトが持ってる紙切れと同じものを持ってるけど……。
「クイナたち、集まってたのってもしかして、ストラとペルネ女王のこと?」
「そうなんスよ。さっき招待状が届いて……」
「もう目は通したか? 今日の夕方にも迎えの馬車が来るみたいだぞ」
「えらく急だね……」
まぁ、誕生日パーティーの準備中にいきなり勇者に選ばれたから城に来いって言われた時よりはずっとマシか。
あの二人の婚約パーティーってことは、普段会えないみんなにも会えるだろうし。
ちょっと楽しみだな……。
〇〇〇
みんなで迎えの馬車に乗って、王城まで連れてこられて翌日のお昼。
王城のダンスホールで、盛大なパーティーが始まった。
デルティラードとスティージュ。
二つの国の王同士の婚姻なんてほとんど前例はないけれど、どうにか実現にこぎつけられたみたい。
後継ぎの問題は、教団が公表した女性同士で子どもを作る技術で簡単に解決。
それでも一緒に住めないっていう問題は残ってて、両国での相談の末、半年に一度、一か月の間だけ、どちらかの国で一緒に過ごせることにしたんだって。
政略結婚だっていう声もコソコソと上がってるけど、あの二人の幸せそうな顔を見たらすぐにわかるよ。
誰がどうみても、愛し合った末の恋愛結婚だってさ。
「ベアト。あの二人、いい笑顔だね」
「ですね……、うらやましいです」
貴族のお偉いさんたちにかこまれながら、笑顔で寄りそい合うストラたち。
飲み物を片手に、遠巻きにそれをながめていると……。
「ずびっ、ず……っ」
「……な、なんの音?」
何かをすするような音が聞こえてきた。
恐るおそる視線をそっちにむけてみる。
そしたら、そこにいたのは……。
「ずび……っ、えぐ……っ、あんなに小さかったストラが……っ」
腕を組んで直立しながら、滝のように涙を流すゴツい騎士さんだった。




