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361 バルジの決意・ストラの迷い




 俺やギリウスさんたちが死力を尽くし、相棒が命を落としたあの戦いからはや一月とちょっと。

 各国の支援団が王都に到着し、急ピッチで復興が進む中、あの日犠牲になった人たちの慰霊式典が行われた。

 避難民も戻ってきて、ちょうどいいタイミングだったんだろうな。


 女王様が顔を出して、犠牲者の名前を一人一人読み上げていく。

 その中にはもちろん、俺の相棒ディバイ・フレングの名前もあった。


 式典が終わり、人の姿もまばらとなった王都郊外の墓地。

 雨が降りしきる中、ディバイの墓に花を供えた俺は、かたわらに立つギリウスさんの顔を見上げる。


「……なぁ、ギリウスさん。俺の記憶、結局戻らねぇままなんだけどよ。これで……、いいのかねぇ」


「副作用の解除方法は聞いただろう、見ただろう。死に瀕しなければお前の記憶は戻らない。……ストラも、そこまでして記憶を戻してほしいとは思わぬさ」


 確かにな、死に際だけ記憶が戻ってもなんの意味もねぇ。

 まったくよぉ、カミサマもクソったれな解除方法を定めたモンだぜ。


「……それに、記憶が戻ることが良いことばかりとも限らんさ」


「と、言うと?」


「忘れていた方がいいものもある。たとえば己が身を焦がすような無力感、復讐心――とかな」


「……キリエちゃんから話だけは聞いてるぜ。暴君ブルトーギュ。かつて俺たちはヤツに全てを奪われた」


「あぁ……」


「だがよ、ダメだ。やっぱり実感が湧かねぇ。どうにもピンとこねぇんだ。両親やブルトーギュとやらの顔すらも、これっぽっちも頭に浮かばねぇんだから」


 結局のところ、バルジ・リターナーという男の半生は話に聞いた物語でしかねぇ。

 ギリウスさんやストラちゃんのことも、肉親だって頭では理解しちゃいるんだが……。


「今の俺にとっては、ディバイ(相棒)や仲間たちと過ごした日々が全てなんだよ。ソイツがどうにも歯がゆくてな……」


「……記憶を取り戻したい、と?」


「死ぬようなムチャするつもりはねぇけどな」


「具体的にはどうするつもりだ。旅にでも出るつもりか」


「まさか。俺がまたいなくなったらよ、かわいい妹にまた心配かけちまうじゃねぇか」


 記憶がなくてもわかってる。

 ストラちゃんが俺の妹で、俺が死んだと聞いてどれほど悲しんだか、知識として知っている。


「それによ、もうひとりの『きょうだい』も一人にゃできねぇしな。だから仲間に頼ることにした。こんな無理難題、うなずいてくれるかはわかんねぇけどよ……」


「なーに水臭いこと言ってんだよ、バルジ」


 べちゃっ。


 肩に置かれた、水かきのついた大きな手。

 つーかびしょびしょじゃねぇか。


「……ラマン、お前傘もさしてねぇのか?」


「おっと、ごめんよ。魚人は傘をささねぇ文化なんだ」


 バツが悪そうに笑いながら、ラマンは俺のとなりに――ディバイの墓の前にかがんだ。


「……ディバイのヤツ、死んじまうなんてな。おいら、まだ実感が湧かねぇや」


「そういうモンさ。気持ちの整理は追々つけていきゃぁいい。……で、さっきの話だがよ。どこまで聞いてたんだ?」


「最初から、さ」


「なるほどね、だったら話が早えぇや。『三夜越え』の副作用を消す薬、作れるか?」


「副作用の出ない本来の『三夜越え』の製薬方法を応用すりゃ、なんとか作れると思うぜ。ま、何年かかるかわかったモンじゃないけど」


「それでいいさ。やってくれるだけで十分だ」


 超一流の薬師が三年に一度しか作れないという魚人族に伝わる秘薬、真の『三夜越え』。

 ソイツの応用版のオリジナル秘薬ともなりゃ、俺には想像もできねぇほどの大仕事だ。

 ヘタすりゃ薬師生命にもかかわるムチャ、断られても仕方ねぇと思っていたが……。


「ありがとな、ラマン」


「だから水臭せぇっての。おいらたち、仲間だろ?」


「……そうだな、仲間だもんな」



 △▽△



「はぁぁぁぁ~~~……」


 キレイに直ったお城の客室の、ベッドの上に寝転びながら、あたしことストラは盛大なため息をこぼす。


「うぅ、どうしよう……」


 スティージュの支援団が到着して、いっしょにやってきたレイドさんが開口一番に告げた言葉。

 要約すると、「本国も大変なので、早く帰ってきてほしい」。


 あたしだってわかってるよ、エンピレオの起こした色々で世界中が不安におおわれてる。

 スティージュももちろん例外じゃなくって、女王様であるあたしが国を空けてたら、不安はさらに広がっちゃう。

 もちろんさっさと帰るつもりだよ。


「でも……、でも、帰る前に……」


 帰ったら、ペルネとはまた離れ離れ。

 お互いの立場上、またいつ会えるかわからない。

 もちろん公務とプライベートをごっちゃにしたりしないけど、だったらどうしてこんなにモヤモヤするのか。

 答えは一つ、このあいだキリエにベアトとの仲を見せつけられた上に、おかしなことを言われたからだ。


「うぅぅぇあぁぁぁ~……、ペルネぇぇぇ……」


 あれ以来、頭の中に浮かぶのはペルネの笑顔とか、唇とか、そ、想像上の裸とか……。

 おかしなこととは言ったけど、あたし自身ペルネのことは好きだ。

 どういう好きかと言われれば、そういう意味での好きだ。

 でも、あたしとペルネはお互いに女王様。

 一国を治める王なわけで……。


「……んんぅぬぬぬぬぬぬっ! あーっもう、うだうだ考えるなんてらしくない! とりあえずペルネに会いに行って、あとはそれから!!」


 そうだ、らしくない、行動あるのみ!

 奮起してベッドから飛び上がると、あたしはペルネの私室を目指してドアを開け……。


「これはこれは、ストラ陛下。ご機嫌麗しゅう……」


「あの……、どうしたんですか? そんなに勢いよく飛び出してきて……」


 直後、赤い髪の女騎士と、ペルネにそっくりな女の子の二人連れに出くわした。


「あー、その……、あはは……」


 うやうやしくひざまずくイーリアさんと、おかしなものを見たような表情のベルちゃん。

 自分の奇行を笑ってごまかしつつ、頭の中はどうしよう、でいっぱいだ。

 だってさ、うだうだ考えないようにしたいのに。

 こんなラブラブなカップルに遭遇しちゃったら、嫌でもいろいろ考えちゃうじゃんかぁ……。




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