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「ベアト……? ベアトなの?」


「……っ」


 こくん、と元気よくうなずいて、にっこり笑うベアト。

 なんでここに、とか。

 さっきの治癒の光は、とか。

 そんなことはどうだっていい。

 あの子が生きてた、ただそれだけで十分だ。


「よかった……、本当に……」


『きいぃぃぃぃえあ゛あぁぁ゛ぁぁっ!! よぐない、よぐないわよ゛ぉぉぉぉぉッ!!!』


 思わず涙ぐみそうになったところに、そんな気持ちをブチ壊すクソみたいな金切り声。

 言うまでもないけど、もちろんジョアナの鳴き声だ。

 ヤツの体を生やしてるエンピレオは、幹のど真ん中に開けてやった穴から広がる沸騰に、苦しそうに身をくねらせている。


『どうじでこ゛ん゛なッ!! なん゛で生きて゛るの゛ッ!! 聖女はたし゛かに゛致命傷を゛ッ!』


「さぁね。アンタの勘違いじゃない?」


『そんなわ゛けな゛い!! た゛しか゛にあ゛の時、感じたの゛にィ゛ィッ!!!』


滑稽こっけいね、神託者ジュダス」


 髪を振り乱して絶叫するジョアナ。

 ヤツをあざ笑いながら、ベアトの後ろからリーチェが姿を見せた。

 その顔を見た瞬間、ジョアナはおどろきに目を見開く。


『聖女リーチェ!? なぜあなたがここに……ッ!!』


「その様子だと、先の攻撃はベアトを狙ったものだったようだけど。私もいることに気づかなかったのね。あははっ、とんだお笑いぐさだわ!」


『まさか、まさか、死にかけたのはあなたの方……!!』


「ベアトのおかげで助かったけれど、本当に死ぬかと思った。だから今、こうしてあなたの悔しがる顔を見られるのが本当にうれしいっ。あはは、あははははっ!!」


 悪い顔で高笑いするリーチェと、わなわなと震えるジョアナ。

 私の方もリーチェの言葉で、だいたいのことに納得がいった。


「……へぇ、なるほどね。だとしたらホントに無様で滑稽だ」


 きっとジョアナは、自分が思ってるほどエンピレオと深く同化できていない。

 かなり集中しなきゃ聖女の存在を感じられないし、おおまかにいるかいないか程度のことしかわからない。

 だからベアトとリーチェがいっしょにいることに気づけなかった。

 致命傷を負ったのがリーチェの方だったことにも気づけなかった。


「勘違いで得意気になって、あんなに勝ち誇ってたんだ。ジョアナ、アンタ最高にダサいね」


『き゜……っ、く゜っ……、うあ゛ぉああ゛あぁぁお゛おぉぉぉ゛ぉっ!!!』


 悔しがってる悔しがってる。

 自分の目論見がここまで大外れになるだなんて、思ってもいなかったんだろうね。


 実際のところ、ここまでジョアナを追い詰めるのは簡単じゃなかった。

 クイナと友達になれてなかったら、ベアトがリーチェを許せてなかったら、ケニー爺さんが助けてくれてなかったら。

 他にもたくさんの歯車の、なにか一つでも噛み合ってなかったら、きっとこうなってなかったと思う。

 でも悔しがらせたいから煽っとこ。


「ほんと無様、指さして笑ってやりたいくらい。で、ここからどうすんの? あんたの大事なカミサマ、死ぬほど苦しんでるっぽいけど?」


 エンピレオは花の部分についてる大きな口をガチガチ鳴らして、体全体をもだえるようにくねらせてる。

 叩き込んでやった【沸騰】の魔力が幹の真ん中から広がって肉を煮溶かしていった結果、私が開けた人間大の小さな穴は、超大型のモンスターでも楽々くぐれるほどに大きくなっていた。

 もう少し広がれば、真ん中からポッキリ折れちゃいそうなくらい。

 さすがのエンピレオも体の内部に魔力を流されたらどうにもできないみたいだ。


『黙りなさい黙りなさい黙りなさいッ!! まだよ、まだ終わってないッ!!! この程度のダメージ、人間の魂を喰らえばすぐに回復するわ!!』


「魂、ねぇ。具体的にはどうするの? エンピレオ、必死に私を喰おうとしてて、他には見向きもしてないよ?」


 聞き返しつつ、私にめがけて伸びてきた触手たちを斬り捨てる。

 戦いが始まってからずっと、エンピレオは私以外に興味を示さない。

 よっぽど私がおいしそうなのか、最優先で殺すべき危険な存在だと本能で感じ取ってるのか。

 肉でできた植物の気持ちなんかわかんないけど、ベアトたちの乗ったガーゴイルに興味を示さないのは助かる。

 いざとなったら守る自信はあるけどね。


『この盆地には、すでにこの子が根を張り巡らせている!! 結界で出られなくなった王都の人間たちを、私が根を操って喰らわせてあげれば……!!』


「残念、ソイツはムリな相談だ」


 今度はリーチェの後ろから、赤い顔の女の人が現れた。

 誰かと思えばグリナさん?

 あの人、どうしてベアトたちといっしょにガーゴイルに乗ってるんだ?


「王都の避難民たちは全員、予定通りに盆地の外へと避難済みだよ」


『な、なぜ……っ!? 盆地の外には絶対に出られないはず……!』


「この結界、半透明だよねぇ? 月の明かりもよく通す」


『ま、まさか……ッ!?』


「そのまさかさ。わたしの【月光】による瞬間移動。遮断するにはこの結界、いささか薄さが過ぎたみたいだね」


 そういうことか。

 この人ずっと、王都から避難してきた人たちを【月光】の力で近くの村まで送っていたんだ。

 つまり、もう盆地の中にエンピレオの食糧となる人たちは存在しない。


「……ってなわけだ、キリエ!」


 またまた今度は、グリナさんの後ろからトーカがひょっこり顔を出す。

 操縦してなくて大丈夫なの?

 自動操縦ってヤツかな。


「装置もベルナさんたちといっしょに、グリナさんが盆地の外ギリギリまで運んでくれた。もう何にも遠慮しなくていい、思いっきりブチかませ!」


 拳をグッと突き出して笑うと、トーカは急いで操縦席へと戻っていった。

 やっぱ操縦してないとまずいのか。


「……うん。みんな、何から何までありがとね」


 ここまでおぜん立てされたら、やらないわけにはいかないよね。


『あっ、あ゛ぁ……っ、ああ゛ぁぁあ゛あぁぁ゛あっぁあ゛ぁぁぁっ!!!! どうして、なんで、全て゛が完璧だったは゛ずなの゛にッ!!! どうし゛てこ゛うな゛ったの゛よぉ゛ぉぉぉぉっ!!!』


「さぁね、私の村を焼いた時から全部決まってたんじゃない? この私に、殺されることまで含めてさ」


 さぁ、復讐の時間だ。

 せいぜい死ぬまで泣きわめけ。




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