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358/373

358 家族に




 ベアトと晴れて恋人同士になったその日の夜。

 二人っきりで部屋でまったりしてたら、ドアがこんこんノックされた。


「お二人ともー、お客さんですよー」


 メロちゃんの声が聞こえて、返事を待たずに開けられる。

 いや、べつに変なことしてたわけじゃないからいいけどね。


「……っ?」


「お客さん? こんな時間に?」


 ずけずけ遠慮なく入ってくるメロちゃんはおいといて、もう月が夜空に輝くそれなりの時間。

 来客が来るには少し遅いような。


「……って、お二人とも、なんだかべったりくっついてますね」


 いや、とつぜん話変わったね。

 刺すようなジト目が私たちに注がれる。

 ただベッドの上に二人並んで座って、手を重ね合って寄りそってただけだと思うんだけど。


「別に普通でしょ。それよりお客さん待たせちゃ悪いよね。行こ、ベアト」


「……っ!」


 お客が誰にせよ、わざわざこんな時間に来てくれたんだ。

 何か大事な用事かもしれない。

 ベアトの手を引いて立ち上がると、とりあえずリビングにむかうことにした。


「……怪しいですね」


 つないだ手に注がれるメロちゃんの熱視線。

 いや、このくらいのスキンシップなら、いつもベアトがしてるじゃん。


「キリエお姉さんから手をつなぐなんて……、怪しいです……」


 おっと、そういうことか。

 ……いや、別に隠すつもりもないんだけどさ。

 まぁひとまず、今はお客さん待たせちゃ悪いし、ね?




 一階のリビングに降りていくと、すぐに来客の顔が見えた。

 その人たちを見たとたん、ベアトが嬉しそうな表情に変わる。


「ベアト、キリエさん、こんばんは。ごめんなさいね、こんな時間に……」


「いいんじゃない? 別に。どうせヒマでしょ」


 お客さんの正体は、ベルナさんとリーチェ。

 二人は貴族街の方のお屋敷にお世話になってたはず。

 どうしたんだろ、こんな時間に。


「……っ! ……ぁ、ぇ、と……っ」


 二人に駆け寄ろうとして、ベアトは私とつないだ手に視線を落とした。

 それから、どうしようってカンジの困り顔で手と私の顔を見比べる。


「いいよ、私は。行っておいで」


 別にこの子のかせになりたいわけじゃない。

 パッと手を離すと、ベアトはコクリとうなずいてからベルナさんの胸に飛び込んだ。



 ベアトのすりすりが終わったところで、私たちはテーブルを囲んで腰を下ろす。

 メロちゃんは私たちに気をつかったのか、まだ街で作業中のトーカが気になるのか、出かけていってしまった。


『おかあさんたち、どうしてとつぜんに?』


 まずはベアトが素直な疑問をぶつける。

 たしかにわざわざ、こんな時間じゃなくてもいいのにね。


「じつはね、今夜にでもグリナの【月光】でピレアポリスに戻ることにしたの。大司教と聖女が長い間不在では、色々と不都合がでてしまうでしょう?」


 なるほど、そりゃすぐにでも帰らないとダメか。

 【月光】は月の出る晩にしか使えない。

 帰る前にベアトの顔を見に来たってわけだね。


「今の教団、とてつもない火種を抱えた爆弾みたいなものだしね。何せ、信仰しているカミサマ(エンピレオ)たおされたんだから」


「元はエンピレオ打倒を目的として設立された教団ですが、長い年月の中で歪み、エンピレオ信仰が定着してしまっているのもまた現実」


「とはいえ、王都を壊滅させた怪物はエンピレオだったってウワサも立っちゃってるのよね……」


「問題は山積みです。教団の今後もふくめて、慎重に検討していかなければなりません」


「……、んぅ……っ」


 二人の話を聞いたベアト、思い悩んだ表情をしてる。

 家族と別れるのがさみしいのかな、って最初は思ったんだけど、なんか違うな。

 この顔、今この子が考えてることは……。


「……ベアト、もしかして自分も戻ろうか迷ってるの?」


「……っ!」


 やっぱり、図星だったみたい。

 自分よりも誰かのことを優先しようと考えてる、そんな顔だったもん。

 ベアトは少しびっくりしてから、観念したように羊皮紙を広げた。


『わたし、このままおうとにのこっていいんでしょうか。せいじょのいもうととして、なにかてつだえることがあるんじゃ』


「おバカ」


 こつん。


「あぅっ!」


『ないでし~√ ̄)』


 書いてる途中、リーチェがベアトの頭を軽く小突いた。

 おかげで文章が途中からのたくったミミズみたいに……。


「アンタ一人がいなくったって、パラディはどうとでもなるっての。そもそもアンタ、これまで一度も公務なんかしたことないじゃない。そんなんに居座られたら、かえってジャマよ」


「……ぅぅ」


「……ふふっ、リーチェはこう言ってるの。ベアトはなんの心配もせず、大好きな人の側にいてあげて、って」


「ちょ、ちょっと!」


 顔を赤くしながら声を上げるリーチェ。

 照れ隠しなんてせずに、素直になればいいのにね。

 あとベアトの頭叩くな。


「こ、こほん。とにかくっ、アンタはここにいてかまわないわ。……好きな人といっしょに居られるってのがどれだけ幸せなことか、じっくり考えなさい」


「ぁ……、……ぅんっ!」


 リーチェの優しげなほほえみ、初めて見た。

 でも、ベアトは前にも見たことがあるんだろうな。

 こんなにうれしそうに、元気よくうなずいてるんだもん。


「……さて、そろそろ失礼するわね。この後ペルネ女王にもあいさつに行かなければなりませんから」


「……っ」


「ベアト、さみしくなったらいつでも会いにきてね。お母さん――あなたのおばあちゃんも待ってるから、また元気な顔を見せてあげて」


 ベアトの頭をなでなでするベルナさん、やっぱりお母さんって感じだな。

 それからベルナさんは私の方へと顔をむけて、


「キリエさん、装置の方はいったん教団へ戻します。もしも装置が離れたことで力を失ってしまったら、すぐに会いにきてください」


「はい、わかりました」


 装置の有効範囲、未知数だもんね。

 エンピレオ戦では万全を期してすぐ近くに置いてあったけど、どのくらい離したら圏外になるのかよくわからないし、もしかしたら圏外なんて存在しないかもしれない。


「……あ、用事がなくても会いにきてくれてかまいませんよ? なにしろ新しい家族になるかもしれない人ですから」


「え、え……っ、新しい、家族って……」


 あれ?

 もしかしてベアトとそういう関係になったってバレてる?

 別に隠すつもりないけどさ。


「……っ!!」


 ベアトも顔、真っ赤にしてるし。


「わかりやすいのよ、アンタたち。じゃ、達者でね」


「またね、ベアト、キリエさん」


 最後にとんだ爆弾を落として、二人は出ていった。

 残されたのは、なんだか気まずい私とベアト。

 新しい家族になるって、その……、私とベアトが結婚……とか、そういう話、だ、よね……?

 いや、もちろん考えてないわけじゃないけどさ、それはずっと先の話で……。

 たとえば、私が本当に自然に笑えるようになったらその時は――とか、村行った時に考えたけども。


「……えと」


「……ぁぅ」


 ど、どうしようか、この空気。

 とりあえずむかい合って、ベアトの両肩に手を置いて……。


「あ、あのね、ベアト――」


 バターン!


「ただいまー! いやー、疲れたぞー」


「トーカ汗臭いですよ。さっさと風呂入るのです」


「女の子にむかって汗臭いってなんだよ……。……あれ、お前らどうした? 二人むかい合って顔赤くして」


「……なんでもない」


 トーカのおかげでおかしな空気は吹き飛んだ。

 けど、ホッとしたのか残念なのかはよくわかんない。

 たぶん……前者寄りの後者、かな。




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