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355 あの人を探して




「……ぅ、んぅ……」


 マドの外から差す朝の光に、私は重いまぶたを開けます。

 感じるのはお布団のぬくもりだけ。

 いつもそこにいるはずのあの人は、影も形もありません。


「……っ?」


 疑問符を頭の上に浮かべながら、寝ぼけまなこでキョロキョロ辺りを見回します。

 まずは眠気覚ましの状況整理。

 ここはお城じゃありません。

 お城、半壊状態で危なくって入れませんから。


 ここは比較的被害が少なかった王都東区画の、バルジさんのお店。

 その二階の、元はストラさんのお部屋だったところです。

 家具を運びこんで、とりあえず住める環境にもどしてあります。


 あの戦いが終ったあと、疲れきってしまったのでしょうね。

 キリエさんは深い眠りにつきました。

 昨日なんて丸一日、目を覚ましませんでした。

 あんなムチャをして戦ったから、でしょうか。

 それとも体じゃなくて心が休息を必要としていたのでしょうか。

 ともかく、私はずっとそんなキリエさんに寄りそっていました。

 今日も寄りそう気満々だったのですが……。


「……?」


 いませんね。

 キリエさん、どこに行ったのでしょう。

 ひとまず着替えて、羊皮紙の入ったかばんと羽ペンも持って、キリエさんを探しにいくことにしました。



 お店を出ると、そこは噴水広場。。

 王都が復興するまでの間、ほとんどの人は南の方にある村や、バルミラード、スティージュなどの友好国に避難しています。

 それでも、まったくいないというわけではなく。

 それなりの数の人が復興作業をしたり、商売の準備をはじめています。

 それから、なんだか食欲をそそるいい匂いが漂ってきました。


「……っ!」


 見れば広場の一角で、炊き出しが行われています。

 この匂いはなにかのスープでしょうか。

 起き抜けでからっぽのおなかがぎゅるぎゅると鳴って、誘われるままふらふらとそっちに歩いていきます。


「お、ベアトお姉さん、おはようございます。キリエお姉さん、まだ寝てるんです?」


 行列にはメロさんが並んでいました。

 ひとまず朝のあいさつです。


『おはようございます。キリエさん、おきたらいませんでした』


「そうなのですか? ベアトお姉さんを放置してどっか行くとは、珍しいこともあったもんです」


『メロさんもひとりなんですね。トーカさんといっしょじゃありません』


「べ、別にあたいとトーカは……っ、お二人と違ってニコイチじゃないですからっ! もう……!」


 わかりやすく照れてるメロさんがほほえましくって、思わず笑ってしまいました。


 大粒のお肉とお野菜がたっぷり入った透明なスープを食べて、すっかりお腹が膨れました。

 体もあったまって、元気いっぱいです。

 メロさんによると、トーカさんは特に被害の大きかった中央区画で復興作業を頑張っているらしいです。

 キリエさんの手がかりも特にないので、そっちにむかうことにしました。



 中央区画は、あの戦いのメインとなった激戦地。

 巨大なエンピレオの死体は溶けて消えてしまいましたが、それでも元に戻すのはとっても大変そうです。

 たくさんの騎士さんや兵士さん、そして魔導機兵ゴーレムたちがガレキや木材を運んでいます。

 当然、この魔導機兵ゴーレムたちを操っているのは……。


「……お? ベアトじゃん。おはようさん、と」


「……っ」


 トーカさんです。

 自分もおっきな木材を肩にかついで運んでいました。

 私とお話するために、よっこいしょ、といった感じで地面に下ろします。


『おはようございます。ふっこうさぎょう、たいへんそうです』


「確かに大変だよな。まったくハデにぶっ壊してくれちゃって」


 それ、獅子神忠ピレア・フィデーリスに言ってるのでしょうか。

 それともキリエさんに……?


「ま、魔導機兵ゴーレムで人手を水増しできっから、予定よりは早く終わるかも」


 百体くらいの魔導機兵ゴーレムがせっせと働く姿は、中々にすごいです。

 額の汗をぬぐいながら、それを見つめるトーカさん。

 その手首には、黒い玉のはめ込まれた腕輪。

 そうです、【機兵】はまだ健在なんです。

 【機兵】どころか、全ての勇贈玉ギフトスフィアが使える状態です。


「まさか、エンピレオが死んだあともコイツがそのまま使えるなんてな」


 だったら、中に入ってる魂もそのままなのか。

 そうではありません。

 勇贈玉ギフトスフィアの中に残っているのは、ギフトの力と戦闘経験値だけです。



 のたうち回っていたエンピレオが完全に絶命したそのとき、死骸からたくさんの白い光が飛び出しました。

 光の正体がなんだったのかは、よくわかりません。


 ただ、これまで食べられた魂のうち、完全に吸収されなかったものが解放されたのかも、とお姉さんが言っていました。

 「もしあの中にカインという人の魂があったなら、どうかノアに……」

 小さくつぶやいたお姉さんの横顔は、なんだか少し寂しそうで、とっても優しかったです。


 それからすぐに、みんなの持っていた勇贈玉ギフトスフィアにも異変が起きました。

 宝玉の中から、エンピレオから出たものと同じ白い光が飛び出して、消えていったんです。

 教団で勇贈玉ギフトスフィアを調べたところ、ギフトと戦闘経験値は残っていましたが、勇者の魂だけはいなくなっていました。


 クイナさんによれば、勇贈玉ギフトスフィアは強力な結界魔術。

 エンピレオが死んだとしても消えることはありません。

 ただし、結界の中に魂を縛り付けていたのはエンピレオの意志。

 それが消えたことで魂も解放された、らしいです。



 ともかく、全てが終わったあとも勇贈玉ギフトスフィアが使えて私たちは大助かり。

 歴代勇者さんたちが残してくれた置き土産。

 ありがたく使わせてもらいますね。


「……ところでベアト、今さらだけどお前一人か? 誰か探してたっぽいが……」


『キリエさん、おきたらいませんでした。みませんでしたか?』


「あー、キリエ探してんのか。アイツなら見たぞ。さっき城の方に歩いてった」


「……っ!」


 やりました、キリエさん情報ゲットです!

 トーカさんにペコリとおじぎをして、私はお城へダッシュします。


「お、おい、足元気をつけろよー!」


 だいじょうぶです、たしかにガレキは散らばってますけど、転んじゃうほどどんくさくありません。


 ぴょんぴょん飛んで、ガレキのないとこは走って、一目散にお城の方へ。

 どんどんどんどん近づいて……。


「……ぁっ、は……っ」


 ダメです、疲れました。

 エンピレオの呪縛が消えてから、体はとっても軽いです。

 いくら魔力を使っても疲れません。

 ですが、体力のなさは改善されませんね……。


「……っ、ふぅ……」


 息が整うまで休憩しましょう。

 どこか休める場所は――。


 ガッ!


「……!」


 キョロキョロ辺りを見回していて、足もとへの注意がおろそかになっていました。

 ガレキに足を取られて転びそうになってしまいます。

 腕をバタバタさせてよろめいた時。


 がしっ!


「……っ!」


「……ふぅ、間一髪」


 私の体は、誰かに抱きとめられました。

 ……いえ、誰かじゃないですね。

 このぬくもり、この匂い、そしてこの声。

 全部が私の大好きな。


「気をつけなきゃダメだよ、ベアト」


「……っ!」


 キリエさん、見つけました!




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― 新着の感想 ―
[一言] キリエ、あとはベアトの想いにこたえるだけだぞっ!
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